はっちゃんZのブログ小説

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『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語<外伝1>百合との婚約1

このたびの「遺族の心事件」で、殺人者から何の罪にない女子高校生を救うために

翔は初めて意識して『跳ぶ』ことができ驚き半分、嬉しさ半分だった。

今までは偶然に近く絶体絶命の時にしか跳べなかった。

しかし今回は思った場所をイメージして跳ぶことができた。

この能力をいつでも自由自在に使えるようになれば、

今まで以上に調査や戦いがもっと楽になると考えたのだった。

そのためには能力発現のための特訓が必要だった。

発現時の体内感覚はある程度覚えているので何とかなりそうだった。

百合にもテレポーテーションの発現した状況を詳しく話したが、

絶対的な必要性の問題を考えているためか

葉山での兄の行動を覚えているためか心配そうな顔をして納得しない。

 

何とか百合を説得し相談した結果、百合がそばに一緒にいることが条件となった。

急いで現在依頼されている案件を全て終わらせて、しばらく事務所を閉めることとした。

仕事の調整は何とか秋口には終わった。

場所は山梨県の河口湖近くにある館林家の別荘で特訓することとした。

いつもそばにいるアスカは葉山に待機させることとした。

何かあればバトルカーで駆けつけてくれる事になっている。

百合は早速別荘の管理人へ連絡し、

生活のためのガス・水道・電気などの準備を依頼した。

食器や水や基本調味料は常備されているので買うものは食材だけでよかった。

タンデムでバトルバイクに乗って東名高速を飛ばす。

サイドカーには百合が準備した服や下着など必要なものを詰め込んでいる。

真っ青な空と流れる秋口の冷たい風が気持ちいい。

目の前に大きな白い富士山が横たわっている。

しっかりと抱きついてくる百合の柔らかい胸が当たる背中が幸せだった。

 

百合と二人でバイクに乗って風を切っていると

以前、二人だけでの初めての『婚約旅行』を思い出したのだった。

当時の翔は仕事であまり稼げていないので大きな事は言えないが

気持ちとしては妻にしたい女性は百合しかいなかった。

プロポーズの前にその気持ちを桐生の祖父母にも相談したところ、

「少し早いがお前の気持ちが決まっているなら、

 百合さんは大学生だからまだ結婚はさせられないが、

 もし百合さんがそれを受けてくれるなら婚約をすればいい」

とニコニコしながら賛成してくれた。

色々と不安だった翔は一族的には一応大丈夫みたいで安心したが、

百合はお嬢様でもあり、

あの強くて怖い爺さんが親代わりだし、

まだ大学生で将来もあり

簡単に翔のプロポーズを受けるとも思えなかったので不安なまま東京へ戻った。

 

翔が電車に乗っているその時間、

祖父桐生|麒一《きいち》は、和室の地下に設置されている秘密部屋にいた。

壁面に大きなモニターがあり、部屋中にコンピュータや機械類が設置されている。

このコンピューターは『KIRYU機龍』と名付けられており、

目黒館林研究所にあるスーパーコンピューター『優子』と同型のもので

両機は常時協同し組織維持及び機動作戦等をコントロールしている。

そして正面の大きなモニターには百合の祖父館林隆一郎の顔が映っている。

「館林殿、さきほど翔が来て、百合姫様へプロポーズしたいと言いました。

 いよいよ止まっていた歯車が動き始めたのかもしれません」

「桐生殿、そうですか。

 少し前から百合は少しずつ以前の記憶が戻ってきている気がします。

 若もそうなのですかな?」

「いや、翔はまだほとんど戻っていませんが、いつかは戻るでしょう」

「翔君いや若が結婚を決意しましたか・・・

 実は百合は以前から若を好きで結婚したいみたいでした。

 我々が見た事も無いような可愛い笑顔を姫へ与えてくれた若者ですからなあ」

「ほう、それはそれは、あんな未熟者ですが、お役に立てて恐縮です。

 あの可愛い百合姫様の笑顔を独り占めできるとは幸せ者ですな」

「百合は我ら館林一族直系の姫であるから不確かな男には任せられないが、

 若、いや翔君と呼ぼう。彼なら何とか姫を幸せにしてくれそうだ」

「買いかぶりでなければ良いですが、育て親の欲目を除いても

 腕前や考え方はもちろんまだまだですが、順調に育っていますよ」

「こうなれば結婚はずっと先でもいいので

 婚約をして身内だけで『仮祝言』を上げますか」

「ほう、それもいい考えですね。

 しかし翔も本当に百合姫様を好きみたいであんな顔の翔を見るのは初めてです」

「それは百合も同じです」

「歯車が動き始めたとしたら『仮祝言』は『前橋館林本館』にしますか?」

「そうですな。いずれそこで二人は所帯を持つ事になるからちょうどいいですね」

「ではそうしましょう」

「では麒一殿、『仮祝言』で会いましょう」

「はい、楽しみにしています。では」

という会話が交わされたことを翔も百合も知らなかった。

 

