はっちゃんZのブログ小説

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87.秋の道東旅行4(屈斜路湖湖畔から知床へ)

温泉から静香と美波が部屋に戻って来て早速「レストランルーペーニュ」へ向かう。
このレストランは、天井高約10mの開放感あるダイナミックな空間でガラス張り窓からはライトに照らされた大きな池と深い緑の森が見えている。
食事は和洋中の料理が揃っているブッフェ形式で室内中央にはライブキッチンがあり、
シェフのすばらしい手元の動きや出来て行く料理を目の前で楽しむことができた。
案内された窓際の席から、いつもの様に子供二人を連れて料理の方へ向かう。
ここで宿泊客が列を作っている料理は、「ローストビーフ」と「溶けたチーズ乗せ」だった。
大きな絶妙な焼き加減の塊肉のローストビーフをシェフが目の前で切り分けてくれる。
目の前にあるお好みの食材に高温で溶かしたあつあつのゴーダチーズを注いでいる。
雄樹も夏姫も好きな物を選んでいく。
火傷をしても困るので湯気の出ている物は慎一が取って並べて行く。
雄樹は、「ローストビーフのミニ盛」「北海道産鶏の棒棒鶏」「エゾシカ挽肉のスパイシーカレー」「鮭とコーンのバター―チャーハン」「北海道産ベーコンとアスパラガスのピザ」を小皿に盛り、
夏姫は、「自家製フランスパンとジャガイモの溶かしチーズのミニ盛」「北海道産牛乳トウキビのピザ」「タンドリーチキン弟子屈ジャガイモのチップを添えて」「北海道産にこだわった焼売」「野菜サラダ」を小皿に盛ってトレーに載せてゆっくりと慎重に歩いて席へ戻って行く。
すでにテーブルには幼児用の席と静香が二人の大好きなリンゴジュースをセットしている。
慎一は、「ローストビーフ・ピリッと北海道産山ワサビ添え」「自家製フランスパンとジャガイモの溶かしチーズ」「タンドリーチキン弟子屈ジャガイモのチップを添えて」「海老と玉子のチリソース煮」「刺身お作り(甘えび、サーモン、アブラカレイ)」「カレイのフリット」「ホタテの塩辛」を小皿に盛りトレーに載せて戻った。
美波は、二人分の「ローストビーフ・ピリッと北海道産山ワサビ添え」「自家製フランスパンとジャガイモの溶かしチーズ」「ボロニアソーセージと弟子屈クレソンのハニーマスタード」「インゲンとカシューナッツの冷菜」「サーモンのプロバンス風」「蟹焼売」「花咲蟹の鉄砲汁」「弟子屈の椎茸・ししとうの天ぷら」「四川麻婆豆腐」「野菜とビーンズのサラダ」を小皿に盛りトレーに載せて戻った。
慎一と静香は頼んでいたビールと美波はレモンスカッシュで雄樹と夏姫も一緒に乾杯した。
慎一と静香がビールをグイッと飲んで同時に『アー・・・美味しい』と言うと
子供達も笑いながらその真似をして『アー・・・美味しい』と言っている。
美波は弟妹のそれを聞いて『二人とも大人になったらお酒飲みになるかも』と大笑いしている。
どの料理も本当に美味しくて、気がついたら軽く大ジョッキが空いていることに気がついた。
今度は水割りを頼んで料理をドンドン平らげて行った。
粗方ビュッフェの料理を平らげる頃、
今度は静香と美波が交代で子供達を連れて行き、デザートを取りに行っている。
ビュッフェのデザートコーナーには色々と美味しい物が揃っている。
コーナーへ行きパッと目に入って来るのは、
クーベルチュールショコラ
これはベルギー産クーベルチュールチョコレートを使用したムースに、照明の光が反射している艶やかなグラサージュをかけ、高級感のある外観に仕上げた濃厚な味わいのチョコレートケーキ。
パンナコッタ
とろっと濃厚な味わいとなめらかな口どけが魅力のイタリアを代表するデザートのひとつである。
生クリームの濃厚な味わいとツルッとした舌触りがおいしい。
その他、真っ白のレアチーズケーキ、柚子ゼリー、ソフトクリーム。
フルーツとしては切り分けられたパイナップル、キウイ、オレンジが盛られている。
静香や美波そして子供達は、目を輝かせながら、パフェ用食器へソフトクリームを入れて
その周りに彩り良くフルーツを盛り付けてフルーツパフェにしている。
雄樹は口の周りを真っ白にして頬ばっているし、夏姫は美波を見習いながらお淑やかに食べている。

家族全員で部屋の戻り、慎一はテレビを見ながらゆっくりとしている。
静香と美波は窓際の椅子に座って、
お茶を飲みながら秋の明るい大きな月に照らされた屈斜路湖湖面を見て笑って話している。
子供達は家から持ってきたおもちゃをベッドの上に出して遊んでいる。
しばらくするとおもちゃを持った夏姫が膝に座って凭れておもちゃで遊んでいる。
雄樹もそれを見て、慎一の隣にくっ付いてきておもちゃで遊んで話しかけてくる。
ふと東館にゲームコーナーのあることがホテルの案内に載っていたので行くことにした。
子供二人を抱っこして色々とお話しながら歩いて行く。
おもちゃコーナー独特の楽しそうなミュージックが流れて来る。
ここには大人も楽しめる体験型ゲーム機もたくさんあり子供用のおもちゃゲーム機もあった。
アニメ主人公の車に乗ったり、ワニワニパニックゲーム、太鼓の達人ゲームなどに挑戦させた。
プリキュアの車には夏姫が、アンパンマンには雄樹が乗っている。
その後、ワニワニパニックゲームは雄樹が大いに気に入り、
太鼓の達人ゲームは夏姫や静香や美波も気に入ったみたいでキャアキャア騒いでいる。
最高得点を出して満足した雄樹と好きな歌のリズムをうまく叩けた夏姫は満足している。
部屋に戻ると雄樹がどのベッドで寝るのか全てのベッドに順番に寝転んでいる。
夏姫は『私は美波姉ちゃんと一緒に寝る』と言って美波へ抱き付いている。
そして雄樹は『僕は一人でこのベッドで寝る』と言っている。
しばらくすると雄樹は寂しくなったのか『僕が寝るまではここに居て』と母にお願いしている。
その夜は子供達も硫黄山で歩いたり砂湯や楽しいゲームなどで疲れたのか早めに寝ついた。

翌朝は子供達の目覚めと共に早めに起きて、
予約していたホテル1階の「レストラン ルーペーニュ」へ向かう。
ここで朝食用バスケットを受け取り、レイクサイドガーデンへ向かう。
そのレイクサイドガーデンは、その名の通り
目の前が朝靄に沈む屈斜路湖畔に面しており、ときおり爽やかな風が吹いてくる。
朝食バスケットの内容は、
◆北あかりのポタージュ          
◆北海道産卵のスクランブルエッグ 
◆十勝の森放牧育ち どろぶたボロニアソーセージ 
◆北海道産厚切りベーコンのグリル
◆白糠酪恵舎モンヴィーゾのシーザーサラダ
◆べつかいのヨーグルト屋さん
◆フルーツの盛り合わせガーデン風
◆べつかい牛乳パン・摩周そば粉のフィセル と種類も多くとても豪勢な内容だった。
家族全員、北海道の豊かな自然の中で新鮮で美味しい空気と料理に舌鼓を打った。
屈斜路湖摩周湖と同様に朝はうっすらと霧に包まれている。
その湖面の霧へ太陽の光が湖面を射すと
湖面に漂う霧は大きく動き始め深い青色の湖面が顔を出し始める。

この場所では、グランピング宿泊テントもあり夕食も取ることが出来るようだ。
その他、テントサウナという珍しい施設もありキャンプ感覚で楽しむことが出来るらしい。
またここでの夕食プランの内容は例としては、以下である。
◆ポーク(豚)ジンギスカン 
◆豚バラの串焼き 
◆ひな鶏の串焼き
◆道産帆立・イカ 
◆ウィンナー 
◆手作り芋団子 
◆地場産焼き野菜
◆焼きおにぎり
その他のホテルイベントとしては夏の期間限定で「屈斜路湖夕涼み遊覧クルーズ」もあって、
長い間ホテルに滞在しても楽しむことが出来そうだった。

雄大屈斜路湖畔の自然の中での朝食と言うオシャレな時間を満喫してホテルを出発する。
今日の予定は、いよいよこのたびの最終目的地である知床半島へ向かう事である。
途中に見る場所はあってもそこで時間を使うと知床半島での観光があまりできなくなるため
午前中は必然的に車中の時間が増えてしまう事になるが、子供達用に持ってきたテレビ番組や映画のDVDを車内ビデオに流しながら移動することとしている。
パイロット国道を北上し、昨日に訪れた美幌峠を越えて美幌国道で美幌町方面へ向かう。
途中右折し249号線へ入り大空町へ向かい道なりに走ると334号線知床国道へ突き当たる。
右折しただひたすら道なりに走るとこじんまりとした小清水町が見えてくる。
そこから小清水町を越えて清里町が見えてくると最初の休憩地である斜里町は目の前である。

「道の駅 しゃり」の駐車場に車を停めてトイレ休憩をする。
この道の駅は、JR知床斜里駅から徒歩5分の場所にあり訪れる観光客も多い。
道の駅の中にはレストランや喫茶軽食の店もあったが、今夜もホテルバイキングだし、まだ昼には早いのでジュースを買った。
ジュースを飲みながら駅内を歩くと
なぜか「ねぷた山車」が展示されている。
この色彩鮮やかな山車は毎年7月に行われる「しれとこ斜里ねぷた」の山車らしい。
以前青森県弘前市へ桜の花桟敷を見に行った時に観光館があって見た記憶が蘇った。
不思議に思いこの地と弘前市の関係をネットで調べて見ると、
知床の斜里町青森県弘前市の"ねぷた"の関係が見つかった。
今から200年以上も前のことで、1807年、オホーツク海沿岸でのロシア軍艦による砲撃や略奪に対して、幕府が津軽藩を北方警備に当たらせたことが発端だったようだ。
北方警備を命じられた藩士100人にとっては、知床の冬は予想以上に過酷だった。
赴任当時は秋の季節、漁場に建てられた粗末な小屋で暮らし、赴任時に持参した米と味噌で食いつないだ。季節的にもう山菜はなく、売り物として扱われる川魚を捕ることや、アイヌからの支援を受けることさえも禁じられていた。その上、急な出発命令だったため、着の身着のままだった藩士たちは厳しい寒さ、栄養不足と飢えで次々と倒れ、春を迎える頃には、わずか28人になっていたらしい。この惨たらしい事件は、藩士の引き揚げ後、藩は民心に動揺が広がるとして関係者を口止めにし、事件の記録を“封印”した。この惨たらしい事件に関して、斜里町には死亡者名簿が残されていましたが、具体的なことは分からずに、本事件は永遠に闇に葬られるはずでした。
しかし、1954年、「他見無用」と書かれた藩士の日記が、東京・神田の古書店で見つかったことで、事態は一変する。そして翌年に斜里町史にも掲載され、ようやくこの事件は明るみになった。
その後、地元の郷土史研究家らによる慰霊碑建立の機運なども盛り上がっていき、弘前市との交流のあった「津軽藩士殉難慰霊碑を守る会」の名誉会長・日置順正氏の尽力から、現在ある知床博物館の裏道を上がった町民公園に、1973年に「津軽藩士殉難慰霊の碑」が建立された。
その後、斜里町は、慰霊碑を建立して以来、毎年町民の手で慰霊祭を行っていたことが縁で1983年に青森県弘前市と「友好都市」となり、両市の交流が盛んとなり、当時亡くなった藩士たちの霊を慰めるために、「知床ねぷた」は2日間にわたり開催され商店街を中心に知床の夏を彩る最大のお祭り「しれとこ夏まつり」として開催されている。

少し館内を行くと何と大きな水槽に「クリオネ」が展示されている。
これには雄樹も夏姫は走って行き水槽に額を付けて「可愛い」と喜んでいる。
ふとピアノの音が流れていることに気がつくと観光客らしき人が弾いている。
ここでは「ストリートピアノ」が設置されていて、誰でも弾けるようだった。
実は札幌市南区にあるコープさっぽろにも同様な「ストリートピアノ」が置かれている。
家族で買い物に行った時に腕に覚えのある人がピアノを弾かせているのを聴いている。

しばらく休憩して334号線知床国道を東へ向かい次の目的地の知床峠を目指す。
知床国道の左側は一面オホーツク海で蒼い海が広がっている。
やがてこじんまりとしたウトロの街が見えてくる。
今夜宿泊予定の知床第一ホテルの場所を確認しつつ道なりに進んでいく。
港湾内には明日の朝に乗る予定の知床半島観光船の姿が見える。
遠音別村を越えて知床横断道路を進んでいく。
左折「知床五胡」の看板を越えてただひたすら走る。
道の両側は、紅葉がどんどん深くなり、風の吹き渡る空には雲一つない青空が広がっている。
ふと気づくと両側の色づく木々が徐々に低くなり空が一面に広がる場所「知床峠」に到着した。

知床峠は、斜里町ウトロと羅臼町を結ぶ国道334号の峠で、知床八景の1つにも選ばれている。全長27kmの曲がりくねった峠道、知床横断道路の最頂部にあたる標高738mにあるビュースポットです。
真正面に羅臼岳、眼下には深緑の大樹海、天気が良ければ、遠く根室海峡とそこに浮かぶ北方領土の一つである国後島を望む大パノラマを楽しめる。ただ、この一帯は気候の変化が激しく雪崩や崖崩れなどの可能性もあるため、降雪により北海道内の国道で唯一通行止めになることがある。また、知床横断道路は11月初旬~4月下旬は通行不能となるため、日本一開通期間が短い国道と言われている。

知床峠展望台には広い駐車場があり既に数台駐車されている。
展望台に設置されている知床峠の石碑の前で観光客が写真を撮っている。
子供達も久しぶりに外に出れて嬉しいのかそこじゅう走って行っては色々と見ている。
やや冷たい風が吹く中で紅葉に彩られた雄大羅臼岳や天頂岳が見える。
今日は幸運にも快晴のため、ネット情報通り、
うっすらと北方領土国後島が深い蒼い根室海峡の向こうに浮かんでいた。
改めてその距離の近さを目にした時、
終戦時のソ連による一方的条約破棄による現在も続く不当占拠を思い出し忸怩たる思いが蘇った。
その思いを振り切って気分を切り替えて家族と知床第一ホテルへ向かった。

知床第一ホテルは、1970年に設立され、1990年にお料理を一番美味しい状態でご提供し、お客様の好みに応じて利用できるバイキングスタイルのお食事を採用した。この方式をホテル業界で真っ先に採用したことから注目を集め人気を博した。そしてバイキング日本一の称号を獲得したホテルである。
広い駐車場に車を停め、ロビーに向かう。
広く開放的なロビーで華やかなカーペットで彩られている。全面ガラス張りのラウンジで、青いオホーツク海や知床の大自然を一望できる。フロントでチェックインして予約している至然館の和洋室の鍵を受け取った。

13.シシトー神教団と令和獅子党の躍進(第8章:占い死)

徐々に『シシトー神の館』の噂が一般人の口の端に上り始め
最初は興味本位の人も多かったが、一度面会して占って貰うと感激し、
それがSNSなどに囁かれ始めると深い悩みを持つ多くの人々から、
『もっとシシトー神の館を増やして欲しい』との願いが多く寄せられた。
その願いを受けて『シシトー神の館』側としては、
何とか深い悩みに身を焦がしている人たちを救うべく、
元々置かれていた『シシトー神教団』と同じ場所へ小部屋で『シシトー神の館』を開店した。
場所は東京を本館として、札幌、仙台、名古屋、大阪、神戸、広島、福岡に開かれた。
その場所には『シシトー神教団』と『令和獅子党』の本部や支部が置かれている。

ここで問題は、神様のご神託を聴ける姫巫女は一人しかいないため、
各館へ毎日の様に姫巫女を移動させるのは無理があった。
そこで全国の多くの悩みを聞くために、占い方式を『リモート』とすることになった。
予約順に全国各地の『シシトー神の館』にある占い部屋のリモート画面で
天座に座り踊る姫巫女と向き合い悩みを相談し解決していった。
人間と思えないほどの長い時間、
人の幸せのために占いをしていく姫巫女。
その神懸かりとも思える行動に感銘を受け、それがSNSへ配信される。
そのたびに『シシトー神の館』への予約は急激に増えて、
占いを終わるたびに『シシトー神教団』へ入信する人が増えていく。

最初、渋谷駅前に『シシトー神の館』に開いた当初は、
若い人が中心で関東圏からの客だけだったものが、
今となってはいつの間にか口コミで全国へ広がり始め
多くに人から館を増やす要望が増え続け、
それに応えるとなおさら予約は増える一方だった。
そんな中でも、
姫巫女は寝る間も惜しんで精力的な占いにて全国の人々の悩みに向き合った。
その真摯な姿勢に占い客も感激し更に教団信者は増えていく。

クモ助と天丸から情報では、
占いのリモートの装置に関しては、
IT企業でプログラマーをしていた事務長の鷲が作成したもので、
鈴女以外が話す声も鈴女の声に変えられ、踊りも何種類もあり、
表情も数パターンあって姫巫女の顔は差し替えられたものだった。
非常に細かい画像処理をしているため普通は気がつかなかった。
このことを知っているのは、宍戸家の兄弟だけである。

実はリモート占いを実質的に実施しているのは鷹だった。
館が出来てずっと現在まで鷹が占い客本人の個人情報を読み取り、
それを文書として姫巫女の鈴女に伝え、
鈴女の口から神託としてまたは占い結果として客へ進むべき方向を伝えた。
すると占い客は、誰も知らない自分の秘密を語られ驚き、
自らが内心望む方向を指し示して貰ったおかげで物事をスムーズに進めることができた。
鷹はなぜかリモート画面の映る人物の悩みや個人情報でさえも知ることが出来た。
その理由がわからなかったが、彼の行動からある程度読み取れた。
それは鷹が定期的に政党支部を回る時にシシトー神の館の占い部屋を訪れ、
必ず占い客や支部長の部屋の壁に描かれているシシトー神の象徴『北極星』へ、
祈りながら両手でそっと大切に長い間触っていることから、
もしかしたらその時にあの黒い影の粒子を宿らせているのかもしれないと考えた。
こういう霊力の道は、何らかの方法で最初に一度強い霊力で通じさせると
その後はどんな遠距離であってもどんな場所からでも作用させることができた。
鷹の身体から伸びる霊力の道が、常に繋がっている状態となっている。
その霊力の道の原因となるものは、あの黒い物質であり、
支部が非常に地脈の濃い場所に立っていることから
それを動かすためのエネルギーとなるものは、地脈ではないかと遼真は推察した。

じわじわと勢力を伸ばした『令和獅子党』は、
とうとう衆院参院選共に3名ずつ当選者を出し政党要件を満たした。
特にこの政党の候補者全員が女性で、年齢も政治家の中では若かった。
日本は先進国の中でも女性議員の数が少なく批判されていたことも時流に乗れた。
その上、彼女たちは元アイドル歌手や元モデルばかりで見映えも良く、
元々の知名度もあるが、それ以上に彼女たちは、
政治や経済について大学や大学院へ再び入り直し高学歴となり、
学問の裏付けを持って立候補したため非常に人気が出た。

ここで政党要件の説明だが、
政党として認めるための条件で以下がある。
(1)現職の国会議員が5人以上所属している、
(2)前回の衆議院議員総選挙か、前回か前々回の参議院議員通常選挙のいずれかで、得票率が全国(選挙区か比例代表のいずれか)で2%以上ある、のいずれかを満たす必要がある。
そして政党になれば、以下4要件が可能となる。
(1)政党交付金の交付対象となる。
(2)政治献金は、企業や団体から政治献金を最大年間1億円受け取ることが可能、個人献金の受取上限額を年間2000万円まで可能となる。
(3)衆院選公認候補は政見放送を利用でき、参院選公認候補は、スタジオ録画や持ち込みビデオも可能。その他にビラ(11万枚)や政党パンフレットを無制限に配付でき選挙カーの台数も増やすことができた。
(4)政党は衆院選小選挙区の候補者を比例代表でも重複立候補させることができる。

