はっちゃんZのブログ小説

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127.学園を守れ3

ある夜、なぜか林の奥にある旧武道館から灯りが漏れてきている。
クモ助1号からはすでに生徒会長冴木の外出報告はされている。
翔は、以前の様にバトルスーツとヘルメットを被り気配を消して近づいて行った。
上空では小型迷彩ドローンを先行させて、待ち伏せなどに備えた。
やがて旧武道館に着いた。
館内では不良の一団が能面を被った男の前で並んでいる。
「お前達、最近おとなしいな。もっと暴れてもいいぞ」
「ボス、いくら暴れても先公は知らぬ顔をしてるんです。
 他校の奴らも俺らが武道に強いの知ってるから会う前に逃げるし、
 学園の生徒も3年生は入試で登校しなくてもいいし、
 下級生は我々の姿を見れば逃げていくしで
 我々の事は卒業するまでの辛抱だと思っています。
 それに生徒会や風紀委員が煩くて困ってます」
「あんな奴らなんてどうでもできるだろ」
「いや、会長は剣道、副会長は弓だし、書記は柔道で結構強いと噂です」
「ふーん、言う事が聞けないのか」
能面の男は日本刀をスラリと抜くと
「竹刀や竹串の方がこれより怖いって?」
「いえ、そういう訳でなく・・・、わかりました」
「じゃあ、明日はこの前入った用務員を痛めつけろ。
 辞めさせて世間へ悪い噂を流して来年度の入学者を少なくさせろ」
「男より女の方がいいんだけどなあ」
「馬鹿、俺はこの前、養護教員を脅して学校に来ない様にしろと言ったのに
 お前達があの女を輪姦したから大変な事になって
 お前達の親が大金を積んで黙らせたことを忘れたのか?」
「はい、そうでした」
「そんなに女が欲しいなら、そこらの出来の悪い高校の女かプロとでもしろ」
「わかりました。許してください。
 あの男は身体が大きいがからっきしな感じだからちょうどいい」
「頼んだぞ。何としてもこの学園を経営不振で廃校へ追い込みたい」
「しかしボス、なぜ、そこまでこの学校を?」
「理由はお前達が知る必要はない。
 お前達は楽しく暮らせて無事卒業できればいいんだろ?」
「ええ、家の方ではそれだけを心配していますから。
 ここを卒業さえ出来れば就職は親の会社へ入れるから」
「俺が責任を持ってそうさせるから安心しろ。
 校長の弱みは握ってるから大丈夫だ」
養護教員と用務員の失踪した原因が判明した。
少しずつ悪い噂が増えてきているこの学園の流れに一致する。
翔は生徒会長冴木の恨みの原因を探る必要性を感じた。

学校資料では、
冴木は埼玉県大宮市生まれ、シングルマザーの家庭で育っている。
非常に優秀な成績と武道の経験で奨学金が出され、寮の費用負担もほとんどない。
そこまで学校から期待され援助されている生徒が学校を潰そうとまで憎んでいる。
その疑問を解く必要があった。
ちょうどこの土日は冴木も珍しく実家へ帰るそうで、
翔も百合と今度は若く変装をして大宮まで行って調査をすることとした。
勿論、Ryokoにもネット情報で調査をさせている。
その結果、現在の「冴木」姓は母親方の姓で、母親の旧姓は「松本」だった。
旧姓松本一郎、冴木一郎は、松本真司と香の長男として生まれた。
家業は小さな部品工場で、当時は高い技術もありそれなりに繁盛していたようだ。
そんな時、その工場の場所付近一帯へショッピングセンター構想が出てきた。
そのショッピングセンター構想には館林一族が土地の買収と開発を担当した。
その時に館林より、遺恨が残らない様に充分な資金が松本の手に渡っている。
だが、あまりの大金が手に入ったため、松本が一切働かなくなり、
「飲み打つ買うの世界」へのめり込んでしまい、
最後は道端で倒れてアルコール中毒で死んでいる。
その「飲み打つ買うの世界」へ誘導したのは「倉持組」だったようだ。
急に大金を掴んだあまりにありがちな人間の話だったし、それでも彼が館林を恨む意味が分からなかった。