『令和獅子党』には、“十の約束”というものがある。
これは政党としてのマニュフェストである。
一.日本の国土を守る
  首都移転。地震など災害から国土を守る。外国勢力による侵略から国土を守る。
  日本国軍の創設。防衛装備の拡充。有事及び離島へのロボット兵及びAI兵器の配備。
  離島国営化及び保全整備による消滅回避。専守防衛から先鋭的専守防衛への転換。
二.日本人の命を守る
  防衛力の強化。官民一体となった防衛技術の開発及び輸出の推進。
  災害に強い街の構築推進。スパイ防止法制定。国会議員の国籍公開。
  外事警察及び国内警察力の強化。AIによる悪意のSNSへの監視。
  裁判及び法律の凡例主義からの脱却。外国人犯罪者の国籍と氏名の公表。
三.日本人の社会生活を守る
  センターシティ構想の実現。消費税減税。企業の内部留保及び宗教法人への課税。
  国内企業の海外資産への課税。高校までの授業料や学校給食の無償化。
  少子化の脱却。在日外国人への日本生活への教育指導。凶悪犯罪への厳罰化。
  社会のシステム維持に必要な犯罪者の位置情報監視による管理。
四.日本人の心を育て守る
  宗教庁の新設。日本人として誇りの持てる国史教育の確立。
  LGBTQ?など多様性社会の推奨。国民全員参加での宗教による人権侵害の防止。
  ロボット及びAIによるケアへの対応。虐めへの公的通報制度設置。
  家庭内・職場内・社会的ハラスメントの厳罰化。ハラスメント監視員の設置。
五.日本人の健康を増進し守る
  未成年及び高齢者医療の無償化。先進医療の開発。違法薬剤犯罪の厳格化。
  科学技術の発展により食料自給率超50%の達成。生活保護等貧困家庭への現物支給。
  在日外国人及び法人への医療制度運用の見直し及び厳格化と期間別保険料の徴収。
六.日本人の教育を育成し守る
  高校生まで公立校の教育費無償化。学校教師資格の定期的査定による厳格化。
  学校教師への生徒からの投票制度の導入による教育環境の改革。
  国費による科学技術発展のための人材育成。自由民主主義思想の徹底。
  高校卒業までのSNS禁止。近隣諸国条項の廃止。日本国史へ神話時代の復活。
  外国語翻訳機又は統一アプリの無償配布。国費による海外留学制度の推進。
七.日本の資源を開発し守り活用する
  日本の国土及びその周辺に眠る天然資源の開発と活用。エネルギー問題の解決。
  低炭素社会用技術開発の推進。核融合発電の推進。
八.日本の経済を大きくし国民の利益を守る
  日本政府の特別会計及び一般会計の一本化。国民への投資の推奨。
  財務省の解体(再出庁と歳入庁に分解)。科学技術の発展へ注力。
  公営以外のギャンブルの禁止。国際的知的財産権保護推進。
  国民全員参加による労働市場の拡充及び国力にあった賃金上昇。
九.日本の空を守る
  宇宙空間デブリの回収と再使用。商用衛星の防御。攻撃型衛星の打ち上げ。
  近隣外国勢力からの気球及び人工衛星によるスパイ行動及び攻撃からの防御。
十.マイナンバー制度の拡充
  個人の戸籍・健康情報・免許証・資産等の一括管理による税金の明瞭化。
  量子AIによる全ての国民個人情報の管理。
  スマホ等使用機器とマイナンバーの連動登録による違法行為の阻止。
これら“十の約束”の大きな表題は、令和獅子党の立ち上げの時に
黒い十房の鬣を持つ獅子の顔の絵柄を党旗とした理由と共に説明されている。
このたびの選挙で令和獅子党は、国民から政党として認められ、
今度の選挙以降は比例区での立候補も可能となった。
つまり姫巫女であろうが鷹であろうが、
立候補が可能になり当選も可能になったのだった。

宍戸 鷹は定期的に政党支部や支店へ顔を出しているが、
支部長から毎日の様に相談と称する鷹への面談希望が多かった。
10支部支部長は、現在の国会議員が6名、次期選挙立候補予定者が4名で
徐々にたくさんの優秀で真面目な人材が集まってきている。
政治に変な野望を持った人間や邪な考えを持った人間が入って来ても
すぐに身体を壊していつの間にか辞めて行っている。
シシトー教団信者である彼女たちは、
最初は不幸な逃れられない事情に迷いそして傷つき、
深い悩みを持ちながら『シシトー神の館』を訪れた。
その結果、現在己に降りかかっている不幸は無くなり
彼女たちの悩みは解消され前向きに自らの道を見つけ、
辛い過去にあったことを忘れたかのように明るく歩み始めている。
彼女たちは、教団の教え通り可能な限り北天に座する極星である“北極星”へ深く祈る。
現在問題となっている寄進についてだが、
教団からはシシトー神へ祈ることを勧められるだけで寄進に関する話は一切出ない。
ただ信者たちは自ら進んでシシトー神へ感謝を捧げそのお礼として
本人が決めた現在の生活を壊さない程度の無理をしない寄進をするだけだった。
その寄進を受ける場所も、教団内の祈りを捧げる部屋の隅にポツンと
シシトー神の象徴が彫られたポストの様な大きな金属の箱が置かれているだけで
寄進を入れる箱の傍には誰もついておらず、寄進したことは神様しかわからなかった。

彼女たちを深い絶望の淵から救ってくれたのはシシトー神様であること、
シシトー神様のご神託を姫巫女がお伝え頂いていることは理解しながらも、
彼女たちの深く傷ついて立ち直った自らの心が、理由はわからないながら、
本能的にシシトー神様と共に鷹の存在を感じている様だった。
シシトー神の神託を届ける姫巫女の鈴女としても、
神の巫女である自分よりも兄の鷹へ注目が集まり、
支部長から多くの面談の依頼のあることを悪くは思っていない様だった。

彼女たちと鷹との会話からわかったことは、
今まで彼女たちに纏わり付き、
彼女たちの心を地獄の底に叩き込んできた
少年法で守られた虐めを行う殺人者、
恫喝の暴力ヤクザ、
DVでギャンブル狂のヒモ男、
セクハラ変態プロデューサー、
外国人へ売春斡旋する社長などの最低で糞な男達は、
シシトー神の神託通り、
抗争による死亡や交通事故や突然死や急性の血管疾患による入院など
彼女たちを苦しめる者は次々と彼女たちの目の前から消えて行った。
その後の継続的な彼女たちへの鷹からの様々な導きや応援が、
傷ついた彼女たちの心を癒し、
彼女たちの見たことも無かった将来の夢を見せた。
それらは彼女たちに自信を持たせ、この国の政治や経済などの現状を憂い、
そして自ら変えようと決意させ、最後には国政選挙へ打って出る勇気を持たせた。
彼女たちは今後の事でわからないこと、
不安なことがあれば全て代表の鷹へ相談した。
鷹がいつ寝ているのかわからないが、
24時間いつでも彼女たちの相談に乗ることができた。
不安で塗りつぶされた彼女たちの瞳が鷹の笑顔を見ると和らぎ落ちつき始める。

ある代議士からの肉体関係への誘いがしつこくて断っても諦めない事案があった。
最後には逆切れしてヤクザを使うと脅しが掛かってくる事態となり
警察にそのことで相談しても、
警察からはその代議士と仲が良いのかやんわりと断られ、
その代議士の意向に沿う様な力を感じたので鷹に相談してみると
シシトー神様からのご神託で『心配しなくていい』と言われたと告げられる。
しばらくすると、ご神託の通り、
その代議士は高速道路を移動中に大事故を起こし重傷を負い政界を引退した。
事故の原因は、運転手がまだ若いにも関わらず突然脳卒中を起こしたことだった。
また別の事案では、
過去に撮影したグラビアから変な中傷記事を出すぞと脅されたとのことだったが、
なぜかその記者はその翌日に急に行方不明になり現在も見つかっていない。
このように彼女たちの政治家として不利なスキャンダルは事前に全て消えて行った。
彼女たちはシシトー神様に自らが選ばれ守られていることを意識している。

遼真はこれらの情報を知るにつれて、
彼女たちからは辛い過去の記憶に痛みが全く感じられないことに疑問を抱いた。
人間は辛い過去があればその痛みを時折思い出すことが普通なのである。
母親の鶴は、夫の位牌へ毎日の様に声を掛けているが、
長い間、夫から自分や子供達が家庭内暴力を受けていたことが、
全く記憶から無くなっているのか、夢の中の出来事の様に認識されている。
この傾向は、他の信者も同様であった。
暴走族から酷い暴行を受けた姫巫女の鈴女にしても時折悪夢にうなされてはいるが、
お守りをじっと握っているとすぐに幸せそうな顔つきに変わっている。

12.霊査5(怪死の現場)(第8章:占い死)

翌日、宮尾警部へ連絡して過去の怪死のあった現場への立ち入りを相談した。
先ずは野党最大政党である博愛民主党の武藤政調会長
愛人の銀座のママの上で腹上死した都内のあるホテルの一室へ向かった。
ホテルも警察の要請ならば断わることは出来なかった。
もう警察の現場検証のテープは無くなっているが、部屋はまだ使われていなかった。
死体の出た部屋なのでホテルとしてもすぐに客を案内することは出来ない様だった。
宮尾警部と小橋刑事と3人で部屋へ入る。
立派な備品の備え付けられた特別室で大きなベッドがあった。
遼真は、霊獣キインを胸ポケットに入れて
大きなダブルベッドへ座り、掌をシーツに這わせる。

遼真の脳裏にテレビでよく見る武藤の脂ぎった顔が現れた。
お酒をだいぶ飲んでいるのか既に足元がふらついている。
「ムーさん、危ないわよ。今日は飲みすぎじゃない?」
「だいじょーぶだー。あ〇ーん」
「まあムーさん得意のモノマネね。今日は良い事があったのね」
「そう、今日は良い日だぞ」
「そろそろ代表選だし、もしかして・・・」
「そうだ。さすがママだな。今度代表選に出る事が決まった。
 各派閥の主だった者に聞いたら俺で決まりらしい」
「さすが”現在の水戸黄門様”だわ。良かったわね」
「ははは、この印籠が目に入らぬか」
「もう、それは印籠じゃないでしょ?医学的には陰嚢よ。
 ふふふ、わかったから、そんな可愛い物を押し付けないの。
 今夜はゆっくりできるでしょ?焦らないの。
 夜はまだまだ長いんだからね」
「せっかくお前に知らせようと真っ先に電話したのに」
「わかったわよ。じゃあ一緒にお風呂に入りましょ」
しばらくして二人は、
バスルームから出て来てベッドへ流れ込む。
「ママー、いつものお願い」
「はいはい、わかりましたでちゅよ。
 力ちゃんはいつまでも赤ちゃんでちゅね」
「あい、ぼちゅは赤ちゃんでしゅ。ママおっぱい」
「はいはい、大きな赤ちゃん、たっぷり飲んでね」
強面の武藤がママの豊満な乳房を赤ちゃんの恰好をして吸っている。
「ママ、おしっこしちゃったよ」
「はいはい、さあオムツを替えましょうね。
 あらあらこんなに元気になっちゃって可愛いわ」
もう70歳である武藤は、モノを硬く大きくさせている。
「ふふふ、もう可愛いから食べたくなっちゃう」
「あーん、ママ、気持ちいいよー。もう我慢できないよ」
「わかったわ、力ちゃんおいで」
「はーい、ここからは成長した俺を見せてやるぜ。ダッ〇ンダ」
「はいはい、優しくしてね。
 うっ・・・ああ・・・素敵・・・とても気持ちいいわ」
「・・・・・・・・・」
「???
力ちゃんどうしたの?
全然動かさないけどどうしたの?
すごく重いわ。
ねえ重くて息がしにくいからどいてくれない?」
「・・・・・・・・・」
「えっ?・・・
 キャー、ムーさんどうしたの?目を開けて」
武藤は、局部を屹立させたまま青黒い顔色でベッドへ倒れている。
その後、ママが秘書へ電話連絡をして急いで部屋から出て行った。
それからしばらくして秘書たちが部屋へ来て荷物を片付けていく。
武藤の死体を革製の袋に入れて車へと担いで行く。
しかし、運の悪い事に普段から武藤を追っていた雑誌記者が、
銀座のママとの浮気現場の特ダネをニュースにしようと待っていた。

その時、遼真はそのシーンを見つめている存在を感じた。

どうやらその存在の視線は向かいのホテルからのようだ。
その視線方向へズームアップさせていくと向かいのホテルの7階の角部屋だった。
宮尾警部にそのことを伝えて、
武藤議員が死んだ当日に向かいのホテルの該当する部屋を借りた人間を調べて貰った。
客の名前は『渋谷区 進藤 孝雄』と記載されていた。
監視カメラ映像でその男を調べるも
深く帽子を被りマスクをしてサングラスを掛けていたため人相はわからなかった。
戸籍を調べるもその氏名の人間は存在しなかった。

次に3年前に馬場元総理を殺したテロリスト出口が亡くなった留置場の部屋へ入る。
出口が死んでいた粗末なベッドに掌を這わせる。
遼真の脳裏にテロリスト出口の顔が浮かんでくる。
出口はニヤニヤしながら
「俺はとうとうやったぞ。俺の心の仇を討ったんだ。
 馬場の驚いた顔を思い出したら笑いが止まらない。
 今まで俺を貧乏だとか馬鹿だとか言ってた
 街や同級生の奴らもきっと俺のことを見なおすだろう。
 俺はお前たちのために、この社会のために馬場を殺したんだからな」
留置場の窓から夜空を見ている。
今夜は新月のせいか星明かりがいつもより強く感じる。

出口は気持ち良く窓から入る涼しい風に目を細めている。
じっと夜空を見つめていた出口が突然苦しみだす。
「ぐっ・・・くる・・・しい」
と両手が心臓の辺りで強く握られて倒れていく。
その苦しみに歪んだ目は、星の瞬きを見ていた。
出口の視線の先には北極星が輝いていた。

遼真は再び何かの視線を感じた。
霊獣キインの目に映る出口の死んだ顔から黒い影の様な粒子が湧き出てくる。
その粒子は、開けられた窓から近くに停められた車へと流れていく。
遼真の視線がズームアップされて車へと向かう。
そのウィンドウからじっと留置場を見つめている男が見え始めた。
その男は「宍戸 鷹」だった。
星の光の当たる窓から出した鷹の掌へ黒い粒子は吸い込まれていく。

出口へその黒い粒子を乗り移らせた者は、
東アジア平和会の別室で見えた映像
『イン』氏と呼ばれる男がその手から赤黒い液体状の物を出口の頭へと落とした場面を思い出した。
ここでやっと東アジア平和会で出入りしていた『イン氏』は、
シシトー神教団責任者の『宍戸 鷹』であることが判明した。
ちなみに『イン』と言う字を調べると中国語で『鷹』の字の発音だった。

遼真は鷹の身体に宿った力が、
他者の命を絶てる可能性があること
他者を操る可能性があることを知った。
今回の敵は非常に危険だった。
何か対策していないとそのまま殺されてしまう可能性が高かった。
道理で一族が依頼した探偵などが何人も死亡している筈だった。

最後は、東アジア平和会のメンバーの行方であるが、
教団秘書からの情報を元に新宿にあるGD芸能オフィスを訪れた。
宮尾警部が東アジア平和会の在日外国人の写真を見せると
彼らは何年か前に本国へ帰って、
帰国後すぐに会社を辞めたのだとの返事だった。
遼真達は事務所内を色々と見て確認したが、
ただ社長のデスクの前にある応接セットからは、
当時恫喝されていた数人のヤクザ者らしき姿は確認できた。
その原因は所属タレントが組長の娘を抱いて捨てて外国へ逃げたらしい。
組長はそれを恨み、巨額の慰謝料と利子代わりに当時副社長だった
元アイドルの木村千種氏を抱かせろと言ってきたようだ。
脅されている社長は彼女へ
『ほんの一晩だけだから』
『このままでは会社が潰される』
『君はあのタレントのマネージャであり副社長だから責任がある』
と必死で説得しているが、
当然ながら彼女は決して首を縦に振ることはなかった。
いくらサイコメトリーしても彼らに繋がる物は見えなかった。
ふとこのビルを訪れた時に目に留まった、
駐車場に停められていたGD芸能オフィス専用マイクロバスを見せて貰う。

オフィスの事務員が怪訝な顔でマイクロバスの扉を開ける。
時間を3年前頃に遡らせて最後部席を触れた時に、
果たして、
遼真の脳裏に東アジア平和会のメンバーの顔が映り始めた。
彼らは東京湾の埠頭にある倉庫へ向かうようだ。
「飛行機で帰るんじゃないの?」
「もしかして帰るのは船なのか?」
「まあ、警察に目を付けられて奴もいるから仕方無いか・・・」
「帰る準備ができるまでここで待つんだって」
「もう着いたからまあ待とうや」

遼真達3人は、東アジア平和会のメンバーの居た東京湾の埠頭の倉庫へと向かう。
その倉庫は現在では誰も使って居らず、管理会社から鍵を貰って倉庫内へ入った。
以前借りていた会社は『GD芸能オフィス』だった。
その倉庫内は何もないガランとした空間だけがある。
倉庫内のモノをサイコメトリーしようにもするものが無かった。
床の大きな四角の跡を見つけたため、管理会社に何が置かれていたのか聞くと
大きな冷凍倉庫とクルーザーだったらしい。
クルーザーは現在港のマリーナ内の艇庫に置かれているらしい。
艇庫に置かれているクルーザーの元へ向かう。
そこでクルーザーをサイコメトリーをして
やっと東アジア平和会メンバーの行方がわかった。

遼真の脳裏へあるシーンが浮かんでくる。
その夜は新月で雲も無く星空には北極星や北斗七星が瞬いている。
場所は相模湾の真ん中でクルーザーを停泊させている。
甲板にブルーシートで包装された数個の四角い箱状の物のシートを破いている。
やがてシートが全て剥ぎ取られ、その中からは金網の箱が出て来た。
その大きな金網は各々鎖で繋がれている。
その金網は1辺5センチ程度の網目で四隅に重い錘を付けられている。
金網に彼ら東アジア平和会メンバー5人が詰め込められている。
彼らの顔色はどす黒く既にもう生きていないことがわかった。
全員が苦悶の表情で、胸に血で黒く変色した大きな穴が開いている。
どうやら心臓が抉られている様だった。
それらが大物用のクレーンで吊り下げられ海へ投げ入れられた。
彼らの死体は東京湾の深海へ沈み、深海魚の数年分の栄養源となった。
宮尾警部と小橋警部には、
『彼らはこのクルーザーで国外へ脱出したようです』と伝えた。
全てを知らせると宮尾警部や小橋刑事の命が危ないからだった。

11.霊査4(令和獅子党2)(第8章:占い死)

木村千種党首と鷹の淫猥なシーンがずっと続く。
遼真は覗き屋の様な気がして、しばらくは見ないでおこうと思っていたが、
『!?』
その時、キインの視覚に感知されるものがあった。
彼女の身体に重なる鷹の身体がぶれる様に見え始めたのだ。

鷹の身体から黒い影の粒子の様なものが出て、
それが上の空間に人の形となって集まり始める。
その現象に千種は気がついていないかの様に激しく抱きついている。
黒い影の粒子がもう一人の鷹となり上の空間で形作られると
現在抱き合っている鷹とするりと抜けて入れ替わった。

それから彼女は、もう一人の黒い影の粒子で出来た別の鷹に
最初は正常位で何度も浅く深くグラインドで腰が左右に、
ピストン運動で身体全体が上下に強く揺さぶられている。
彼女の大きな乳房もその動きに翻弄されている。
次には獣の様に四つ這いの後背位で激しく何度も貫かれ、
続いて騎乗位で下から突き上げられながらも自ら腰をグラインドさせ、
最後には再び何度も激しく後背位で貫かれて大きな声を上げて彼女は果てた。
あられもない姿で意識を無くした彼女に繋がったままの鷹の身体と
空中に浮かぶもう一人の鷹の身体が再び一つに重なる。

しばらくして意識を戻した彼女が甘えた様に鷹の胸へ抱きつく。
「鷹様、今日も素敵でした。
 もう身体がバラバラになりそうでした。
 いつも私だけが意識を無くしてしまってすみません。
 まだ鷹様が満足されていないみたいなので、
 今から鷹様にご奉仕をしたいのですが、よろしいですか?」
「ああ良いぞ」
「では失礼いたします」
彼女はまだ屹立している鷹のモノをそっと含むと顔を上下し始め、
やがて大きな鷹のモノが根元まで吸い込まれていく。
次に屹立したモノを握って上下しながら
根元にある袋をそっと吸い付いては舐めてを繰り返す。
その間に鷹の指が彼女の乳房やまだ濡れたままの秘所へ進んでいく。
「ああ、鷹様、またそのような・・・また蕩けてしまいます。
 ああ、そのようにされると私はもうご奉仕が出来なくなって・・・」
横になっている鷹が、ひょいと軽く彼女の身体を持ち上げると
彼女の秘所を顔の前に持ってくる。
そして彼女の濡れそぼった秘唇へ唇を近づける。
「ああ、鷹様、その様な場所を、ああ恥ずかしいです」
秘所が大きく広げられ敏感な蕾を舐めては、
その上にある先ほどまで鷹のモノを咥えていた場所へ
信じられないくらい長い舌が何度も出入りしている。
そのたびに一番上にある菊座が可愛く何度も収縮している。
彼女は
「ああそのような・・・あっ、あん、感じます」
と言いながら鷹の屹立したモノを愛しそうに含んでは舐めている。
「ああ、鷹様のモノが今までより硬く大きくなってまいりました」
鷹は彼女の腰を両手で持ち上げると彼女のジュクジュクに熟れた秘所を
自ら屹立する物にあてがい深く貫くと、そこで身体全体を上下させている。
「あー、すごい。私の中へどうぞ、
 鷹様、なにとぞ・・・最後は・・・
 あーん、あー逝き・・・ます。あー・・・ん・・・」
彼女は全身を硬直させ何度もの絶頂に最後は目を剥いて失神した。
その間、霊獣のキインの目からは
ずっと鷹の身体は何重にもぶれている状態で見えているのだった。

「!」

窓の外から二人の姿を霊視しているキインの方を鷹が振り返った。
「カラスの霊か?
 この都会で珍しいな。
 なぜこの部屋に?
 しかしこの霊・・・
 どこかで感じたような気がするが気のせいか」
鷹は寝息を立てている彼女の身体に毛布を掛けてベッドから降りると、
窓際にあるワイングラスの置いたテーブルの横のソファへ座った。
誰も居ない空間へ顔を向けて話し出した。
「久々の女体如何でした?
 私同様にこの女はあなた様に全てを捧げていますから安心して下さい。
 いつでもあなた様のお側へ送ることができます。
 お褒め頂きありがとうございます。
 はい、仰せのままに、この国を変えて見せます。
 必ずやあなた様の望む国へ」

残ったワインを飲み干すとしどけなく眠る彼女の隣へ入る。
ふと目を覚ました彼女がそっと鷹の胸へと身を寄せる。
「ふふふ、鷹様。満足されましたか?
 いつも私ばかり感じてばかりで申し訳ありません」
「ああ、満足だ。いつもながら千種は感じやすくて可愛いな」
「はい、恥ずかしいですがそうなっちゃうんです。
 何度も言いますが千種はあなたのものです。
 私は鷹様に出会ってから、こんなにも毎日が幸せです。
 あの時、鷹様に助けて貰えなければこんな幸せはありませんでした」
「僕が助けた?
 いやあれはあのヤクザ者達が勝手に自滅しただけだよ」
「そうですか?例えそうでも千種は鷹様の力だと信じています」
「僕は単に姫巫女からのご神託で動くだけだからね」
「はい、わかっています。でも私がそう信じるのはいけないですか?」
「いやそれはいいけど・・・」
「はい、鷹様は神様がこの世の為に送り出した人と信じています。
 私が鷹様を独占できるとかそんな不遜なことを考えていませんが、
 千種が鷹様に甘えられる時間は今だけですからいいですよね」
「いいよ。千種にはいつも党のために頑張って貰ってるから感謝しているよ」
「はい、神様、鷹様のためにこの身を捧げます。
 ですからいつでも御傍に居させて下さい。
 先週武藤議員が亡くなった時みたいに鷹様と連絡がつかないと不安で不安で」
「わかったよ。でもいつも一緒と言うわけにはいかないかな。
 教団も政党も色々と僕の役割があるからが我慢してほしいかな。
 だけどこんなに深い関係は君だけだよ。そこは安心してね」
「はい、わかりました。差し出がましいこと言って申し訳ありませんでした。
 でも本当にもし鷹様に困ったことができたら何でも私に言って下さいね。
 私の命に代えても何でもしますから」
二人は深い口づけをすると朝まで抱き合って眠った。

朝二人が目覚めて部屋で朝食を食べている時、
「鷹様、この鯵の干物を見てふと思い出したのですが、
 教団事務所に鮮魚冷凍装置を取り寄せるように
 おっしゃったこと覚えておられますか?」
「ああ、覚えているよ。家に置いてるよ。
 あの装置は地方の港から新鮮な魚を新鮮なまま
 遠方へ送れる様に最近発明されたものでね。とっても便利なんだ。
 君も知ってるように僕も家族も山の中で生まれたから魚が好きなんだ。
 実はごくたまに東京湾相模湾で船釣りをしてるんだ。
 その時に釣ったたくさんの魚を
 新鮮なままいつまでも美味しく食べられるようにと思ってね」
「釣りですか?時々私もご一緒していいですか?」
「ああその時にはまた声を掛けるよ」
「お願いします。私こう見えてもお魚の料理は得意なんですよ」
「へえ、それは楽しみだね」

遼真はすぐに鷹の家の写真を確認したが台所には装置は設置されていなかった。
色々と写真を確認したが、その装置らしきものは家には無かった。
石灯籠の祠の手前に作られたプレハブにはその装置が入っていると思われた。
そのプレハブは常に施錠されており鷹しか入れないようになっている。

鷹の身体に何者かが憑依していること、
それは非常に力の強い霊であること、
それは鷹の肉体に何らかの力を宿らせていること、
それは通常は触れることのできない霊体と異なり
この世に肉体に近い物を顕現できる力があることを遼真は知った。

10.捜査5(令和獅子党1)(第8章:占い死)

最後は政党本部の幹部についての調査だった。
令和獅子党本部内のロッカー裏に待機させていたクモ助に
誰も見ていない時を見計らって木村千種党首の毛皮の中と
筆頭秘書の中野海里のハンドバッグの底へ小さなオナモミ型盗聴器を仕込ませた。
筆頭秘書の中野海里は、勤務時間が終わると同僚の秘書堀田飛鳥と一緒に出て行く。
今晩は一緒にご飯を食べるようだ。
二人はイタリアンカフェに入るとフルコースを頼んだ。
「乾杯、いよいよ選挙も|酣《たけなわ》ね。
 今回の各支部支部長10人が立候補してるから何人通るかしら」
「増えてくれればボーナスを期待できるね」
「そうね。それよりも鷹様のためにも増えて欲しい」
「うん。あんなに頑張ってるんだもの。何とか増えて欲しいよね」
「党首はどうでもいいのよね。鷹様に駄目って言われたらそれまでだから。
 それに各支部支部長全員が鷹様鷹様で夢中だからすごい競争率ね」
「だから木村さん、必死だよね」
支部長連絡会の時は、終わった後に鷹様と二人だけで相談したい支部長ばかりで
 何時間経っても終わらないらしいよ。だから鷹様が支部へ定期的に行ってる」
「そう、今日は名古屋支部に鷹様と一緒に行ってるから、
きっと身を投げ出してご奉仕してるんじゃないの?」
「名古屋の支部長だってそれを簡単に許さないんじゃない?」
「すごい戦いだわ。ウナギのヒツマブシ攻撃で一気に二人ともって?」
「そんな脂ぎったことを鷹様はきっとしないわよ。それってどこかのオヤジじゃん」
「まあそうね。スマートな人だもんね」
「そう本当にスマート、その上私たちの気持ちにも敏感だし最高の人だわ」
「だからみんな夢中になるんだけど、きっと誰のモノにもならない気がする」
「まああれだけ才能やお金がある人誰もを独占は出来ないよね」
「木村さんを始めとしてみんながすり寄ってるけど
 見ている感じとして鷹様はあまりそっちには興味ないみたいよ」
「まあね。男ってあまり言い寄られても引くと言われてるしねえ」
「でも木村さんは若い私たちを意識してるみたい」
「確かにそうね。
 身体の線を出す様な服を着ていると文句言ってくるもんね」
「あの鷹様を独占出来ると思う事が不遜よねえ」
「そう、あの姫巫女様さえも頼る鷹様をねえ」
「そうなの?」
「鷹様がこの前偶然居なかった時、占いはうまく行かなかったじゃないかな?」
「へえ、そんなことってあるの?私はバッチリだったわよ」
「私の時もそうだったわ。
 だけどこの前占って貰ったお客様が階段で怒った様に、
 『今日は調子が悪いのでお金は要らないとは言われたけど、
 聞いてたのと違っていい加減だった』と文句言ってたわ」
「鷹様が居ないと姫巫女様さえも調子がでないのね。さすが私たちの鷹様」
「そうやはり、この教団と政党本部の要は鷹様だわ。彼を総理大臣にしたいよね」
「そうね。そうなれば私たちは総理秘書か」
「すごいよね。そうなればうちの親も大喜びだわ」
「そこまで私たちが鷹様の御側に居れたらいいね。頑張りましょうね」
「そうね。そうね。
 でもこの選挙がもしうまく行かなければ可哀そうだけど木村さんは駄目かもねえ」
「すぐにはそうはならいわよ。鷹様が彼女をスカウトしたんだからねえ」
「確か彼女、芸能事務所の副社長だったって言ってたよね?」
「そう、元アイドルでデビューしたけどあまり売れず、
 どちらかと言うと彼女の才能はアイドルより経営の方にあったみたい。
 結局社長のミスで潰れそうになった事務所だったけど、
 鷹様のお陰で何とか持ち直して現在に至るってわけ」
「それってどういう意味?」
「何かヤクザ?みたいな人達に会社へ乗り込まれていて困ってたけど
 それを鷹様が何とかしたとかしないとか。よくわからないの」
「ふーん、その怖い人を何とか出来るってすごいね」
「偶然、その会社へ乗り込んでる組と仲の悪かった組の人が、
 たくさんのダイナマイトを持ってその事務所内で爆発させたって」
「ああ、それって何年か前、ニュースでやってたね。それに関係してたの?」
「うん、それで木村さんの会社へ乗り込んで来てた人が全員死んだって」
「その爆発させた人は、今も刑務所にいるのよね?」
「いや一緒に爆発で死んだみたいよ。
 その爆発で死んだ人に付いて行った若い人が、
 警察へ自首して取り調べを受けたけどその夜に留置場で死んだって」
「よく考えたら、それってすごくラッキーよね?」
「そうそう、すごくラッキーだと思うわ。
 だって彼女の会社は一挙に困ったことが解決したんだから」
「その助けた芸能事務所は、その後どうなったの?」
「さああまり知らないけど、きっとうちの教団の支援組織と思うよ」
「ああ、思い出した。GD芸能オフィスだった」
「そうそう、日本語の上手な外国人の俳優とかが多い会社よね。
 確かアジアの国の映画にも出演させたってこの前言ってたの思い出したわ」
「あんた、良く知ってるわね。驚いた」
「へへへ、何たって暇だからね」
「まあそうね。私もそう。じゃあ次は何を飲む?」
ここから彼女たちは飲み食いに大騒ぎだった。

ある夜、木村千種代表がいそいそと都内のホテルへ向かったことを知る。
このホテルの最上階の角部屋は党本部が一年契約で借りている。
フロントで鍵を受け取り、最上階のレストランで木村は待っている。
しばらくして鷹がレストランへ顔を出した。
それを見た木村はすぐに立ち上がり鷹が席へ座るのを待った。
ヘッドウェイターが鷹を席まで案内し席を引いて座らせる。
その後、ヘッドウェイターは木村の席へ移動し引いて座らせた。
すぐにエグゼクティブシェフが二人の席へ来て挨拶と本日の料理の説明をした。
そこから鷹と木村代表の二人へソムリエが来て、二人のワインの注文を受ける。
料理に最適なワインが選ばれ、二人にワインが注がれる。
じっくりと香りと熟成された味を堪能しながら二人はゆっくりと食事を始めた。
フルコースも終わりやがて二人は部屋へ向かう。

遼真は二人がレストランで料理を楽しんでいる時間に
ホテルの近くのコインパーキングへバトルカーを停めてドローンを飛ばし、
部屋の窓際へ天丸とクモ助を降ろし、寝室やリビングの窓に待機させた。
霊獣である管狐のキインも窓際へ待機させた。
しかし今まで何度か姿を見られたかもしれないキインを霊的に守るため『身代わり護符』と
盗視盗聴がわからない様に『変わり身符』を纏わせて、仮に見えても烏の霊に見える様に偽装した。
この部屋は最上階の為、この部屋を覗ける建物は周りに存在しなかった。
立派なリビングの大きなガラスから東京の夜景が見下ろせる最高の景色だった。
やがて二人が部屋へ入って来て、
木村が部屋に常設されているワインセラーからワインを出し鷹へと渡す。
「鷹様、先にシャワーをお浴びになって下さい」
「ああわかった。先に頂くよ」
鷹がスーツを脱ぐのを木村が手伝っていく。
普段は細面、理知的な切れ長の目、高い鼻、真っ赤な唇で
やや冷たい印象を与える木村だが、
今夜の彼女の顔は上気しており、嬉しそうな表情で呼吸の数も少し上がっている。
ワイシャツの下から鷹の鍛えられた身体が出て、
その背中へホテルに備え付きの柔らかいバスローブが掛けられる。
鷹がバスルームへ消えると
彼女は鼻歌を歌いながらイヤリングをそっと外しスーツを脱ぎ下着姿になった。
彼女は背が高くスタイルも良く、引き締まった身体でEカップの胸が目立った。
すぐにバスローブを羽織るとソファに座ってワインを飲んでいる。
やがて鷹がバスルームから出てくると鷹へワイングラスを渡し、
「鷹様、少々お待ちください。私も汗を流してきます」
いそいそと替えの下着や化粧品の入った可愛いポーチを持ってバスルームへ向かう。
鷹はワインを飲みながら窓際に立ちライトアップされた東京の夜景を見つめている。
しばらくするとの蕩ける様な笑顔の木村がバスルームから出てきた。

彼女が窓際の鷹に寄り添い、そっと背の高い鷹の胸へ甘える様に頬を付ける。
鷹がワイングラスを傾けながら彼女の肩を抱き寄せる。
鷹が夜景を見渡せるソファへ座り、彼女が両手を鷹の首に回し膝へ身を預ける。
鷹が彼女へテーブルからワイングラスを渡そうとすると彼女はイヤイヤをする。
鷹はニヤリと笑って大きくワインを呷ると彼女へ口づけをする。
彼女が目を閉じて鷹の口中のワインを飲み干している。
彼女の白く細い首の喉仏がゴクリゴクリと動いていく。
それが何度か繰り返されて彼女の目はトローンとして鷹を見つめている。
やがて鷹が彼女をそっと横抱きにして立ち上がる。
彼女の四肢から力が抜けているのがわかった。
大きなダブルベッドへそっと彼女の華奢な身体が横たえられる。
彼女の長い綺麗な髪がベッドに広がっている。
鷹が部屋の電気を暗くする。
彼女が待ちきれない様に両手を鷹の方へ広げている。
鷹が彼女の側に滑り込み彼女を強く抱きしめて、
その煽情的な彼女の真っ赤な唇に口づけをする。
そして首筋へ口づけをし舌を這わせていく。
彼女の形の良い眉の間に深い皴が入り、
瞼も痙攣してるかの様に震えている。
もう彼女からは感極まった様に小さな声が漏れてくる。
彼女の豊満な乳房が揉みしだかれ、
小さな薄い乳輪に囲まれた乳首が鷹の指で摘ままれる。
彼女が恥ずかしそうに頬を赤らめて顔を左右にゆっくりと振り始める。
鷹が彼女の乳首を含み、滑らかな細いウェストや小さな臍へ指を這わす。
彼女のほど良く筋肉の付いた足が徐々に広げられ、
愛撫に応えるかの様に腹部が上下し腰がゆっくりと上へ下へと動かされる。
「鷹様、鷹様、お願いします。もう・・・」
彼女の秘部を覆った小さな薄い布地の部分は、
もうぐっしょりと濡れて彼女の陰毛が黒く透けている。
鷹の指がそっとその濡れた部分を強く弱く押しながら上下させていく。
「ああ素敵です。もうどうにかなりそうです」
やがて鷹の指がその小さな布切れの端に掛かる。
鷹の指の動きに呼応するように彼女の膝が立てられ腰が上げられ
その小さな布切れは長い両足をスルリと抜けた。
鷹の指が彼女の秘所へ延ばされ、彼女の両足が限界くらいに開かれる。
鷹の指が彼女の敏感な蕾や花弁へ何度も動き、
そっと触られたり優しく摘ままれたり、
その奥にある裂孔へ深く浅く潜ってが繰り返される。
それが時には優しく時には強く何度も何度も繰り返される。
『ピチャ、ピチャ』
『グチャ、グチャ』
淫靡な音が彼女の喜悦の声と共に長い時間室内に響く。

9.捜査4(シシトー神の館へ潜入)(第8章:占い死)

警部たちが帰って真美の念写した写真を調べているが、
遼真には何か釈然としないことが多かった。
やはり危険だが『シシトー神の館』へ潜入して捜査する必要があった。
夜のうちに『シシトー神の館』のビルの近くへ移動し、
朝6時頃の人のいない時間帯に
先ずはビル外壁に待機している天丸を、
占いの部屋のまだ回転していない換気扇の間から侵入させた。
そして天井近くに吊ってある部屋の天井四隅に設置した花の中へ
巧妙に隠されている監視カメラの裏側へ天丸の身を潜めさせた。

次に令和獅子党本部のロッカーの後ろに待機しているクモ助を
廊下側の扉の下の隙間を這い出て階段を移動させ、
一つ上の階の『シシトー神の館』へ移動させる。
『シシトー神の館』の大袈裟に飾り立てた扉の下から薄暗い館の中へ侵入した。
まだビルには誰も居ないが、
監視カメラの可能性を考えクモ助に保護色を帯びさせ特別客用の部屋へ移動させる。
実はこの特別室と一般用の占い部屋は隣同士で
この二つの部屋の間に『隠し部屋』が作られていた。
その部屋の扉は取っ手も無く中から鍵を掛けると外からは
そこにある隠し部屋の存在は無くなり、外からは単なる壁に見える。
その部屋からは両方の部屋の壁の大きな絵画から客の顔が見えるのだった。
今はまだその隠し部屋の扉は開けられている。
その部屋には机と椅子と机の上には撮影機材が設置されている。
クモ助をその隠し部屋の中へ潜入させ壁に付けられた機械の裏側へ待機させた。
その部屋から部屋で占いを受ける客の顔を撮影できる様になっている。
天丸とクモ助を待機させて開店の時間を待った。

一般人の占いに関しては、予約した客自身が占いを受ける前に、
氏名と誕生日と占って欲しい内容を簡単に記載して受付へ提出する。
次に客自身が「タロットカード」「水晶」「降霊術による神託」の占い方法を選び、
それに合わせて姫巫女が客一人に約30分程度時間を掛けて行っている。
占い金額の高い順に「降霊術による神託」「水晶」「タロットカード」となっている。
その中で一番人気は「降霊術による神託」であった。
姫巫女の座する天座の後ろの北側壁面には、「北極星と北斗七星」が描かれている。
この星への信仰は、太古より“星神信仰”と呼ばれている。
その天座に座る姫巫女の鈴女が降霊術により神託を降ろしていく。
それは占う客の記載された要望以外の個人的な秘密や悩みもその場で明かされるもので、
占い客は驚きの中で、自らの望む方向、より良き方向へ神託が下されていく。
そして彼らは姫巫女の神託に納得し感謝しながら高い鑑定料を払って館から出ていく。