昼間に彼の母親の住むアパートへ近づき、クモママを窓の外へ待機させる。
夕方になりバトルカーを近くのパーキングに停め、翔と百合は車内で待機している。
百合が保温ボトルからマグカップへそっとコーヒーが注がれ翔へ差し出される。
翔がゆっくりとコーヒーを飲みながらクモママを操作していく。
冴木親子の会話が聞こえてくる。
「一郎、今日はお父さんの命日だから帰ってきたんだろ?」
「別に、あんなクソオヤジなんてどうでもいいよ」
「そうかい、そうかい、でもありがとうね」
「そんな事より腹減ったから飯を頼む」
「はいはい、お前の好きなハンバーグを用意してるよ」
「そうか、そりゃあ、楽しみだな」
「あの寮の食事に比べたら美味しくないけど我慢してね」
「別にあの寮の食事に満足していないよ」
「はい、どうぞ」
「うん、旨そうだ。いただきます」
いつもと違って子供らしい口調になっている。
やがて食事が終わり、お茶を飲んでいる。
「それはそうと一郎、進学はどうなるの?」
「ああ、もう東京の大学に推薦して貰ってるから大丈夫」
「お前は本当によく勉強できたから、お父さんがあんな事になって
 お前に好きな勉強を諦めさせるしかないかと思っていたけど、
 今の学校に入れて良かった。
 将来も親として安心だし、生徒会長までしてるお前が誇らしいよ」
「まあ僕は勉強が好きだし、武道も出来たから学園としても欲しい筈さ。
 あの学園は理想論で先走ってる学校だから入りやすかっただけさ。
 それにあの理事長は教育には素人だし、あの一族も教育には素人集団さ」
「お前に良くして貰ってる学校に何て事を言うの?
 もしかしてお父さんの事は館林のせいだとか思っていないよね?」
「思ってたらいけないの?
 あんな真面目だった親父をあんなにしたのは館林だよ」
「違うわ、お父さんをあんな馬鹿な腐った世界へ引き入れたのは暴力団よ。
 大きな事件で今はもう解散させられてるけど倉持組よ。
 館林はもう一度別の場所で工場を作れるような資金の用意までしてくれたのよ。
 お前は間違ってるわ」
「いや、あんな大金を用意しなければ親父はあんなにならなかった筈」
「違うわよ、あれだけ用意してくれたから
 従業員の人達へもたくさんの退職金を渡せたのよ。そして次の職場も」
「どうであろうが、館林が原因の一つであることははっきりしてる。
 それに倉持組はすでに解散してるしね。ターゲットは館林だけさ。
 あんなに良い仕事をして明るい笑顔だった親父を殺したのは館林さ」
「違うわよ。感謝されこそすれ恨むのはお門違いよ」
「うるさいな。あの時の親子三人の楽しい毎日が壊れたのは確か。
 逆恨みだろうが何だろうが償いはして貰う」
「お前はいつからそんなに訳のわからない子になったの」
と母親が泣きだして、隣の部屋へ入って仏壇へお経を上げ始めた。
冴木は不貞腐れた様にテレビを点けてスマホを弄ってる。
彼の憎しみは、
大好きな父親を変えた憎しみのぶつけ所を
父親以外へ向けたいと言う都合の良い歪んだ心が原因だった。
おおよその冴木の情報は揃ったので事務所へ戻る事とした。

帰り道に百合が副会長の黒木など女子高生の話を始めた。
「テンマル1号」の盗聴機能で部屋の話は聞こえてくるし、
スマホへ侵入できる機能もあるのでラインの盗み読みは可能だった。
クモ助にもその機能はあるので既に冴木のスマホには侵入している。
副会長黒木は栃木県生まれで貧しい農家の長女だった。
非常に優秀な成績で先生からも進学をするように言われているが、実家に進学資金が無いため、中学卒業後は家業を継いで農家をするように言われていたため、中学2年から|自棄《やけ》になって荒れた生活を送ってはいたが、クラブは好きな「弓道部」で成績は学校でも常に一番だった。
ある時、パパ活アプリを見ていて、面白半分で登録したところ今の校長と知り合ったらしい。
黒木は成績が良いのに進学できない悩みを話している内に校長先生から「文武学園」への入学を打診された。入学金免除の上に奨学金も出て寮費も不要と言う黒木にも両親にとっても有難い話ですぐに進学は決まった。
そういう恩もあったため、高校入学後、肉体関係を求められても断る事が出来なかったようだし、中学時代にすでに性行為は経験していたため、特に躊躇は無かったようだ。
彼女は頭もよくスタイルも良かったし性行為も可能だったので、そういう人達の人気は大変高く相当なお金にはなったようだ。彼女としては将来の夢のために早くたくさんお金を貯めたいがための行為であり、何も気持ち良いわけでもなく、自ら望んでそういう行為をしていた訳ではなかった。
このたびの失敗は、5月の試験の勉強疲れでついついピルを飲み忘れて、いつものように校長と性行為を行い妊娠したようで、まだお腹が目立たない時期に堕胎をしたようだった。
ただその後の体調が思わしくなく、堕胎した医師を訴えるにも現在刑務所に入っており、何も出来ない状況で困っているらしい。保健室でよく休んでいるのはそのためだった。彼女は大学への進学や海外留学も希望しており、将来には海外へ移住する夢を持っている。

だいぶ調査も進行した安心感もあり、
その夜は久しぶりの二人きりだったので、二人は朝まで思いっきり愛し合った。
そしていつものように「あーん、あなたー、うかぶー」と百合が絶頂に達して終わるのであった。
月曜日はあの不良達が待ってるが、対応するのも邪魔くさいので「風邪気味」と言ってしばらく休む連絡を事務長へ入れた。
事務長の呟きがクモ助から聞こえてきた。
「あーあ、山田さんももう前の高橋さんみたいにやめるのかなあ。
 確かこの前、あの不良達に絡まれてたしなあ」