ここで占いの時の隠し部屋での鷹の態度が気になった。
『タロットカード』の時には、鷹に特に変化もなく、
姫巫女が告げる内容も専門のタロットカード占いの本と同じことを話している。
鷲が相談者の氏名と住所からネットや個人情報を調べていく。
『水晶』と『降霊術による神託』の時には、
鷲が相談者の氏名と住所からネットや個人情報を調べていき、
鷹はじっと客を見つめては、すぐに目を閉じて
しばらくすると手元の紙へ多くの文字を書きなぐっていく。
その後その内容を考える様にじっと見ていて、姫巫女の方を見る。
それに合わせるかの様に姫巫女の鈴女は、踊りを終えて神託を降ろしていく。

ある日、高名な政治家の秘書から予約が入った。
政治家が部屋へ現れる前に鷹は『隠し部屋』へと入って行く。
その部屋の北方向に小型の神社の本殿の様な建物が作られている。
本殿の正面上部に掛けられた掛け軸には、「北極星と北斗七星」が描かれている。
本殿の正面には広く真四角の真っ白の布の敷かれた場所、
そこは姫巫女が座する場所、神の声を聴く空間で『天座』と呼ばれている。
特別客用の立派なソファへ政治家が座っている。
普段はマスコミの前では踏ん反り返って偉そうにして、
国会では週刊誌ネタや与党案に反対しか言わない
スマートに刈りこまれたヒゲがトレードマークの
最大野党 博愛民主党 副幹事長の永源史郎が、
汗を垂らしながら背筋を伸ばして両ひざに両手を置いて頭を下げている。
「姫巫女様、何卒宜しくお願いします。
 この崇高なる思想の憲法9条を持つ日本をあろうことか
 軍国化を進めていた馬場や藤波を静かにして頂きありがとうござました。
 国民が馬鹿なため、なかなか我々が政権を取れませんが、
 今度海外の会議で内密にさる国のある方と会談を行う時のお土産として
 今度こそ日本が世界へアジアの平和を発信出来ない様な国になり
 さる国の自治領として生きる国となるようにしたいと思っています。
 国民は馬鹿で平和ボケしていて目の前の事しか見えませんから、
 守って貰う国をアメリカから違う国に変えたところで何も言いません。
 そのためには今度の代表選で私が代表になるしかないのです。
 うちの党の政調会長の武藤が、
 『現代の水戸黄門』などとふざけたことを言い出して、
 マスコミも大いに盛り上げて困っています。
 そろそろ年齢だし彼に何か起こらないでしょうか?
 そうじゃないと今度、あの方に会った時に怒られるのです」
その願いを聞いた姫巫女は、
しばらく両手を合わせて祈っていたが
やがて天座で
ふらりと立ち上がり、
ゆるく、
時には早く
北斗七星の形に沿って歩み始め、
極点の北極星で踊る。
何度も何度も北斗七星と北極星を行き来して回り始める。

その間、鷹は隠し部屋から永源議員を見ながら手元の紙へ書きなぐっていく。
その後、鷹はじっと目を閉じて、
また目を開けてはその紙を見ながらじっと考えている。
「うーん、仕方ないか」と鷹の口から小さな声が洩れた。
それから姫巫女をじっと見つめている。
姫巫女はゆるゆると踊りながら目を閉じてじっと何かの声に耳を傾けている。
やがて姫巫女が天座に戻って来る。

遼真は鷲や鈴女に何らかの力は感じなかったが、
この前の家でメールもせず鷲と鈴女を呼んだ様子と言い、
彼ら3人には遼真同様に『テレパシー』の能力があるのではないか、
その上、鷹には
客から知らされていない客の個人情報を読む力『読心術』があるのではないかと感じた。
鷹が占い客が驚く様な本人だけが知る秘密や様々な情報を読み取り、
その情報を天座で踊る姫巫女へ伝え、
神託として客本人が望む又は危惧する方向へ言葉にするだけで、
本来自らの望む方向へ行動する後押しして欲しい客は喜んでそれを受け入れた。

「永源様、只今神様よりご神託が降りました。
 残念ながらこのままの流れでは現在政調会長の武藤様が代表になります。
 ただこの神託には別の可能性もあってその場合には永源様が代表となります」
「別の可能性?それはどんな可能性ですか?」
「運命の流れが今回は二つに分かれています。
 仮に武藤様の運命が変われば代表にはなれません」
「武藤の運命はどんなことで変わるか教えてください」
「シシトー神様からは、強い女難の相と病気の相があると言っています。
 ただし、そのことにより政党も大変な思いをするとも」
「女難?病気?
 確か武藤には銀座のママの妾が居たし、重度糖尿病だと言っていたな。
 その関係であいつの運命が変わればわしが代表となり、
 そうなればあの方との約束通り、将来はこの日本の国の支配者になれる」
「永源様、武藤様にこのご神託をお届けしないと武藤様が大変なことになります。
 気を付ける様に秘書の方へお伝えしてよろしいですか?」
「えっ?そんなことされたら・・・ええと・・・
 そのことはわしが責任を持って武藤に伝えておくから安心してください」
「わかりました。お願いいたします。
 そういえば本日は永源様のご依頼でしたのに申し訳ありません」
「姫巫女様は、本当にお優しい。
 確か馬場や藤波にも突然降りたご神託をお知らせしたのでしたね」
「はい、神様は日本のために毎日お祈りされていますから」
「馬場と藤波は日本のためにならないから死んだのではないですか?」
「さあ、私にはわかりません。彼らはその運命にあると伝えただけです」
「本日はどうもありがとうございました」
と満足したように野党副幹事長の永源史郎は部屋を出て行った。
その夜から二日間、鷹は家には帰って来なかった。

翌々日の大手新聞の第一面トップで、
「“現在の水戸黄門”武藤政調会長、都内のホテルで急死」
大衆週刊誌は、
「“黄門様”銀座のママへ印籠見せて腹上死!?」と大騒ぎだった。

ニュースになったその日のうちに永源史郎議員の秘書から電話連絡があり、
秘書は殆ど同時に大きなアッシュケースを二つ持って館を訪れた。
その秘書は案内されるままに特別室へ入って行った。
「永源先生からです。残りの料金は近々お持ちしますとの話です」
秘書は蒼い顔をして、恐ろしそうに姫巫女を見つめ深く挨拶をすると
アタッシュケース二つを恭しく捧げ、
天座に座る姫巫女の下に立つ巫女へ渡すと逃げる様に出て行った。
その巫女はすぐさま館の門のところで頭を下げて秘書を送り出している。
その間に事務長の鷲が現れてアタッシュケースを隠し部屋へ持って入った。
隠し部屋の中には鷹が居てコーヒーを美味しそうに飲んでいる。
彼の目の前には、現金がぎっしりと詰まったアタッシュケースが置かれた。

最大野党 博愛民主党 副幹事長の永源史郎議員と秘書との会話でわかったことは
特別会員となった多くの政治家は、政治家の常として
ライバルを蹴落とし少しでも上に出世するために姫巫女の神託や預言を信じた。
実際にその神託通りの結果となり、多くの人間が失脚したり死んだり入院している。
もし自分に悲運が訪れる時は、
姫巫女様から真っ先にそれを教えて貰える様に、
常に大金を払い可能ならその回避方法を教えて貰う様に願った。
その資金の原資は、「政治資金」だった。
世間から政治資金の透明化の話題が出るたびに
政治から国民のめくらましのために
高齢者の運転事故や煽り運転の記事、
おしどり夫婦だった筈の夫や妻の芸能人の不倫や離婚騒動、
暴力団組織同士の抗争激化、
親子や兄弟同士や学校での虐めによる殺人、
SNSによる誹謗中傷の炎上記事、
海外からの指示による日本人受け子による詐欺やオレオレ詐欺事件、
国内外で作られ国内の若者や年寄りに蔓延する覚醒剤問題、
野球やサッカーやスケート、オリンピックなどの記事、
議員の失言による国会の空転問題などがマスコミに大袈裟に取り上げられ、
それに目を奪われた国民は、マスコミより更に投下された批判の油に踊らされ、
国内政治や世界の中で日本国の置かれた立場や国の未来に目を向けない様にされた。

8.捜査3(東アジア平和会)(第8章:占い死)

遼真が丹波篠山で事件を探っていた頃と同じ頃、
警視庁迷宮事件係(通称|038《おみや》課)宮尾徳蔵警部と小橋光晴刑事は、
刑事部屋の中でいつもの様に出涸らしのお茶を飲みながら話している。
「宮さん、最近あの二人に会う機会がないですね」
「二人?ああ、桐生遼真君に真美君か?」
「そう、この頃、彼らと関係する事件がないですね」
「まあそうだな。でも彼らに頼む様な事件が無くていいんじゃないか?」
「まあね。でも真美ちゃんの料理を思い出すと涎が出るんですよ」
「お前ね。あの子を家政婦か何かと勘違いしてないか?」
「そんなことないです。ただ本当に料理屋より美味しいなと思って」
「まあそれはな俺もそう思う。
 でも真美ちゃんには危ない事をさせたくないな」
「それはそうですが、最近、やたら人が死んでいくじゃないですか。
 それも有名な人や政治家や経済人とかが目立つじゃないですか?」
「何もそれに限らないだろ?
 他に理由はわからないがヤクザや|薬《やく》の売人もたくさん死んでるしなあ」
「まあヤクザや売人はどうでもいいんですよ。堅気さえ被害に遭わなければね」
「お前ね、ヤクザや売人だからと言ってそれは云ったらだめなんじゃないか?」
「まあここだけの話。オフレコっていうやつですよ」
「わかった。そうしとく。
 それはそうと・・・この前話があってな」
と宮尾警部は親指を立てる。
「いよいよですね。何の事件ですか?」
「ああ、以前馬場元総理のテロがあっただろ」
「確か3年くらい前ですかね?
 宗教2世の若い男が母親が入信して生活で苦労したから
 選挙協力とかで関係のあった政治家を憎くて殺した事件ですよね?
 でも確かテロリストは留置場で死にましたよね?」
「そうだ。ただあいつ、出口が入っていた組織のことだ」
「あいつの入ってた組織?」
「おう、そいつは母親の入信した教団を退会して、
 その後ある組織に入って色々と吹き込まれたらしいぞ」
「へえ、あの事件の裏にそんな事情があったんですね。
 それでそれはどんな組織なんです?」
「隣国の人間が主要メンバーの“東アジア平和会”と言って、
 今はすでに解散して無いようだ」
「“東アジア平和会”?なんか胡散臭い、如何にもと言った名前の組織ですね」
「そうだろ?
 自分たちで東アジアの平和を乱してて平和会も何もあったもんじゃねえな」
「そうですよ。でも解散してたらもうわからないんじゃないですか?
 もしかしたらもう本国へ帰ってるかもしれないし」
「そうだろうと思っていたが、
 隣国のさる筋から彼らが本国へ戻っていないとの話があったそうだ」
「そうなんですか。そいつらどこに行ったんだろうなあ」
「とりあえず明日その組織のあった場所へ行ってみようじゃないか」
「はい、わかりました」

“東アジア平和会”のあったビルは、隣国出身者が借りているビルで
すでにその後には別の人間が開いている“日本生活互助会”が入っている。
二人はさっそくその会社で事情聴取を始めたが、もちろん何も情報は無かった。
テロリスト出口の顔写真を見せたが反応する人間は誰も居なかった。
『馬場元総理を殺したテロリスト』だと話しても、
その事件を思い出したかのような反応はするが、それ以上のリアクションは無かった。
まあ日本人に限らず彼らにとっても死は日常との意識があるのかもしれない。
家主に聞くと“東アジア互助会”の部屋の中の机や椅子は、
以前のままとのことだったので、乳児誘拐事件の時のことを思い出して、
二人は何かヒントでも掴めればと思い遼真に頼んでみることとなった。

丹波篠山から東京へ帰る途中の遼真へ宮尾警部から連絡が入った。
ちょうど東京へ入ったところだったので宮尾警部のいる現場へ向かった。
遼真としても渡りに船だった。
テロリスト出口の情報もいずれ必要になると考えていたからだった。
遼真は真美へ連絡を入れる。
「真美、今、東京へ戻ったところだけど、
 ちょうど宮尾警部から捜査への協力依頼があったからそちらへ向かうよ」
「えっ?えらく急ですね。
 わかりました。待機しておくので又声を掛けてください」
「ありがとう。
 もしかしたら今の事件はテロリストも関係してるかもしれないから
 本当にタイミングが良かったと思ってる」
「遼真様、今夜は警部や刑事さんと一緒に帰ってきますか?」
「そうなるかもしれないな。忙しいのに悪いな」
「いえいえ、今晩は真美特製の晩御飯を用意していますから
 警察のお二人にも必ず話しておいてくださいね」
「わかった。そりゃあ楽しみだな。じゃあまた連絡する」
「はい、あまり無理なさらないでくださいね。では」

遼真が警部たちのいるビルへと到着する。
小橋刑事がビルの玄関で遼真を待っていた。
急いで二人で“日本生活互助会”の部屋へと向かう。
宮尾警部が、来客用の机に座ってコーヒーを飲んでいる。
「おお、遼真君、久しぶりだな。元気だったかね?」
「はい元気でした。宮尾警部や小橋刑事は如何でした?」
「わしたちも元気だけが取り柄だ。今日はすまんね」
「いえいえ、ちょっと色々と動いていてちょうど良かったです」
「色々と?そうなのか?うーん、忙しいのに悪いなあ。
 この前の事件の乳児室の様にちょっと見てくれるだけでいいんだ。頼むよ」

遼真は現在の“東アジア平和会”のメンバーの写真を見せて貰い、
ビルに入る前からそこら辺りに立っている霊体へ写真を見せて聞いても、
“東アジア平和会”のメンバーとは何も関係が無かったため彼らに記憶は無かった。
社員には全員部屋から出て行って貰って、遼真と警部たち3人だけで部屋に入った。
部屋の中にも“東アジア平和会”のメンバーの霊体は居なかった。
「はい、先ずは扉から行きますね」
『真美、今からドンドン送るから頼むよ』
『はい、わかりました。いつでもどうぞ』
そこから遼真は扉や机や椅子などを触りながらサイコメトリーをしていった。
3年前の事なので何とか時間軸を遡って読もうとするが、
相当に強い驚きや思いが無いと残っている情報は少なかった。
しかし、その中から遼真達に関係する会話が聞こえて来た。
隣国系の言葉や顔つきの男たちの顔が浮かび様々な会話が聞こえてくる。

「『イン』さんとあいつは部屋の中で何をしてるんだろうな」
「さあね。今度あの憎き馬場への襲撃を計画してるみたいだけどどうだろう。
 いつもあいつはオドオドして何も出来ない奴なのにねえ」
「小さな頃から宗教で親に心を塗り潰された奴は自分の意思を持てないからなあ」
しばらくすると二人は部屋から出て来た。
深く帽子を被りサングラスをしている『イン』氏が見える。
「じゃあ任せたよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
とテロリスト出口が、ニッコリと笑って握手をしている。
「イン」氏は、事務所を出て行った。
目を凝らして彼の顔を拡大してみた。
どこかで見た輪郭だったが、
顔が何重にも重なっている様に見えて明確にはわからなかった。

違うシーンでは、事務所の男達の話し声が聞こえる。
「あの雑魚の出口があんなすこい事件を起こせるなんて何をやったんたろね」
「ああ、『イン』さんたよね。我々の中ではあの出口が一躍英雄ね」
「そうそう、これて日本の軍国化を遅らせることがてきたね」
「うん、しぱらくしたら本国から『我々に戻れ』と連絡があるたろうな」
「前の様にあの芸能事務所の役者の振りして出国するのかな?」
「ニポンジンに薬を売ったり、女を薬漬けにして外国へ売ったり、
 使えない男は内臓を売ったりと我々もたいぷ儲けたからちょうといいね」
「そうかもね。それはそうと今日『イン』さんがここに来るってさ」
「出国の打ち合わせかな?楽しみね」
やがて『イン』氏が事務所を訪れ、事務所全員を連れて出て行った。
翌日に『イン』氏が入って来て、
机や金庫などの中の書類などをまとめてたくさんの箱に詰めて出て行った。
結局『イン』氏は誰かわからなかった。

しばらくすると別のシーンとなり
「急に契約を辞めるって、あの国の人は訳がわからないね。
 まあ机や椅子とかロッカーはそのまま使って良いらしいからまあいいけど」
「君子、豹変すとかの国だからねえ」
「でも机の中の物を全て捨てろって勿体ないよね」
「まあ使えそうなのは、事務所で保管して使えばいいんじゃない?
 この燃えない物とか捨てるにも曜日が決まってるし使えばいいじゃん」
「そうだね。しかし何をしている会社だったんだろうね」
「さあね。日本人じゃないからもしかしてスパイ組織だったりして」
「へえそうかなあ?何か小説みたいだね。まあ仮にそうだっても驚かないな」
「それにここの跡片付けのお金として、
 あのサングラスの人、ポンと分厚い封筒を鞄から出してたよな?」
「そうそう、これくらいだからどれくらいだろ。
 きっと何百万ものお金なんだろうな。中を見た社長も驚いてたぜ」
「それに領収書も要らないと言って帰って行ったよな」
「本当にスパイ小説みたいに思えて来た」
「このこと本当に他で誰にも話すなよ」
「わかってるよ。あんなにくれたんだから口止め料も入ってるだろね」
「そう、要らないおしゃべりをしたら命が無くなったりしてな」
「ひえぇ怖いよう」
「まあ早く片付けようや。あまり遅いと社長に怒られるぜ」
「はーい」

最後にテロリスト出口と『イン』氏の入っていた部屋の机を触る。
『イン』氏の話を聞いているテロリスト出口の顔が映り始める。
最初はオドオドして下を向いて相槌を打っている。
『イン』氏が、そっと片手を出口の頭の上にかざす。
その瞬間、
『イン』氏の手から赤黒い液体状の物が出口の頭へと落ちる。
それは出口の髪の毛に落ちると頭皮に滲み込むように消えて行った。
徐々に出口の表情が変わり自信の溢れる笑いが出始めた。
それを見た『イン』氏はニコリと笑うと
「じゃあ、もう大丈夫だね。さあもう行こうか」
「はい、任せて下さい。もう大丈夫です」
普段はオドオドしているテロリスト出口が、自信あり気な顔つきで笑った。

『!』

その時、胸ポケットに居るキインが空中を睨むと炎を吐いた。
やはり遼真の身体に貼っていた『身代わり護符』は、またもや二つに切れていた。
『深淵を覗くものは深淵から覗かれる』との意味を再び知った遼真だった。
遼真は記憶にある『イン』氏の顔をもう一度真美へ送った。
『イン』氏が、テロ事件に深く関係してる事がわかった。
後は『イン』氏の正体が、誰なのかを調べる必要があった。
遼真はやっと事件の真相部分に一歩近づいたことを知った。

遼真は、宮尾警部と小橋刑事に捜査結果として以下を伝えた。
ビルや事務所の中に東アジア平和会に関係する霊は居ないこと。
東アジア平和会の目的は、日本の軍国化を阻止すること。
東アジア平和会の資金源は、覚醒剤販売、奴隷販売、臓器販売などで犯罪組織だったこと。
東アジア平和会のメンバーにテロリスト出口がいたこと。
あのテロ事件に正体不明の『イン』氏という人物が深く関わっていること。
東アジア平和会とどこかの芸能事務所が関係していること。
東アジア平和会のメンバーは、芸能事務所の伝手で出国したこと。
しかし、隣国からは彼らが帰国していないと言って来ている点が異なった。
宮尾警部と小橋刑事は、それらについて警察庁内資料にも当たることを約束した。

その夜、遼真は真美からの誘いを宮尾警部と小橋刑事に伝え3人で家へと戻った。
晩御飯は真美が腕に縒りをかけて作った
「パリパリジャンボかき揚げの天丼と大玉ざるうどん」
「具材10種の太巻きとジャンボイナリ寿司」
「鯛身のシンジョの潮汁」
もちろんいつもの様に警部たちも遼真も大喜びで腹一杯食べた。
そして警部たちとコーヒーを飲みながら打ち合わせて夜は更けていく。

7.霊査3(旧宍戸家鷹の部屋)(第8章:占い死)

廊下の一番奥の長男の鷹の部屋は、
綺麗に掃除されており机と椅子くらいしかなかった。
机の一番上の引き出しには、
真ん中に綺麗に折りたたまれた分厚く白い布と
その下に並べて置かれた白い長さ約20センチほどの
ちょうど両端が関節状の節のある骨状の物が入っており、
その他の引き出しの中には何も入っていなかった。

先ずは机をサイコメトリーしていく。
鷹は毎日遅くまで勉強をして成績も優秀であることがわかる。
たまに古文書らしき本を読んでいる。
『宍戸家秘伝書』と表紙には記載されている。
記載されている文字の色は、赤黒くなっており墨だけではないと思われた。
時々、鷹は鼻を近づけて匂いを嗅いでいる。
そして、首を傾げて『赤い墨かと思ったけど違ったか』と呟いている。

中学1年生の時、偶然蔵の掃除をしていて、
厳重に保管されていた古文書を見つけて、
父へ貸してもらう様にお願いしたのだった。
最初は古い文字のため解読が難しかったが、
古文書の読み方などの本を町の図書館で借りて、
毎日勉強の合間に少しずつ勉強をしてからは少しずつ読めるようになった。
そこには宍戸一族の歴史とシシトー神についてのことが記載されているようだ。
秘伝書の中身まではわからないが相当に古い時代のものと思われた。

次に分厚く白い布にサイコメトリーを行った。
鷹が父親と一緒にお墓を掃除し始めた姿が映り始めた。
父親の隼が、『忘れ物をした』と言って母屋へ戻っていく。
鷹は気にせずに正面にある大きな石が組み合わされた石舞台を拭き始めた。
正面に回って来て、四角く切り目の入った部分を拭いている時、
『ガタン』と音がして、その切れ目の部分が外れた。
鷹は一瞬驚いたが、
そこから見える中の空間はいつも掃除されているかの様に綺麗だったため、
鷹は『きっとお父さんが掃除をしている時にはこの中も綺麗に拭いている』と考えた。
そしてすぐさまその神域へ入って行く。
石室の真ん中には、表面がツルツルの石で作られた高さ50センチ位の台座の上に、
一辺20センチほどの正立方体の大きさの石で出来た箱が設置されていた。
鷹はそれらの内壁や部屋の真ん中にある石の台座や石の箱を丁寧に拭いた。
やがて父は忘れ物を取って戻ってきたが、
中には入って来ず驚いた様子でこちらを見つめたまま地面に尻餅をついている。

その時、その小さな箱の蓋が開き始めている。
「お父さん、この小さな石の箱って、大事な物やないの?
 お父さんも入って来て見てみいよ」
父の隼はなぜか入ってこない。
入口に立ったままじっとしている。
「・・・鷹、
 それはとても大事なものやから丁寧に拭いて綺麗にせえよ」
「僕がしてええの?お父さんがするべきやないの?」
「・・・いや、お前がすればええ。きっと神様も喜んどると思う」
「そうなん?あれっ?蓋が開いとる」
石の箱を覗き込んだ時、一瞬赤黒い何かが見えたがわからなかった。
「・・・中に、何が・・・うっ・・・」
「鷹、大丈夫か?」
「・・・うん?あれっ?
 一瞬意識が無くなった様に思うたけど・・・気のせいやな」
いつの間にかその正立方体の石の箱の蓋は閉じられているようだ。
「鷹、その石の箱には何が入ってたんや?」
「うーん、何だったかな?覚えてないわ。
 それにもう蓋が閉まってもうて開けれれへんわ」
「そうか・・・まあええわ。その中を綺麗に拭いたらもう出て来ていいぞ」
「うん、ここは扉あったんやね・・・知らんかったなあ」
父親の隼は、不満と羨望に染まった何とも言えない目で鷹を見つめていた。
その時、その父の視線を鷹は見ていなかった。

次に白い約20センチほどの骨状の物に触る。
山の中の風景が流れ込んでくる。
家に近い山道にある藪が揺れて突然大きなイノシシが飛び出して来た。
よく見ると後ろ足から血を流している。
すごく興奮していて、一瞬止まりこちらを睨んでいる。
鷹は突然のことで驚いて身体が動かなかった。
鼻息も荒く鋭い牙を閃かせ叫び声を上げてイノシシがこちらへ向かってくる。
口元の長い鋭い牙が噛み合わされて頭から突っ込んでくる。
思わず後ずさった時、
地面から出ている根に足を引っ掛けてお尻から倒れてしまった。
イノシシの牙は長く鋭いため、
切られる場所によると死ぬこともあると言われている。
鷹はイノシシから逃げる様に、
両手を前に出して絶望感から空に向かって叫んだ。
「神さん、助けて。あんなんに襲われたら死んでしまう」
その瞬間、
イノシシは『プギャー』と叫び声を上げて
突然イノシシのスピードが落ちると尻餅のついた鷹の足先に倒れている。
足先でそっとイノシシの鼻を軽く蹴って確かめる。
四つん這いで恐る恐る近づいてイノシシを見ると
そのイノシシは口元から血の混じった泡を噴いて既に死んでいる。
鷹の右手にはなぜか動物の白い骨の様な枝が握られていた。
尻餅をついた時、手の付いた下に偶然あったと思われた。
「えっ?
 なんで?
 このイノシシ死んだん?
 この枝かな?骨かな?
 これに何か力があったんかな?
 そんな筈はないから偶然か・・・きっと神さんやな。
 何かようわからんけど、神さんありがとうござました。
 今晩は、このイノシシを神さんへ捧げます」
鷹はその場で空に向かって手を合わせて、
イノシシの足に紐を掛けて引っ張って家へ帰った。
家に居る父へイノシシに襲われたけどなぜか死んだことを伝えると、
「それは神様のお陰やな。きっとお前を守ってくれたんじゃ」
とその場で空に向かって手を合わせて感謝している。
父はすぐにそのイノシシを解体して、
大きな心臓を取り出すとすぐに墓の奥にある石舞台の正面に祀った。
その神への感謝祭は、
父が猟をして獲物を狩った時にも必ずしているものだった。
翌朝になるとカラスにでも喰われたのかイノシシの心臓は無くなっている。
その夜から宍戸家はしばらくの間、イノシシ肉の鍋や串焼きを堪能したのだった。
その翌日学校でそのことを友人に話すと、
里の近くで大きなイノシシに襲われたことにも驚いていたが、
突然死んだ話をすると『それは不思議やわ』ともっと驚かれた。
それ以降、鷹はポケットの中にその骨状の枝をいつも入れる様になった。

次に流れて来たシーンは、囲炉裏端で父の隼が暴れている光景だった。
「父さん、もう止めて、お母さんが血を流しとる」
「うるさい。お前が大学に行きたいとか言わなんだら良かったんじゃ」
隼は大きな身体で立ち上がり鷹の胸倉を掴むと鷹の頬が張られた。
鷹は大きく吹き飛ばされて後ろの箪笥へぶつかり強く頭を打った。
しばらくすると額が切れたのか右目に額からの血をが流れ込んできた。
廊下側を見ると
鷲と鈴女も急いで逃げて襖の陰からそっと怖そうに父親を見ている。
「お前もお前であかん言うたらあかんのじゃ、
 ほんまにいつもいつも同じことを言うんわ止めれや。
 なんでわからんのじゃ」
隼が囲炉裏端に座り込んでる鶴の胸倉を
片腕で掴んで持ち上げて鶴の頬を張ろうとした。
「父さん、止めて。母さんに酷いことせんといて」
鷹はポケットの中にあるお守りの枝を握っている。
その時、
「うっ、あっ、痛い、苦しい、どないしたんじゃ、なんでじゃ」
突然、父の隼が鶴の身体を放すと胸に手を当てて苦しみ出した。
そしてその場で倒れると苦悶の表情で身体を捩じり始めた。
「うっ、ううう・・・」
「!?お父さん、どうしたん?大丈夫?」
鶴が驚いて急いで倒れた隼の近くににじり寄るとその身体を抱いて揺すった。
「ううう、くるし、ぎゃあー」
倒れた隼は、鶴を振りほどくとすでに青黒い顔色となり
囲炉裏端でバタバタと海老反りになって暴れて苦しんでいる。
鷲と鈴女は驚いた様に父親の苦しむ姿を見ている。
やがて父は静かになった。
そこまでの映像が流れ込んで来たので真美へと送り念写してもらった。

次に流れてきたシーンは、
山の中で破れて汚れた洋服や下着が散らばっている場面だった。
鈴女が目を覚ます前に鷹は、現場へ急行し破れた服や下着を集めて戻り、
それらを白い袋にまとめて入れて大きなボストンバッグに詰め込み、
東京へ戻るとすぐにそれらは焼却された。

最後に流れて来たシーンは、
河原で暴走族が屯している姿が見え始めた。
彼らは煙草や酒を飲みながらシンナーをビニル袋に入れて吸って騒いでいる。

『!』

その時、キインが何かを警戒するように辺りを見回して、
体毛を毛羽立たせて、同時にその口より空中へ炎を吐いた。
同時に遼真も何者かからの視線を感じた。
その視線に殺意は無いが自らを見られた事を認識した視線だった。
夢見術もそうなのだが、相手の世界を見る時は、
逆に相手からも見られる可能性もあることを常に意識しておかなければならない。
遼真は、身体へ『身代わり護符』を貼っているが動かず霊的な気配を断った。
しばらくその視線が遼真のいる辺りを彷徨っていたがいつの間にか感じなくなった。
後で確認するとその身代わり護符は真っ二つに切れていた。
もし仮に事前にこの護符を貼っていなければ、
この瞬間に遼真は憑依されたか命を失った可能性があった。
それほどにその何者かの力は強力であった。

6.霊査2(旧宍戸家夫婦、鷲と鈴女の部屋)(第8章:占い死)

囲炉裏のある居間を出て各部屋へ入って行く。
残された家具などで何となく誰の部屋なのかがわかった。
母親の鶴の部屋には、古い小さな箪笥や卓袱台が残されている。
それらからは、若い夫婦の穏やかな楽しい生活から子供の生まれた喜びの日々が伺えた。
しかしある時を境に夫の隼の態度が変わり深酒し暴れる様になっていく。

それは長男の鷹が中学生となり一緒にお墓の掃除をしていた時のことらしい。
隼が妻の鶴に伝えた状況は以下だった。
隼が忘れ物をして家に戻り荷物を持ってお墓へ向かったおり、
石舞台状の正面の四角い切れ目の
今まで開く事の無かった『シシトー神殿』の扉が開いていた。
隼は初めての光景に驚いて、その場で腰を抜かした。
隼としては正面の四角く彫られた切り口は、
今まで単に深い筋を表面に彫っただけのものと思っていたのだった。
まさか本当に扉になっているとは考えていなかったのだった。
そしてなぜか透明の膜の様な物が入り口には張られ
現在宍戸家の長である隼でさえその中へ入ることが出来なかった。
その時、隼は息子の鷹が、シシトー神に選ばれた者であることを悟った。
なぜ今までずっとお世話してきた自分は相手にされず
たまに世話する息子が選ばれた理由がわからないと酒を飲むたびに荒れた。
それとは別のシーンでは、
鷹がその石舞台の中にある石箱を覗き込んだ時、
一瞬何か赤黒いモノが鷹の顔に向かって伸びあがり
顔へ貼り付きすぐに消えてなくなったことを
目の錯覚だったかもしれないと不思議そうに話している。

隼の酔っ払った言葉から読み取れることは、
その扉はこの神殿が出来て以来過去数千年間開いていないとされている事。
宍戸家に伝わる秘伝書にも、
最初シシトー神を祀って以来開くことは無かったと記載されている事。
隼も幼い頃から父親の梟を手伝っていたが、
扉が開くことや神殿の中を見るのは初めてだった事。
隼もその中へ入ろうとしたが何か透明の膜のような物に阻まれて入れなかった事。

次の部屋のドアを開けると
机と使われなくなった古い小さなディスプレイがある。
どうやら次男の鷲の部屋のようだ。
遼真はその古いディスプレイでサイコメトリーを行った。
当時の鷲の状況が流れてくる。
学校の授業が終わるとすぐに家へ帰り部屋に籠り画像の編集に集中している。
画面の中では、普段と違い少しだけ明るい風にしているようだ。
撮影が終わるとため息を吐いて背伸びしてコリをほぐす様に首を回している。
テーマは「不思議な世界」で世の中の都市伝説を取り扱っている。
このテーマは、古くからずっとアルアルなテーマなため、
最近の話題に変えて作品を作ればそれなりに暇つぶし目的の視聴者は稼げた。

次男の鷲のハンドルネームでネット検索すると多くの作品がヒットしてくる。
その中に「丹波篠山、暴走族、謎の大量死事件」という作品があって
「天罰だ」とか「現代の怪談だ」とかの多くのコメントが寄せられている。
画像には死んだ暴走族の行状らしき画像も含まれており、
彼らがシンナーを吸うために屯していた場所や
彼らが土日の集会などで集まった画像もふんだんに使われている。
結局は、集団シンナー中毒による死亡と報道されているし、
社会から外れた行動していた彼らには憐みや悲しみのコメントは一切無かった。
しかし不思議な事にそれら多くのコメントの中には、
地元で噂され関係している思われる宍戸家や鈴女の情報は一切見当たらなかった。

遼真は次男鷲の部屋を出て隣の部屋へと入った。
扉を開けて入った途端籠っている甘い香りに気がついた。
本棚や机も可愛い色柄で鈴女の部屋だったことは明らかだった。
遼真は机の一番上の引き出しを開けると
手前に小さな「ヒヨコ柄の匂い袋」が仕舞われてたことに気付いた。
そっとその匂い袋を両手に挟み、サイコメトリーを行った。
昨日鈴女の情報を話してくれた高巣雛子の当時の顔が浮かんでくる。
二人で登下校したりお祭りに行って笑い合っている光景が浮かんで来た。
夜祭りの屋台でりんご飴を買って帰る二人。
「じゃあね。鈴女、明日東京へ帰る前にもう一度会いたいね」
「うん、わかったよ。今日は楽しかった。誘ってくれてありがとう」
「うーうん、私こそ、鈴女に会えて嬉しかった。私も大学は東京を目指すね」
「うん、待ってるね。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」

遼真は一瞬嫌な予感がしてここから真美には映像を送らなかった。
「真美、しばらくは映像が送れない。また連絡するね」
「遼真様、何かあったのですか?大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと込み入った内容だから後でまとめて送るから」
「はい、待っていますね」

匂い袋からの映像は途切れる事無く流れ込んでくる。

しばらくして鈴女の周りに暴走族のバイクが集まり始めた。
逃げようとしてもその方向へバイクが急に出てきて逃げることが出来なかった。
「何か用ですか?やめてください」
と叫ぶも暴走族の男達はエンジンをブンブン吹かすだけだった。
この辺りには民家は無く、一番近いのがまだ遠くにある宍戸家だった。
大きなバイクの身体が大きいボスらしき男が降りると、
逃げようとする鈴女を抱き竦めて
ニヤニヤしながら持ち上げてバイクの後ろに乗った仲間へ渡した。
「やめて、お願い、降ろして」「誰か助けて」と叫ぶも、
多くのバイクのエンジンを吹かす大きな音に消されてしまう。
鈴女はその場所から連れ去られ遠くの山の中へ連れ込まれた。
最初は必死で抵抗していたが、
ボスらしき男に意識が無くなるくらい殴られ、
気がついたら洋服も下着も剝ぎ取られていて、
誰も触れさせたこともない大切な場所へ無理矢理ねじ込まれた痛みで意識が戻った。
その後は、死体を漁るハイエナの様に5人の暴走族仲間に何度も犯され、
意識が無くなっては頬を殴られ意識を戻され、身体中を彼らの精液で汚された。
そして、事が終わった後、
失神している鈴女はその場に捨てられていた汚い毛布に巻かれて
宍戸家の近くの道端へゴミの様に捨てられていた。
帰って来ない娘を心配していた母親の鶴が、
夜中のバイクの音に気付いて恐る恐る歩いて来ると
汚い毛布に巻かれた傷だらけの全裸の娘を見つけた。
母親の悲鳴を聞いた鷹が家から走り出て来て、
毛布に巻かれた傷だらけの娘を抱いて放心している母親を見つける。
警察に連絡しようとする鷹を母親は必死で連絡することを止めさせた。
娘が傷物との噂になることを恐れたのだった。
鷹は毛布のまま鈴女を抱き上げて急いで家へ入り、
すぐに鈴女を風呂場へ運び、身体の汚れ取りは母親に任せた。
物音に気がついた鷲が自分の部屋から顔を出して心配そうに鷹を見て来た。
鷹は厳しい顔をして、左手に「ヒヨコ柄の匂い袋」、
右手に白い枝の様な物を握り締めてじっと中空を睨んでいる。
その視線は、天井ではなく遠くの空間を見ている様な視線だった。

翌朝、太陽が昇る前に鈴女は自らの悲鳴で目を覚ました。
隣に添い寝していた母親が抱きしめて家の中であることを伝えて安心させる。
そして家に常備している酷い傷用の強力な睡眠薬を飲ませて眠らせた。
翌日昼前に鈴女の友人の雛子から電話があったが、
『学校関係で急用ができたので東京へ帰った』と伝えた。
身体中にある擦過傷は、猟師の家なので怪我の治療用の薬もたくさんあって、
化膿止めを塗り包帯をして保護し、抗生物質も飲ませた。
鷹は鈴女の妊娠の可能性も考えて急いで東京へと向かった。
その間に近くの産婦人科へ予約し母親と産婦人科へ行かせ
その日のうちに妊娠の有無の検査とアフターピルを飲ませた。
このアフターピルとは、避妊に失敗したり、性犯罪に巻き込まれたりした際、緊急的に妊娠を阻止する薬のことで、性行為後72時間以内に服用しなければ十分な効果は得られず、
24時間以内に服用した場合は、95%は妊娠を阻止できるといわれている。
以前は産婦人科受診でしか処方できなかったが、2019年以降、婦人科受診に精神的な負担を感じたり、処方する医療機関の受診が困難な患者を対象にオンライン診療での処方が可能となっている。
家族の祈りも効いたのか何とか最悪の望まぬ妊娠は回避できた。
しかし被害者となった鈴女は精神的に不安定となり、
その日から休学させ静養し定期的にメンタルクリニックへ通わせる日々となった。

その後、鈴女を襲った暴走族メンバーは、
シンナー中毒となり全員が輪になって河原で死んでいるところを
地元の散歩している人が見つけて全国へ発信される大ニュースとなった。
その事件後、鈴女は一度だけ実家へ戻って友人と会い話をして帰った。
この匂い袋を見るとあの事件を思い出すので嫌だが、
親しい友達の気持ちも大切にしたい鈴女が
捨てることもできず悩んで引き出しに入れたままにしている。
この匂い袋は事件の最初から最後まで鈴女の掌に握られていたことがわかった。
「真美、そろそろ送るからね。
 ちょっと危ない顔した男ばかりだから驚かないでね」
「わかりました。大丈夫ですよ。慣れていますから」
遼真は、暴走族の男達の顔を真美へ送り、真美はその映像を念写した。

5.霊査1(旧宍戸家の居間)(第8章:占い死)

翌朝、前日夜にコンビニで買ったサンドウィッチを食べて、
遼真は身体へ『身代わり護符』を貼っている。
これは悪霊からその姿を見られた時に、
悪霊の目に映る姿が、実の本人とは異なる姿にできる符であった。
仮に攻撃されても最初の1回は、その攻撃を防ぐことができた。
宍戸屋敷近くの空き地にバイクを停めて持参したドローンで撮影を開始した。
ヘルメットのシールド部分にドローンからの画像が映る。
屋敷は誰も住んで居らず白土の蔵と共に静かに建っている。
広い庭は定期的に庭師が入っているせいか綺麗に整形されている。
屋敷の奥の深い森の手前には丸い形状の盛り土の小山があり、
その小山の屋敷側には小山も含めて周りを板状の石柱で囲まれた場所があった。
その場所の入口左右に大きな古い石灯籠二基が設置され、
その後ろには多くの苔生した古い墓石群が建っている。
その墓石群の後方にある小山の屋敷を向いた正面には、
大きな自然石で組み合わされた石舞台状の物、
特にその大きな石の前面には一辺1メートル50センチほどの、
深く四角に切られた深い溝らしきものが見える。
その正面の石には「北極星と北斗七星」が描かれている。
それは大きな力を持つ何かが潜んでいる様に感じられる磐座で、
遼真は世間には知られていない『古墳』ではないかと感じた。
ただ不思議なことに大きな力の存在は感じるが、
何かを訴える様な意思らしきものは何も感じられなかった。
その古墳状の物は、教科書に載っている様な有名なものではなく、
もっと形式の古い物で、もしかしたら縄文時代初期の物かもしれなかった。
古代から現在まで変わらず瘴気の様なものが溜まり続けている様に感じた。
ドローンのカメラをX線撮影に切り替えるとその古墳の様な物の本体が映る。
ドローンからの映像には、
上部の土の下、地中に隠された小さな四角錘型の石組みが浮かび上がった。
ただその地中にあるピラミッド状の石組みは、
キインの目から見てもその石組みが何重にも重なり合って見えるのだった。
この石組みは、単なる石組みではなく霊的な何かと思われた。

キインは屋敷の屋根の通風口から侵入して屋敷内を見ていく。
キインの目と同調している遼真には、
機械では捉えることのできない者たちがぼんやりと映りこんでくるはずだったが、
墓の周りにも屋敷の中にも霊体らしき姿は見えなかった。
通常、ここまで古い建物の場合、
最低でも数体の霊がいるものだが見えなかった。
ドローンで慎重に調べても、
宍戸家には監視装置は付いていない様なので侵入することにした。
比較的簡単な造りの御勝手口の鍵へ
館林京一郎作の自動鍵開け機の『すぐあける君』を使って忍び込んだ。

屋敷に入ると少し黴臭くひんやりとした空気が漂っている。
たまに空気換えと共に掃除をしている様で全く埃も溜まっていない。
居間らしき場所には囲炉裏が置かれ壁には古い家具は置かれている。
遼真は真美へ今から霊査に入ることをテレパシーで伝える。
「おはよう。真美、そろそろ始めるけどどうかな?」
「遼真様、おはようございます。
 昨夜はお身体大丈夫でした?
 お腹空いていませんか?」
「ありがとう。大丈夫だよ。ご飯はコンビニでサンドを買ったよ」
「私も一緒なら美味しい物持ってくのに残念です。
 それともう準備は終わっています。いつでも私へ送って下さい。」
「ありがとう。じゃあ始めるよ」
先ず遼真は、囲炉裏の自在鉤をそっと触りサイコメトリーを行った。
キインが遼真を悪霊から守る様に遼真の肩口へ待機する。

穏やかな5人の表情が映り始める。
父親らしき隼《しゅん》、母親鶴、その周りに3人の子供達。
自在鉤に掛けられた鍋からお椀へよそっていく鶴。
火の周りに並べられている良い焼き色の串に刺された川魚。
子供達は白いご飯を食べながら鍋のお汁と魚を食べ始める。
父親の隼は、コップへたっぷりとお酒を注いでガブガブ飲み始める。。
子供達の怯えた顔が父親を見つめる。
しばらくすると子供達は急いで食べ終え、すぐに立って子供部屋へと向かう。
「おい、飯くらいゆっくりと食べたらろうだ。
 そんなんれはお父さんの身体の様に大きくならないろ」
すでに下の回りが怪しくなり言葉の端々が不明瞭になり始めている。
「お父さん、いつもありがとう。
 鷲も鈴女もたくさん食べたよ。ご馳走様でした」
「そうそう、鷹、お前はすごく勉強がれきるみたいやな。
 れもお前は長男やから今度高校を卒業したら
 家でお父さんの仕事の手伝いせんとあかんぞ」
それを聞いた母親の鶴が急いで夫へ話す。
「お父さん、高校の担任の先生から鷹は高校設立以来の成績で、
 すごく優秀やからぜひ大学へいかせてはどうかと言われてるんよ。
 国立大学やからそれほど授業料も高くないし奨学金制度もあるし、
 本人もバイトなんかをして頑張るって言ってるし、
 せっかく鷹がこんなにすごく頑張ってるから大学へ行かせたいんだけど」
怪訝な顔をした隼が鶴を睨む。
「大学?猟師に学歴は要らんだろ、高校も要らんくらいやぞ。
 それにうちにはもっと大事な役割があるの知ってるやろ?」
「はい、それは知ってるけど、私たちもまだ若いし、
 せめて子供達が望むんなら大学へ行かせてやりたいと思っています」
「大学?あかんあかん、そんな意味のないお金を使うのが勿体ないわ」
それを聞いていた鷹が我慢できずに
「父さん、大学卒業したらちゃんと家に戻って父さんの後を継ぐからお願いや」
コップの酒を飲みながら鷹を睨んで
「あかんあかん、ましてやこの国の政治のど真ん中の東京になんかあかん」
「なんであかんの?」
隼が苛立ちながら妻と鷹を睨むと
「とにかくあかん、話はここまでや」
「お父さん、それは鷹がかわいそうや。何とか行かせたげて」
「うるさいのお、わしの言う事を聞かん奴はこうじゃ」
隼はコップを鶴へ投げつけた。
コップは鶴の額へ当たり、その衝撃で割れて額が裂け血が流れる。
「父さん、もう止めて、お母さんが血を流しとる」
「うるさい。お前が大学に行きたいとか言わなんだら良かったんじゃ」
隼は大きな身体で立ち上がり鷹の胸倉を掴むとその大きな掌で鷹の頬を張った。
「パーン」
鷹は後ろに大きく吹き飛ばされて
『ドスーン』
鷹の身体が箪笥へぶつかり頭から血を流して座り込んだ。
鷹は尻餅をついて下からじっと暴れている父親の隼を見つめている。
鷲と鈴女も急いで廊下へ逃げて
襖の陰からそっと怖そうに父親の様子を見ている。
「お前もお前であかん言うたらあかんのじゃ、
 ほんまにいつもいつも同じことを言うんわ止めれや。なんでわからんのじゃ」
隼が囲炉裏端に座り込んでる鶴の胸倉を
片腕で掴んで持ち上げて更に鶴の頬を張ろうとした。
「父さん、止めて。母さんに酷いことせんといて」と鷹が叫んだ。
隼は鶴の胸倉を掴みながら鷹を睨んで口汚く罵る。
「このボケが、何回も何回も、いらんこと言うからじゃ。もう二度と・・・」
その時、
「うっ、あっ、痛い、苦しい、どないしたんじゃ」
突然隼が鶴の身体を放すと胸に手を当てて苦しみ出した。
そしてその場で倒れると苦悶の表情で身体を捩じり始めた。
「うっ、ううう・・・」
「!?お父さん、どうしたん?大丈夫?」
鶴が驚いて急いで倒れた隼の近くににじり寄るとその身体を抱いて揺すった。
「ううう、くるし、ぎゃあー」
倒れた隼は、鶴を振りほどくとすでに青黒い顔色となり
囲炉裏端でバタバタと海老反りになって暴れて苦しんでいる。
鷲と鈴女は驚いた様に父親の苦しむ姿を見ている。
鷹は箪笥の前で足を投げ出して
手を後ろに付いたまま座って放心した様に父の姿を見つめている。
やがて隼は静かになり身体の動きが止まる。
母親の鶴は思い出した様に急いで電話に近づくと
「そうや、救急車を呼ばなあかん。何番だった?忘れてしもた」
「母さん、救急車は119番や、
 僕が掛けるからお母さんはお父さんの近くで様子を見といて」
「鷹、頼むわ」
母親の鶴は、倒れた夫の隼の横に座り心配そうに身体を擦っている。
その後、しばらくして救急車が到着して、
救急隊員が倒れた隼へ声を掛けて心臓マッサージを行うも
その止まった心臓の動きが元に戻ることは無かった。
警察による検死の結果は、
急性心筋梗塞で心臓の太い主要血管全てに大きな血栓が詰まった病死と聞かされた。

その後、隼の葬儀が行われた。
「鷹、母さん、これからどうしたらいいんだろ」
「お母さん、この前保険会社の人が保険金たくさん出るって言うてたから、
 そのお金使ってみんなで東京へ引っ越して新しい気持ちで頑張らん?」
「そうやな、それもいいな。でもお墓をどうしよう?」
「この前、お父さんから墓守の方法は、ある程度聞いとるから安心して。
 うちのお墓の一番大事な物をみんなと一緒に東京へ移して
 毎日祀ったらたぶん大丈夫でないかなあと思ってるんや。
 それ以外の家とか墓とかの管理は、
 母さんの実家の亀吉叔父さんにお願いしようよ」
「そうやな。それなら安心やな、
 しばらく亀吉にこの家の管理とお墓の水や花とかを頼もうか」
「そうやそうや。四十九日開ける頃には春休みやし、
 いま中学生の鷲や鈴女の転校にもちょうどええから
 四十九日を明けたらみんなで東京に引っ越したらいいやんか」
「わかった。そうしよ。新しい気持ちな、そうやな。
 それに色々あったしいつまでもこの家に居るん嫌やわ」
遼真はそれらのシーンの多くを映像として真美へと送る。
真美はその映像をデジカメへと焼き込んで行った。

4.捜査2(宍戸家情報)(第8章:占い死)

宍戸家は渋谷駅前のタワーマンションの最上階のフロア全てを購入し住んでいる。
遼真は真夜中に慎重にバトルカーからドローンを飛ばして
昆虫型盗視盗聴器のテントウムシの天丸とクモ助2号を庭へ降ろした。
天丸でビル外部の窓から、クモ助は室内へ侵入させて監視することとしている。
ドローンでの全体的な調査の結果、
マンション最上階の天井部にはヘリポートも作られており、
それは教団専用のヘリコプターの発着も可能だった。
家族全員同じ場所に住んではいても一緒にご飯を食べる訳でもなく
一緒にリビングで過ごすわけでもなく、
たまに顔を合わせても軽く話をする程度で各々が自分の部屋で勝手に暮らしている。
各人が必要な時に各々の部屋を訪れるかスマホで連絡をするような生活だった。

母親の鶴は、まだ60歳と若いが、あまり好んで外出をしていない。
年に数回国内で観光旅行や銀座などでショッピングをして楽しんでいる。
毎日の楽しみの一つとしては
芝生が敷かれた見晴らしの良い広いベランダで有名な薔薇や季節の花々を育て、
信者の家政婦に家事などを任せて趣味三昧の毎日を暮らしている。
映像に映るその表情も明るく幸せそうな顔をしている。
趣味は、油絵で彼女の作品への評価は高いと言われている。
作品のテーマとしては、人間の情念を抽象化させていると評されていて、
玄人|跣《はだし》で数年に1回程度の割合で個展を開催しているようだった。
鶴は毎晩、夫の位牌へ手を合わせて幸せな毎日の事柄を話しかけている。
たまに寂しそうに若いうちに亡くなった夫へ悲しみを伝えていることもあるが、
隼が誰にでも優しい人柄で家族や知り合いのみんなから慕われていたことを偲んでいる。
遼真が不思議に感じたのは、毎日が幸せそうな表情に見えるのに
なぜか彼女が描く絵画から与えられる印象は人間の苦しみが描かれている点で、
確かに夫を若い時に亡くしているので寂しいとは思うが、
作品から伝わってくるドロドロとした情念とは非常に強いギャップを感じた。

姫巫女の鈴女は、教団に行かない時は、母親よりももっと外出をせず、
夜は家政婦の作った料理を食べてお風呂に入ると自分の部屋に籠り、
世界中の有名なデザートやお菓子を取り寄せて食べて軽くお酒を飲んでいる。
それ以外は音楽を聴いたり、ゲームをしたり、映画を見たりしており、
たまにネットショッピングでおしゃれなドレスを買っては着替えて楽しんでいる。
どこにでもいる普通の女性の雰囲気で姫巫女と呼ばれている様には見えなかった。
しかし夜眠っている時には、なぜか悪夢に魘されている場合が多かった。
そんな時には、眠るために部屋の棚に並んでいるワインなどを飲んでいる。
そして手に教団のお守りをしっかりと握りながら再び眠っているようだ。
鈴女が働いていたとされる怪奇系雑誌社の従業員へ当時の彼女の話を聞いた。
女子大を出て事務員として入ったが、特にこれといった印象は無い。
一緒に夜ご飯を食べた時に、彼女の家は古くから続く、
本当かどうかは知らないが、とんでもなく古い時代から続く家系だと聞かされた。
今、彼女はあの教団の姫巫女をしているが、当時の彼女にそんな雰囲気は無かった。
どちらかと言うと大人しくて人見知りが強かった印象が強いと話してくれた。

次男の鷲は、教団の仕事が終わるとすぐに自分の部屋に籠り、
その日の料理が気に入らなければ、
ウーバーイーツで有名店のディナーなどを頼んで食べている。
お酒は飲まないし、水か炭酸飲料を常時部屋の冷蔵庫に備えている。
鷲の部屋は多くのパソコンとディスプレーが設置されており、
壁にも大型のディスプレーが取り付けられている。
その中で教団信者への公開用のユーチューブ番組の作成や
多くの企業や他の宗教本部のコンピューターへのハッキングにて情報を集めている。
鷲が働いていたIT企業の従業員に当時の状況を聞いたが、
プログラマーには有りがちな引き籠り気味で
会社で殆ど誰とも話をせずずっとパソコンに向かっている印象と聞かされた。

長男の鷹は、政治団体や教団幹部との打ち合わせも多く、
仕事で年間契約している都内のホテルに泊まり、
マンションの部屋には戻ってこないことも多かった。
ただ家へ帰って来た時には、
必ず先ず真っ先に広いベランダ奥に備え付けられた
二基の石灯籠の奥に建立された真新しい石製の祠へお参りをして長い間祈っている。
祠の正面には「北極星と北斗七星」が描かれている。
そして一日中家に居る時には、必ず祠のエリアを綺麗に掃除し、
掃除が終わった後は、
中身は不明だが祠の前に蓋の付いた小さな石箱をお供えしている。
その石箱の蓋にも「北極星と北斗七星」が描かれている。
数時間後、鷹本人がその石箱を丁寧に持ち自分の部屋へ入って行く。
鷹の部屋も鷲の部屋ほどではないがパソコンとディスプレーが並んでいる。
お酒が好きみたいで部屋に保管用専用棚やカウンターを作り、
有名なワイン、日本酒、ブランデー、ウイスキーなどが並んでいる。
ある時、珍しく彼が部屋へ戻って来た時に、何も連絡をしていないにも関わらず、
弟の鷲や妹の鈴女が鷹の部屋へ入って来るという不思議な事があった。
「兄貴、何かあった?」
「兄さん、今良い時なのになんなん?」
二人は連絡を受けて急いで顔を出した様な雰囲気で返事している。
そんな時、鷹は
「悪い悪い、用事はすぐ済むから許してくれ」
と言って教団の方向性や翌日からの指示を二人へ話し始めた。

遼真は、上京する前の宍戸一家を調査するため、
土曜日早朝、暗いうちに出発し兵庫県丹波篠山までバトルバイクで移動した。
遼真は、週刊誌の駆け出し記者に変装して宍戸一家のあった辺りへ近づいた。
宍戸一家は、町から離れた山深い場所に家を建てており、
家も大きく非常に古い造りで現在は誰も住んでいないようだ。
当時の同級生や近所に住んでいるお年寄りなどから宍戸家の情報を集めた。

〔父親隼《しゅん》の幼馴染からの情報〕
宍戸の家は、平安時代の貴族に始まる。
先祖は激しい政争に破れ、帝から激しい叱責を喰らいこの地へ幽閉された。
その時に都に居た妻や一族からは離縁され着の身着のままでこの地へ流された。
当時この地に古くから住む土着の人々、
特にこの山の一帯に住む一族の人間に衣食住の世話になり、
この地で妻を貰い、現在まで彼らの神を祀る者として生きてきている。
家の蔵にはその証拠となる家系図や古文書が保存されているらしい。

〔隼《しゅん》の猟師仲間からの情報〕
隼は身体の大きな凄腕の猟師で、
どんな獲物も、熊でさえも、一発で仕留めることが出来た。
なぜか隼と一緒に行くと獲物を大量に仕留めることができた。
家計に関しては、
多くのジビエ料理の店へ肉を卸す契約していたようで、
一人でもたくさん仕留めるので全然お金には困ってなかった。
大酒飲みで毎日浴びる様に酒を飲んでは酒乱のせいかよく暴れた。
特に家族への暴力が酷く、幼い子供達への暴力を防ぐために、
奥さんが身体を張って守りいつも顔や腕などに蒼痣を作っていた。
特に昔から病気らしい病気もしなかったのにある日突然心臓病で死んだ。
まあ家族に多額の保険金を残すことができて最後は家族孝行だったのでは?
奥さんや子供達は都会で穏やかに暮らしていると聞いている。

〔母親鶴の幼馴染からの情報〕
元々鶴と隼は同級生だったがそれほど話をする関係では無かった。
隼の家は、昔から周りの家と違い普通の家という雰囲気で無かったため、
周りの者はある程度距離を取って暮らしていた。
しかしある時、鶴が出会い頭に山中でイノシシと遭遇し逃げていた時、
隼がそれを偶然見つけて、手に持っていた猟銃でイノシシを倒したのが
二人の馴れ初めでまるで童話の『鶴の恩返し』だと笑っていた。
それを機会に二人は急速に仲良くなりいつの間にか深い関係となった。
鶴の家族は二人の結婚を最初反対していたが、
鶴がとうとう|鷹《おう》を身籠るとやっと二人の結婚を許したらしい。

〔鷹《おう》の幼馴染からの情報〕
鷹は幼い頃から勉強が良く出来て学校一の秀才だった。
東京の国立大学に入り卒業後、大手銀行へ就職していたが、
東京から何度か戻ってきた時にあって彼と話したことがあって、
その時には銀行を辞めて株式投資とかで生活をしていると言っていた。
弟や妹はそのお金で進学させていてすごい男だなと感心していた。
現在は妹が教主になった宗教団体の責任者みたいなことをしていると聞いた。
色々と聞いていると昔の不思議な話を思い出したようで、
彼が中学生の時、山の中で大きなイノシシに出くわしたが、
彼の前で突然イノシシが死んだのでボタン鍋にして食べたらしい。
彼も父親同様に猟に才能があるのかな?とみんなで話したことを思い出していた。

〔鷲《しゅう》の幼馴染からの情報〕
大人しい性格で兄貴ほどでは無かったが、
勉強が出来て、特にコンピューターには強かった。
引き籠りやすいタイプであまり友人は居なかった。
中学生の時から簡単なゲームやユーチューブを作成して遊んでいて、
それなりに視聴者数も稼いでいたと聞いている。
家族全員で東京へ引っ越してからは一切会ったことはない。
東京で会った友人に聞いた話では、IT企業へ就職していたが、
妹の姫巫女への覚醒に伴い教団の事務長として転職したとの事だった。
昔のオタクっぽい辛気臭い雰囲気とは違って、
東京での彼は非常に明るい印象になっていて驚いたと聞いている。

〔鈴芽《すずめ》の幼馴染からの情報〕
幼馴染の友人は、名前が「高巣雛子」。
鈴女からは「雛ちゃん」と呼ばれていたらしい。
鈴女の性格は大人しくて、
可愛いというより綺麗な顔立ちで学校では目立っていた。
手元が器用でクラブは手芸部に入り、裁縫や小物を作るのが得意だったらしい。
雛子が嬉しそうに見せてくれたスマホには、
今でも鈴女が作った「雀柄の匂い袋」が結ばれていた。
「これを持ってからなぜか運がついて、今も大切にしているんです。
今度鈴女ちゃんの会った時、友達の印として見せるつもりなんです」
当時、雛子もお返しで「ヒヨコ柄の匂い袋」を送ってお互い交換したと笑って話した。
鈴女は上級生や同級生からたくさん告白されていたが付き合った人はいなかった。
ただ高校生2年の夏休みに一度東京から実家へ戻って来てる時、
ちょうど町にお祭りがあって、久しぶりに友人達と一緒に出て楽しい時間を過ごした。
それが終わって家への帰り道に地元の暴走族に絡まれ
そのまま山の中に連れ込まれて乱暴されたと聞いたが本当かどうかはわからない。
後日なぜか鈴芽に乱暴したとされる暴走族全員が、
河原でシンナー吸入中に一斉に心臓発作を起こし大量に不審死している。
シンナー中毒死だが、当時『宍戸家の呪いでは?』とこの町では噂された。
その後、一度だけ彼女とは会ったが、
あの暴走族に乱暴されたという噂が嘘の様に明るく昔と一緒だった。
『誰が言ったか知らないけどきっと酷い嘘の噂だった』と雛子は怒っている。
現在、ユーチューブで見る彼女は、
信じられないくらい綺麗で神々しくて驚いているとの話だった。

〔鶴の実家大熊家からの情報〕
鶴の母親は亡くなっており、鶴の弟、亀吉が顔を出したが、
宍戸家の話をあまりしたくない様子で
姉や姉の子供達にもう何年も会っていないし何も知らないと
木で鼻をくくった様に言われた。
姉の鶴の願いで宍戸の実家を管理しているらしい。
近所の話では、相当な金額が毎年振り込まれていて楽な暮らしらしい。
鶴の実家へドローンを飛ばしクモ助を降ろして盗聴へ入った。
「今日は、どっかの雑誌の記者とか言う若い奴が来て驚いた。
宍戸家のことについて聞きたいんだと」
「お父さん、何も話さなんだよな?」
「ああ、当たり前やろ、あないにお金を貰ろといて何も話せんだろ」
「そうそう、近所に聞かれても適当な事しか言えんしなあ」
「別に何も知らんからいいんやけど、あの家は昔から気持ち悪いんよなあ」
「そやな。何か気味の悪い物が潜んどるようなそんな・・・」
「お前、それを言うな。行くのはわしなんやぞ。お前が嫌やと言うから」
「だって頼まれたのはお父さんやからねえ。それにすごく怖いんやもん」
「わかっとるわ。ただ月に1回、空気を入れ替えに行くだけやから簡単じゃ」
「早くあんな気持ち悪い家は潰してしまえばいいのに・・・」
「あそこには宍戸家のご先祖様の墓があるから無理やな」
「墓・・・そう言えばそうだったわ。あったな墓が・・・」
「おお立派な石灯籠付きの墓があったぞ。
確か石灯籠は置いたまま、要石は東京へ動かしたと聞いたけどなあ・・・」
「今でも不思議に思うんは、なんで隼さんは亡くなったんかなあと思う。
 確かすごく元気で病気一つしないって言うのが隼さんの自慢だったんやけど」
「そうやな。お医者さんの話では心臓発作で死んだらしいぞ」
「まだ40歳くらいで元気やのに心臓発作になったん?信じれれへんよなあ」
「うーん。もしかしてあいつは大酒飲みだったからそのせいじゃないか?」
「そうか。まあええか。その結果、たくさんの保険金が出たから家族は助かったよな」
「そうやな。そのお金の一部を使って鷹が稼いだとは言え
 あの大都会の東京の渋谷で住めるんやからなあ。わしらには無理やな。
 きっと今もわしらが想像出来んくらい儲かっとるんやないか」
「まあうちもだいぶ貰ってるから助かってるやんか」
「そうやな。たまーに家を見とるだけであんだけ貰えるんやからなあ。
 うちの子の進学にもだいぶ助けてもろたよなあ」
「それは感謝してる。
 でもなんか怖いからあの家の人はお父さんが相手してね」
「わかった。わかった。ほんまにお前はずるいなあ」
「そんなことないよ。この家の主人はお父さんやから任せてるんや」

その夜は、寒くもなく雲も少なく晴れていたため
東京ではとても見る事の出来ない無数の星々の瞬きを堪能しながら、
宍戸家の屋敷の近くの藪の中に簡易テントを張って眠った。
辺りに灯り一つない真っ暗な自然の中で飲むコーヒーは格別だった。

3.捜査1(シシトー教団)(第8章:占い死)

藤波幹事長が倒れた翌日に
京都の祖父より「シシトー教団」を内密に調査するよう指示があった。
ただし注意する点として、直接相手と会わない様にして調査せよとのことだった。
理由としては、今までの調査段階において、
直接相手に会った調査を依頼した探偵に不審な死が見られたとの情報で、
現在日本で蔓延する多くの死の一部に教団との関連を示唆するものがあったらしい。
遼真は先ずネット等で情報の収集を開始した。

〔教団〕
住所:東京都渋谷区渋谷駅前ビル3階
名称:シシトー教団
教主(姫巫女):宍戸 |鈴芽《すずめ》
教主秘書兼教団責任者:宍戸 |鷹《おう》
事務長:宍戸 鷲《しゅう》

〔政党本部〕
住所:東京都渋谷区渋谷駅前ビル2階
名称:令和獅子党
党首:木村千種
秘書:中野海里

〔宍戸家の場所〕
生まれた場所は兵庫県丹波篠山市
現在渋谷駅近くのタワーマンション最上階にて家族で住んでいる。

〔家族関係〕
父:宍戸《ししど》 隼《しゅん》 
20年前45歳で病死。
母:鶴 60歳 
  夫の死後、長男|鷹《おう》の進学に伴い家族全員で都内へ引越。
兄:鷹《おう》 38歳
  東京の国立大学を出て、証券会社へ就職するも退職後、投資で成功を収める。
弟:鷲《しゅう》 35歳
  電子情報系の大学を卒業後、IT会社へプログラマーとして就職する。
教団設立と共に退職し、シシトーの館の事務長として勤務。
妹:鈴芽《すずめ》33歳
  都内の女子大を卒業して怪奇系雑誌社の事務員をしていたが、突然神懸かりとなり、
  シシトー神の館の代表として28歳の時にデビューし現在へ至る。

遼真は先ず『シシトーの館』と『令和獅子党』の調査に着手した。
『シシトーの館』の捜査を開始する話を真美へするとすぐに
「夢花ちゃんと一緒に『シシトーの館』へ客のふりしてクモ助を置いて来ましょうか?」
と張り切って言ってきたが、
もし敵に何かを悟られ二人に危害を加えられても困るのでその方法は止めさせた。
当然、直接遼真が館や政党本部へ侵入するわけにも行かないので
いつもの様にテントウムシ型の天丸とクモ型のクモ助の昆虫型盗視盗聴器を使って、
『シシトーの館』や『令和獅子党』の部屋へ侵入させての調査することとなった。
ビル近くの有料駐車場へバトルカーを停めて、暗闇に紛れて迷彩ドローンを飛ばす。
夜のためか室内に電灯は付いているが窓は開けられていない。
その間にビル周りの監視装置をドローンで調べていく。
当然多くの監視カメラがあって侵入は不可能だった。
翌日昼過ぎになっても2階と3階の窓は開けられることなく
残念ながら天丸やクモ助をビル内へ侵入させることは出来なかった。
2階と3階のフロアの清掃は、固定された清掃員で実施されている。
だが、その清掃員は教団信者を雇用しており変装しての侵入も不可能だった。
遼真はビルの従業員出入り口を監視し、清掃員である信者の二人を調査し始めた。
彼女たちの行動パターンを見ていくと、
朝の出勤前にビル近くのカフェでモーニングを食べており、
カフェに入る時間も彼女たちの座る席も決まっていることが判明した。
出勤すると彼女たちは政党本部の奥の小部屋で作業服に着替えて、
午前中業務を終えるとその小部屋でお昼ご飯を食べて、
午後の業務が終了する15時になると作業服を着替えて帰宅していく。

翌朝、彼女たちの入る時間の少し前にそのカフェへ入り、
彼女たちの座るであろう隅の席の隣のソファへ座り、
フレンチトーストセットのモーニングを頼んで彼女たちを待った。
やがて時間が来てビルフロア清掃員の彼女たちが店へ入って来た。
そしていつものように遼真の席の隣の席へと歩いてきて座った。
60歳前後の二人は最近のドラマ内容や子供や孫の話をしている。
二人の話を聞いていると清掃員と言っても業務内容は結構楽で給料も高いようで、
二人とも楽しい毎日を送っているようだった。
やがて彼女たちは化粧室へポーチを持って入って行く。
彼女たちの今日のお昼弁当や水筒などが入ったカバンはソファへ置かれている。
遼真はパソコンを使いながらソファの下に待機させていたクモ助を
彼女たちの大きなカバンの中へ移動させカバンの底の方へ潜ませた。
綺麗に化粧した彼女たちはカバンを持ってお金を払って店を出て行く。
そこからは彼女たちは2階の政党本部の小部屋へ入り着替えて仕事へと入って行く。
財布などの貴重品の入った服はロッカーへと仕舞われるが、
お弁当や水筒が入ったカバンは、
彼女たちが途中休憩で部屋へ戻るため無造作にソファの上へ置かれている。
遼真はやっと潜入に成功しほっとした。部屋の電気が消されている。
急いでカバンからクモ助を脱出させるとすぐさまロッカーの後ろへ移動させた。
すぐに部屋の電気が点いて政党本部の事務員らしき女性数人が入って来る。

「おはよう、今日も木村党首は外回りで居ないわ。
 でも時々帰って来るから安心していないで注意してね。
 言われたら必ずすぐにするのよ。そうじゃないと機嫌悪いわよ」
「わかったよ。
 ねえ、それはそうと木村党首と鷹《おう》様の関係ってどうなってるの?」
「関係って、そりゃあ木村党首が首ったけなんじゃない?」
「そうなの?」
「私たちには威厳を持って話してくるけど、
 この前偶然秘書の中野さんにバーで会って、
 なぜか彼女だいぶ酔っ払てて、その時に聞いたところによると
 鷹《おう》様と二人きりだともう蕩けてるみたいになってるらしいよ」
「もしかしたら中野さんも|鷹《おう》様のこと・・・」
「たぶんね。彼女もきっと好きなんだと思うよ。
 だってあんなにカッコイイんだもん。私だってもしそうならと思うもの」
「そうよね?お金も一杯あるし逆玉だもんね。
 だけど鷹《おう》様はどうなの?」
「鷹《おう》様は、女性には今のところ手が回らないみたい。
 相変わらず毎日毎日、この教団と政党本部を大きくするのに必死でがんばっているわ」
「そうよね?いつ見ても素敵だわ。鷹《おう》様のお嫁さんになりたいな」
「まあ無理ね。鷹《おう》様には、最強のお目付け役がいるわ。
 もちろん木村党首じゃないわよ」
「えっ?木村党首じゃないの?」
「違うわよ。彼女は単に鷹《おう》様のファン。姫巫女様、鈴女様よ」
「だって兄妹でしょ?」
「そうだけど、強度のブラコンみたいよ」
「そうなの?変なの。
 まあでも姫巫女様の立場からすれば
 神様が夫みたいな感じだから誰とも結婚はできないもんね」
「そうね。仕方ないかも。
 そうそう昔、鷹《おう》様が鈴女様の心を救ったんだって。
 鈴女様が何かの時にそんな話をしていたらしいよ」
「もしかしたら鷹《おう》様も『神の御子』なのかも、
 あの素晴らしい頭脳に真面目で心優しい性格といい神々しいよね」
「そうね。そろそろ行くよ。
選挙期間中だから忙しくて党首の機嫌が悪かったら嫌だからね」
「大丈夫、今日も|鷹《おう》様が一緒なんでしょ?きっと機嫌良いわよ」
「・・・まあ、そうだったわね。本当に鷹《おう》さまさまだわ」
二人は目を閉じて柏手を打って笑いながら部屋から出て行った。

お昼休みに清掃員の二人が帰って来てお昼ご飯を食べ始めた。
「今日は慌ただしかったね」
「まあ選挙期間中だからね」
「そうだった。そうだった。また投票とかお願いされるんだろうね」
「まあ仕方ないんじゃない?私たちここで給料もらってるし」
「まあ私たちで2票くらいだけど少しは役立ててもらえるといいね」
「そうそう、木村さんが張り切ってるからねえ」
「まあ、教団代表を総理大臣にするのが目標らしいからすごいよね」
「そうそう、私たちの知ってる人が総理になるなんて嬉しいよね」
「でも木村さんも女を出してるね。あの表情を見れば一目でわかるよね」
「まああの教団責任者の宍戸さんに惚れちゃってるからねえ」
「必死で尽くしてる感じが伝わって来るね」
「良い男だから当然だよね。本当にあの人は私たちの願いもわかるものねえ」
「そうね。なぜか私たちの考えてる事がすぐにわかるみたい」
「不思議ね。まるで心を読まれてるみたいで少し怖い時もあるわ。
 でもあの人の10分の1でもうちの旦那にあればと思うわ」
「それはそうね。私も同じ意見。でも私たちの味方だしいいんじゃない?」
「そうよ。私たちは教団や政党へ協力してるから怖くはないわ」
「でも今、マスコミがうちの教団の話で色々な怪しい話をしてるよね?」
「ああ、呪いとかで人の命をどうだとかの話?馬鹿らしい。
 たまにテレビ番組でやってるけど都市伝説や陰謀論なんじゃないの?」
「そうね、そうね。都市伝説に陰謀論か・・・好きな人が多いからね」
「きっと選挙も近いから必死で邪魔してるってところなんじゃない?」
「若い人なんて逆に面白がって票を入れるんじゃないの?」
「普通の人間がそんな力を持ってる筈ないのに馬鹿みたい」
「うーん、もうそろそろ午後の仕事の時間だわ。あと少し頑張りましょう」
「そうね、あと少し。じゃあ行きましょう。よいしょっと」
「出たわね。その言葉が出たら年寄りだよ。よいしょっと」
二人は笑い合いながらソファから立ち上がると部屋を出て行った。
遼真はクモ助をドアの下側の隙間から慎重に外へ出して、
体色をカーペットと同色に変更して事務所へと進めた。
事務所内に設置されている多くの文書ロッカーの後ろへクモ助はその身を潜めた。

2.選挙演説(第8章:占い死)

馬場元総理がテロリストに襲撃され亡くなってから3年経った夏のある日。
その事件が話題にも上らなくなった現在の日本では、
衆議院選挙」に突入し、都内を数多くの選挙カーが走り回っている。
駅前や商店街の広場で多くの政治家が立ち合い演説をしている。
「皆さん、皇国民主党幹事長の藤波正洋でございます。
 我が党は現在の猪木辰巳総理の下で一致団結し
 日本を良くするために日夜粉骨砕身で頑張っています。
 最近ふと思い出すことがあります。
 日本中いや世界中に大きく報道され多くの国民がショックを受けた事件、
 演説中に馬場元総理がテロリストに襲われ亡くなった事件を覚えていますか?
 もうあれから3年も経ちます。
 その間に日本はどうなりましたか?
 円高の時に海外へ出て行った工場は国内へ戻らず、
 政府が規制緩和をしても経済は停滞し、国民の賃金も上がらず、
 更に独身者も増え出生率も下がり人口は減り始め、
 多くの国民の皆様は明日への希望も持てず、
 下を向きながらその日その日を必死で生きているのではないでしょうか?
 その上、近隣国家から四六時中日本の領海領空侵犯をされ、
 日本の固有領土にも関わらず不法占拠されている現状です。
 そしてもはや終わった先の戦争中の事柄を、言いがかりに近いですが、
 トップが変わるたび約束を反故して繰り返して非難してくる国もあり、
 皆さんも憤懣やるかたないと感じる方も多いと思います。
 それは与党である皇国民主党が原因だとおっしゃる人も多いですが、
 我々は国民の皆様の幸せと明るい日本の将来を考えて、
 各政党の話に耳を傾け、その政策の良い所は取り入れる姿勢は変わりません。
 ですが、実際は、改善案もなく、単なる週刊誌ネタに始終して
 自らの過去の行動の評価は一切せず、パフォーマンスだけの
 結局は欠席して決議をさせない行動ばかりしている野党に困っています。
 我が党としては数の力でそのまま決めてしまっても良いのですが、
 そんな独善的なことをするといけないと猪木辰巳総理は考えてます。
 その歩みは遅いと感じるかもしれませんが、
 国民の皆様一人一人を確実に納得させて進めていきます。
 そういう国民全員が参加して話し合う暖かい政治を目指したのは、
 さきほど話した馬場元総理であり、私の人生の先輩でした。
 彼の生き様、思いを胸に議員として今まで生きてきました。
 私は彼の意思を引き継ぎこの日本を国民皆が胸を張って
 日本国国民だと世界へ言えるすばらしい国にしていきたいと思っています。
 先の世界的経済ショックの後、円高になり輸出産業を始めとして
 多くの産業が国外へ出て行き、国内産業は目も当てられない有様になりました。
 それを元に戻すためには、苦しい辛い臥薪嘗胆の時もあると思います。
 しかし、その時期を一緒に過ごした後は栄光の日本が待っています。
 皆さん、我が党皇国民主・・・グッ・・・くる・・し・・・」
突然、演説中だった次期総理の呼び声も高い藤波正洋氏は胸を抑えて倒れた。
周りの関係者が慌てて、倒れた藤波正洋氏の元へ集まり大騒ぎとなる。

その時、藤波正洋氏の演説する向かいの場所にちょうど別の候補が現れた。
大騒ぎの皇国民主党藤波正洋氏の演説場所を見つめている。
しばらくして藤波正洋氏が救急車に運ばれて喧騒も納まった頃、
マイクから第一声が流れた。
「こんにちは、令和獅子党党首の木村千種でございます。
 さきほど皇国民主党藤波先生に何かあったようで心配です。
 この旗印、よく皆様にご質問されるのですが、
 この獅子の鬣にある太い10本の黒の毛の束は、
 我が党と皆様との十の約束を現わしています。
 今年で我が党が結党されて3年目、
 皆様のおかげで順調に議席数も増やし、
 与党である皇国民主党と一緒になって
 与党の一員として国民の皆様の幸せのために
 毎日獅子奮迅、精一杯がんばっています。
 世界中がパワーゲームに明け暮れている現在において、
 この日本をどの様に前へ前へと進めていくかは皆様の気持ち次第です。
 まだまだ日本は良くなります。明日を夢見て頑張っていきましょう」

細面、理知的な切れ長の目、高い鼻、真っ赤な唇の木村千種の
静かでありながらも力強い口調の演説が終わり、マスコミがマイクを向けている。
その中で木村千種氏は驚くべきことをマスコミへ話した。
「藤波先生のことですが、実は先日藤波先生の秘書の方へ、
 ご体調が悪くなりますのでお気をつけて下さいと申し上げました」
「ご存知だったのですか?」
「はい、先日我が党の創始者であるシシトー神姫巫女様へ
突然にそういう内容のご神託があったのです。
ですから急いで藤波先生の秘書様へ連絡いたしました」
「えっ?あの良く当たると言われている占い師の・・・」
「はい、今も予約が無いと会えないほど忙しい中で、占いをされております。
 この日本のために毎日毎日祈っております」
近くに駐車されている令和獅子党の選挙カーの中には、
シシトー教団教主秘書の『|宍戸《ししと》 |鷹《おう》』が居た。

3年前の馬場元総理襲撃の折、
マスコミの寵児となった『|宍戸《ししと》 |鷹《おう》』だったが、
その時から全国の各都市に支部が出来始め、今では10支部となった。
姫巫女に面会した多くの人間が入信し、インスタグラムや口コミも手伝って
若い層を中心に信徒が一気に増え始め、その数は50万人とも言われている。

この3年間の間に日本では、
様々な事が起こりマスコミの話題になっては泡の如く消えて行った。
日本には年間数万人の自殺者やそれ以上の行方不明者の存在もあり、
この世は病気や交通事故、強盗や虐めや私怨などによる殺人、
その時々に有名人又は有識者の動静が報道を賑わせている。
今太閤と呼ばれた元総理大臣の病死。
日本を牽引してきた政治家へのテロ行為。
次期総理候補と呼ばれる政治家の突然死。
将軍と呼ばれた自衛隊の要である幕僚長の病死や入院による引退。
経団連の重鎮と呼ばれる複数の長老の病死や入院による引退。
新進気鋭のベンチャー企業の若手社長の病死。
多くの労災を出してブラック企業の若い経営者の入院による引退。
防衛産業の要である重工業会社社長の病気による社長交代。
感染症による右翼のフィクサーと呼ばれている元政治家や
左翼の実力者と言われた活動家である政治家や総会屋のトップの突然死。
マスコミの中でも右翼左翼と言われる編集長の死や社長の病気による引退。
政治的論争においてテレビや書物で有名な右左翼評論家の死。
多くの残虐な殺人鬼の獄中死や新興宗教の教祖の突然死。
炎上を目的として非人道的・非道徳的な行動を社会へ発信するユーチューバーの死。
世界に目を向けると、
突然発生し拡大する新型ウィルスの感染症による死、
欲望のため突然始まる侵略戦争による大量破壊兵器による死、
異常気象による飢餓での幼児の大量死、
後進国において燃やされず処理されず廃棄される汚染物質の影響による死など、
このように人間の死の氾濫は日常となり、国民の多くは『人の死』に慣らされていく。

1.テロ(第8章:占い死)

ある夏の夕方、政権与党である皇国民主党の馬場健太元総理が、
新人候補への応援演説中、テロリストに襲われる事件があった。
場所は渋谷駅前の忠犬ハチ公前広場。

忠犬ハチ公の像の近くで小さな演台へ立ち、明るい笑顔を立ち止まる聴衆へ向け、
彼のトレードマークでもある外国人にも体格負けしない大きくがっちりとした身体で
大きなジェスチャーで手を動かしながら演説していた。
「皆さん、皇国民主党の馬場です。
 我が党は、政権与党として責任を持って、日米同盟を基軸として、
 日本、いや世界の平和を目指して行動しています。
 今度の選挙では、この鶴田鼓太郎君をお願いしたいと思っています。
 彼は若い時から大使館員としてアメリカを含めた海外での勤務も多かったため、
 多くの国の要人と肝胆相照らす仲となり、日本のための尽くしてきました。
 この度、国会議員として立候補しました。
 皆様より、我々に対して、最近の政治は停滞しているとか、
 居眠りばかりで何をやっているかわからないとかの苦言を頂いていますが、
 国民のことを全く考えていないのかわかりませんが、
 代替案も無く反対しか言わない野党の態度にも困っています。
 こんなことを言うと又もや国会で私が文句を言われてしまいますね(笑)。
 とにかく現在は、ほんの一日で世界が大きく変わる時代であるため、
 我が政権与党皇国民主党も私も含めて毎日の動静に気を配り身を引き締めています。
 その中で彼は政界の暴れん坊として、七つの武器を持って
 現在の皆さんが感じて居られる停滞感を打ち破る男として期待されています。
 今度の選挙では是非とも彼に皆様の一票をお願いしたい」
聴衆は、彼が総理大臣の時から続く経済路線、長年低下してきた日本経済を復興させようとする彼の試みに期待し、その自信に満ちたにこやかな笑顔を見つめていた。

その時、フードを被ってマスクをした大きな紙袋を下げた若い男が、
馬場元総理の後方から近づき、
ひしめく聴衆の中を押しのけてフラフラと前へ前へと歩いていく。
その若い男が、大きな紙袋を下に置いた瞬間に、
「皆さん、危ない。その男から逃げてください」
とその広場へ走り込んで来た長身の男から大声が発された。
一瞬、その場に居た人間は凍り付いた様に動けなかったが、
そのフードを被った若い男は、
慣れた手つきで紙袋から手製の銃を出して、
銃口を馬場元総理へ向け引き金が引かれた。
『ドーン』
と耳を劈く銃声が響き、馬場元総理は胸腹部へ銃弾を受けて倒れた。
それを見てニヤリと笑った若い男はフラフラと二発目を聴衆へ向けた。
その瞬間に大きな声を掛けた長身の男は
銃を持った若い男に飛びついて銃を空へ向けさせた。
銃口から空に向かって散弾銃の複数の銃弾が何発も撒き散らされた。
「邪魔をするな。お前も殺す」
と握られた銃を長身の男へ向けようと叫んでいたが、
すぐさま、警察官が急行し襲撃した若い男は、
警棒で肩を殴打され取り押さえられた。
辺りは惨憺たる状況で、多くの聴衆は引き攣った顔でスマホ撮影をしている。
大きな身体の馬場元総理は、演台から崩れ落ちて路上へ倒れている。
胸腹部だけでなく口からも出血していて、心臓は停止していたようで、
その場に居た医療の心得のある人により人工呼吸と心臓マッサージが行われ
止まった心臓の鼓動を再開させようとしていた。
被害者は馬場元総理だけでなく聴衆の数人が、
撒き散らされた銃弾で手足に怪我を負いその場で倒れて介抱されている。
この出来事は、多くの警官に警備されているにも関わらず、
テロリストが政治家を手作りの武器で襲撃することができた事件で、
世界中へその出来事と映像は発信されて大きな話題となった。
馬場元総理は病院へ運ばれ長時間の手術の甲斐も無く亡くなった。
銃弾の一部が心臓そのものへ撃ち込まれていたと報道された。
また国民の多くは「安全な日本」という神話の崩壊を目の当たりにした。

逮捕されたテロリスト出口元治は、自分が宗教2世で母親が生活費の殆どを浄財として寄付したため苦しい生活で自分の人生が変わったとその宗教法人を憎み、その宗教法人と選挙目的で仲の良かった元総理を襲ったと自供しているが、あまりに荒唐無稽な発想で一部のマスコミは信じなかった。ただ馬場元総理が進める日本の防衛力増強計画に近隣国家への忖度または昔の学生運動を忘れられず何にでも反対したい一部のマスコミや有識者は、この事件の原因を宗教関係事件と矮小化させて報道している。
実際に桐生一族が調べた情報では、このテロリスト出口は、母親の入信している教団を脱会後に新しく所属していた組織は、隣国のスパイ組織『東アジア平和会』で日本国が防衛費などを増やして防衛力を高めることを推進させない様に世相を誘導する組織の一つで、有事にはメンバーはテロリストとして活動する可能性も考えられた。過去にこの会に所属していたメンバーが、ヤクザ相手に爆破事件を起こした前科もある組織である。
与野党の政治家の中にはこの組織を始め、よく似た組織から政治献金などを受け入れて、その組織の国へ招待され、ハニー&マネートラップに嵌り最早スパイと同様のグダグダな状態で議員として国会へ登院しているという情けない状況だが、長い時間を掛けて国民の精神という根元から腐らされた戦後体制では簡単には元に戻らないのだった。

現場へ走ってきて馬場元総理への襲撃を知らせ、
まだ増えたであろう聴衆の被害を救った男は、一躍マスコミの寵児となった。
彼の名前は、『|宍戸《ししと》 |鷹《おう》』
職業は、渋谷にある最近有名な占い師の秘書だった。
彼はこのたびのことを警察やマスコミへ
「突然、姫巫女様へ高次元の霊様から神託があり、
 テロリストの服装や顔つきをお聞きして、
 その惨事を防ぐために急いで現場へ行きました。
 時間が無かったため警察へ連絡する時間はありませんでした」
と伝え、マスコミは姫巫女と真面目で少しシャイな彼の笑顔を大きく取り上げた。
マスコミは一斉に『奇跡の神の使徒』と報道した。

警察は当初あまりにタイミングが良すぎた彼を容疑者の一人としても捜査したが、
彼『|宍戸《ししと》 |鷹《おう》』の行動は、
16時00分:姫巫女から神託のあった時刻
16時05分:占いの館を出た時刻
16時09分:占いの館から現場へ到着した時刻
16時10分:テロリストが犯行を行おうとした時刻
テロリスト自身が彼の事を全く知らないと答えているし、
彼とテロリストの接点は全く見いだせなかった。

そうなれば、『奇跡の神の声』として、
今度は彼の働く占いの館『シシトー神の館』が注目され始めた。
占い師の名前 『シシトー姫巫女』
降臨する神様 『シシトー神』
この店は、最近渋谷では若い女性に一番人気があり、
SNSやインスタグラムやユーチューブでも話題で沸騰している。
マスコミの街角インタビューでも多くの女性が訪れた経験があるようだった。
恋や仕事などの方向を指し示してくれることで有名だった。
その占い師は若い女性で、相談者の選んだ物で占ってくれるらしい。
最初に面会時、氏名と誕生日を記載して提出し、
相談者が目の前に置かれている水晶、タロットカードなどを選んで占う。
一番の人気は「降霊術による自動書記」との評判だった。
その占い師が、高次元の霊をその身体へ降ろし、
その高次元の霊の導きで目の前の紙へ解決方法を記載していくらしい。

テロリスト出口元治は、なぜか逮捕の翌日に留置場で突然死していた。
検視の結果、「心筋梗塞による突然死」とされた。
まだ若く基礎疾患も無く血管奇形もなかったが、左冠動脈主幹部が完全に狭窄し、
左心房や左心室への血流が全て止まったために死亡したとの話だった。

たちまち全国からその占いの館へ予約が殺到し、
予約無しでは占い師へ面会も出来なくなっているが、
予約申し込みは減ることなく増え続けているのだった。
そうしている間に、
その占い師を教祖として全国の都市部に『シシトー教団支部』が出来始めた。
占い師に面会した多くの人間が入信し、若い層を中心に信徒が一気に増えた。
この教団は、他の教団の様に『寄付』を強要される事は無かった。
仕事をしながら通常の生活を送り、
ユーチューブで配信されるものを会員登録して見ておけば良かった。
そうなれば襲撃事件も相まって信徒の数はうなぎ上りに増え始める。
そんな信徒の中で、若い層の票田を狙って政治家が近づき始め、
多くの与野党の政治家や経済界重鎮は「特別信徒」となり始めた。
彼らは普通の信徒とは異なる場所と時間に相談事の神託を受けた。
その内容も料金に関しても不明で誰からも一切漏れてこなかった。

この事件から、今まで何度も問題にもなっては消えていた新興宗教の問題、
『寄付』という名の『搾取』する団体、
『教育』という名の『洗脳』する団体、
『脱退した信者』を『悪魔』として信者による日常的な虐めを是とする団体、
全てのマスコミが洗い出し始め、国民もそれに注意し厳しい視線を向け始めた。
ただマスコミの態度は、CMのスポンサーの団体には何も報道しない自由を行使し、
報道の方向性を偏向させている。
しかし、心ある一部の政治家も問題意識を持ち始め、
乱立する新興宗教への何らかの規制が必要ではと考え始めた。
日本では従来、宗教法人には非課税であったが、
『国会で宗教法人の選別方法に対して法案が出されるのでは?』
『公の場で何か奇跡などを示すことの出来ない宗教は
きっと嘘の宗教なのだからそんな宗教は課税対象とすればいいのでは?』
オウム事件を始めとして戦後の新興宗教に問題行動が多いため、
特に戦後の新興宗教を対象とすべき』との発言をする政治家の声も増え始めた。

新興宗教関係者からは、
信教の自由を盾に既成宗教との対応方法の違いに不満を表明した。
『なぜ新興宗教だけが対象になるのか?』
『昔からの既成宗教も対象にならないのはおかしいのではないか?』
それに対して、既成宗教関係者は、
聖徳太子の時代から日本へ定着し、国民の多くが何世代にも渡って信仰してきている仏教が対象になるのはおかしいのではないか』
『太古の昔からこの日本国が出来た頃から信仰されている神道は新興とは別格である』
などと多くの意見がマスコミを賑わせているが、実際の所、多くの宗教法人が戦々恐々としているのが現状であった。

17.レッドシャーク団との戦い3、そして瑠海の鎮魂(第7章:私の中の誰か)

遼真が霊滅で小瓶に潜んでいる『アフリカ大陸の悪霊』を消滅させている時、
赤城の身体が、徐々に大きくなり豹魔人の身体へと変わっていく。
遼真としては赤城へ『豹の精霊』の力がどれくらい憑依しているのかが不明だった。
仮に長い間その精霊を使役して、精霊も彼を認めて力を付与していた場合、
普通の人間とは思えない能力が発揮される可能性があった。
彼が今まで傭兵として多くの戦線に出て、
大した怪我もせず生き残ってきた事実から考えてその可能性が高かった。
戦う前にそのことを紅凛と黒狼へ伝えているが、
彼らはあまり気にしていない様子で黒狼に至っては、
「豹との戦いか・・・どれくらいのものか楽しみだな」と笑っていた。

赤城の顔も身体も完全に豹のものに変わりつつある。
身体も大きくなり豹の様に流線型に逞しく変貌している。
遼真の危惧通り、精霊も彼を認めて力を付与していることがわかった。
遼真は、最初豹魔人を霊滅しようと考えていたが、
アフリカの悪霊も同時に憑依しているとは思わず間に合わなかった。
赤城は、金色の目となり四つ足になり豹男に変わっている。
その口は鋭い牙が見え、その逞しい太い指には鋭い爪が生えている。
一瞬で黒狼へ跳躍するとその鋭い爪で切り裂いた。
単に物理的な力ならバトルスーツで防げるはずだが、
なぜか黒狼の身体がバトルスーツごと引き裂かれた。
逞しい大胸筋が切り裂かれて深く赤い切り口が見えている。
黒狼の側にあった鉄製の柱でさえも切断されている。
「黒狼、大丈夫かい?」
「姉さん、心配すんなって、俺はこれを楽しみにしてたのさ。
 豹のお前に言葉が通じるかどうかは知らないが、
 お前がそいつの身体から出たくなるまで俺と勝負しようぜ」
黒狼はバトルヘルメットとバトルハンドを脱いで、紅凛の方へ放り投げた。
紅凛はそれらをキャッチするとニヤニヤしながら黒狼を見ている。
黒狼は、空に浮かぶ月に向かうかの様に
「ワオーン」
と狼の様に雄たけびを上げた。
大きな身体がより大きく筋肉が太くなり、
顔や手の甲には長い毛が生え始め、
口元が前に盛り上がり、ニヤリと笑った口には鋭い牙と
人間の顔なら一掴みできるほど大きな手の指には太く鋭い爪が生えてきた。
そして、切り裂かれた筈の胸の深い傷が高速度撮影の様にみるみる塞がっていく。
『お、狼人間だったの?』と遼真は驚いた。
「遼真君、もう安心して見ていたらいいよ」
「は、はい」
「まああまり世間には公表していないからここだけにしてね」
「はい、誰にも話しません」
「頼むよ。あの子がみんなから怖がられたら悲しがるのでね」
「わかりました。紅凛さんもですか?」
「私は違う。狼にはならないよ」
『狼にはならないけど、他にはなるのかな?』
と遼真は一瞬思ったが、知るのが怖かったので聞かなかった。

黒狼は、豹魔人に向かって『クイクイ』と指で呼んでいる。
豹魔人赤城は、狼の雄たけびで驚いていたが、
すぐに黒狼へ向かって跳んだ。
黒狼も同時に跳んで空中ですれ違った。
今度は豹魔人赤城の胸に深い4本の傷が刻まれている。
「グアー、シャー」
「痛いのか?お返しなんだけどね」
豹魔人赤城は、その場から大きく今度は牙を剥いて襲ってきた。
黒狼は、カウンターの要領で豹魔人赤城の顔へストレートで殴りつけた。
その強烈な一発に豹魔人赤城はその大きな身体ごと壁まで吹き飛ばされた。
豹魔人赤城は弱弱しく牙を剥いて威嚇したが、黒狼はその巨大な牙を両手で持つ。
豹魔人の鋭い爪が、黒狼のその腕を傷つけていくが、
傷が出来た瞬間から、その傷が治癒していくので黒狼は鼻歌だった。
「他の力は無いのか?炎を吐くとか・・」
「・・・黒狼、お前、少しアニメの見過ぎだよ。
 野生の獣が火なんて好む筈ないでしょ」
「そうだったな。じゃあ、お前、このまま死ぬか?どうする?」
「グワー」
「何言ってるかわかんねえ。邪魔くさいから死ね」
黒狼はその鋭く大きな牙を掴む両手に力を入れる。
「バキッ」
牙は二本とも折られた。
今度は、豹魔人の首にヘッドロックを掛けると腕に力を入れ始めた。
豹魔人は慌てた様に逃げようとするが無理だった。
必死で鋭い爪で黒狼の顔や身体を傷つけるも効果が無く
やがて「ゴキッ」と音がして
豹魔人の顔が不自然な方向へ曲げられ
その瞳から光が消え、徐々に動かなくなった。

遼真の目には死んだ豹魔人の身体から漂う赤黒い霧の立ち昇るのが見えた。
その霧は黒狼へと向かっている。
憑依しようとしているのだった。
「黒狼さん、その場から離れてください。
 豹の精霊が憑依しようとしています」
「わかった」
黒狼は一瞬でその場から消えて紅凛の隣へ立った。
遼真は、急いで赤城の死体へ走ると足元に置かれていた古い壺を掲げ、
その壺の中へ白紙に包んだ小瓶と共に豹の精霊を呼び込み蓋をした。
そして遼真は『呪』を唱えながら『神意封印呪』を貼り付けた。
異国の神でもある『豹の精霊』の力の発露を恐れて封印したのだった。

遼真達は、船倉の潜水艇へ爆破装置を取り付けて避難していった。
バトルシップへ戻るとすぐに爆破装置を起動させた。
真っ暗な海で大きな火柱が上がり周りの海面を赤々と照らしたが、
やがてコンテナ船は大きく傾き日本海溝へ沈んでいった。
その後は、綺麗な月が海面を照らしているだけだった。
罪の無い船員が眠っているゴムボートには、
水や食料をたくさん入れ発信機を付けて救助が行われる様にした。

遼真はバトルシップで館林葉山研究所へ到着すると霧派の二人とは別れた。
研究所からはバトルバイクに乗って都内の自宅へと急いだ。
真美が多くのかわいそうな霊魂を人形に入れ祈祷所で祀っている。
遼真は神社へ着き次第、休むことなく水垢離を始めた。
祈祷所には智朗さんと真美がスタンバイしている。
遼真は、護摩壇に座ると祈り始めた。
地蔵菩薩様、人々の欲望で殺され憎しみのために魂が分かれ、
 長い間、この世に自縛されていたこの哀れな荒魂達をお救い下さい」
護摩壇の炎が大きく燃え上がる。
やがて多くの人形が横たわる三方の上に暖かい光が差し込まれた。
その暖かい光の中へ
右手は右胸の前で日輪を持ち、
左手は左腰に当てて幢幡を乗せた蓮華を持つ仏様が姿を現した。

地蔵菩薩様は、釈迦の入滅後、5億7600万年後か56億7000万年後に弥勒菩薩が出現するまでの間、現世に仏が不在となってしまうため、その間、忉利天から六道すべての世界(地獄道・餓鬼道・畜生道修羅道・人道・天道)に現れて衆生を救う菩薩であるとされている 。
日本における民間信仰では、親しみを込めて「お地蔵さん」「お地蔵様」と呼ばれ、道祖神としての性格を持つとともに、「子供の守り神」として信じられている。
地蔵菩薩様の利益として善男善女のための二十八種利益、鬼神への七種利益があると言われている。

地蔵菩薩様から注がれる暖かい光の中で三方に横たわる人形は立ち上がった。
地蔵菩薩様、何卒この憎しみで分かれた魂の浄化をお願いします」
鬼神への七種利益の一つ「悪業消滅(悪いカルマが消滅する)」のお願いをした。
三方の上に立ち上がった人形の表面からは次々と黒い粒子が現れ出ては、
その黒い粒子は地蔵菩薩様から注がれる暖かい光により溶けていく。
やがて全ての人形より黒い粒子は現れなくなり、
一つ一つ真っ白い人形が護摩壇の炎の上に飛んでは、
その人形から白い光を発し地蔵菩薩様からの暖かい光の中へと溶け込み、
その霊魂を送る役目の終わった人形は護摩壇の炎に落ちて燃えている。

遼真がコンテナ船で封印した『豹魔人の霊魂』は、現在厳重に封印されている。
早々に京都の頭領へ連絡し、狐派本部にて処理をお願いする予定だった。
「真美、今回もありがとう」
「いえ、遼真様にお役に立てて嬉しいです」
「あの距離を真美とテレパシーが通じて良かったよ」
「都内では練習してましたけど、今回は相当に遠かったから不安でした」
「よく考えたら、キインやクインも距離とか関係なかったから
 テレパシーさえ通じたら心配する必要は無かったね」
「そうですけど、待ってるのは不安でした。
 もし遼真様に届かなかったらって思ったら・・・
 今度は私は絶対絶対、遼真様について行きますからね」
「うーん」
「遼真様、私がついていくのは嫌ですか?」
「嫌じゃないよ。でも真美に危険があったら・・・」
「遼真様に何かあったら私は・・・」
遼真を見つめる真美の目から大きな涙がポロリと零れた。
「真美、わかったよ。今度から一緒に行こう」
遼真は慌てて俯く真美をそっと胸に抱きしめた。