お互い祖父母より「二人が小さな時に許嫁だった事」を初めて知らされ、

翔は会うたびに百合のその輝く笑顔に魅せられて深く愛してしまい、

そして一念発起でプロポーズするつもりで婚約指輪を選んだ。

百合が20歳となった3月3日の誕生日に

翔は有名なイタリアンのレストランに夕食を予約し

おしゃれで美味しいものを堪能して百合を部屋へ送って行った。

二人でコーヒーをゆっくりと飲みながらタイミングを見て

「百合、誕生日おめでとう。今日で二十歳になったね。

 じつは、君にどうしても言いたいことがあるんだ。

 君にはまだ早過ぎるかもしれないけれど、俺としては・・・

 うーんとね、じつは・・・」

「・・・・・」

百合は優しい目で翔を真正面からじっと見つめている。

「君の事を愛しています。僕と結婚して欲しい。

 これからずっと君と二人で一緒に歩いていきたい。

 もちろん君はまだ学生だから今のところは婚約で、

 結婚そのものはまだ将来の話だけど」

「はい、喜んでお受けいたします」

「いいの?えっ?」

「はい、ずっと私もあなたを愛しています。

 私はもともとあなた以外の人を夫にするつもりはありません」

「あ、ありがとう、百合。君を一生大切にしていくつもりだ。

 これは小さくて悪いんだけど婚約指輪のつもりなんだ」

「あっ、私の誕生石のアクアマリン。

 この色は海に優しく包まれているような安心感を感じます。

 私の好きな色です。

 翔さん、とても素敵、ありがとう」

「いやあ、本式はもっと大きな物にするから今はこれで我慢してね」

「ううん、私はどんな指輪よりもこの指輪が好き。

 だってあなたが私のために初めて選んでくれたものだから」

 

アクアマリン

宝石の言葉は『沈着、勇敢、聡明』

由来としては、ラテン語の「アクア(水)」と「マリン(海)」で、"海の水"という意味で、人魚の宝石箱からこぼれ出た宝石が砂浜に打ち上げられたとも、船乗りに恋をした人魚の涙が宝石となって浜辺に打ち上げられたとも言われているらしい。

効果は、若さを保ち、幸せな結婚を約束し、たとえ夫婦の危機が訪れても仲直りをさせてしまう魔力を秘めているという伝承があり、水の星座である魚座の人が身につけるとその力がいっそう効果を増すといわれています。

ポッと頬を赤らめてキラキラ輝く瞳でじっと見つめる百合と翔は固く抱き合って長く深い口づけをしたのだった。

百合も以前に舘林の祖父母へ相談しており、二人はめでたく婚約する運びとなった。

124.首都を防衛せよ11

大井埠頭の冷たい風が翔の頬を叩いた時、ふと我に返った。
すでに大勢は決していたが、
哀れにも機械化兵や獣人化兵は最初に命令されたまま、
自ら戦闘を止めることはできないのだった。
自衛隊も兵器などを復旧させ、
従来の役目を果たしに埠頭へと集まっている。
選手交代ではないが、
両一族は、投入した最新武器やその破片を回収しながら徐々に後退して行った。
バトルコンボイも既に帰路へと着いている。
そして、それに代わるように陸上自衛隊の師団が到着し戦闘が開始された。

陸上自衛隊は、
戦車やバズーカ砲などを投入し正確無比に機械化兵を倒していく。
歩兵部隊も動きの鈍くなった獣人化兵を拘束していく。
沖に停泊している「ドリーム号」へも
海上自衛隊員がヘリコプターで降下し船内を制圧していく。
敵は全員、捕まると自殺をするようにプログラムされているようで
拘束された敵はその場で自殺した。
そして全ての戦闘は終了した。

翔が百合の待つバトルカーへ近寄った時、
警視庁から飯塚警部がパトカーで到着した。
「翔、大丈夫だったか?」
「はい、何とか持ちこたえました」
「それは良かった。しかし、恐ろしい敵だったな」
「はい、とても強かったです。それはそうと街はどんな様子なのですか?」
「何とか暴動は鎮圧できたが、どの暴動も首謀者らしき人間は捕まっていない。
 うまく逃げられたのかもしれないな」

この事件は、結局敵の事も何もかも不明のまま終結した。
機械化兵とか獣人化兵の写真を掲載する週刊誌もあったが、
すぐにネットから「フェイクだ」とコメントが大きく炎上してうやむやに終わった。
色々と嗅ぎまわる記者もいたが、結局何も情報が入手できずに終わった。
日本国政府は、国民の不安を煽る必要は無いと考えて「反政府デモ」のみ報道された。
今回の事件が、本当に国家の危機であったことを理解している人間は少数だった。

相変わらず日本国民は、
マスコミによる政治家の言葉狩り
芸能人や政治家の不倫など派手な報道に踊らされている気楽な毎日だった。
70年間以上、戦争に巻き込まれていない国に生まれて、
日本人の血が戦争で流されることがなかった。
平和憲法があるだけで日本は戦争も仕掛けられることもなく平和だと信じ、
それ以外の世界には目を向けず毎日を享楽的に生きている。
その平和は悪意のある人間により一瞬で終わることを全く想像できない人達で
ある意味、非常に能天気で自分勝手で幸せな国民と言えた。
しかし、このたびの事件は近隣諸国では戦闘情報を収集していたようで
その後、近隣国家からの日本政府への恫喝行為のなくなったことが
恫喝され続けてきた日本政府には嬉しい出来事だった。

「翔さん、おかえりなさい。良かった、無事で」
「うん、疲れたよ。百合、もう帰ろうよ・・・」
バトルカーの助手席で待つ百合にそっと口付けをした。
その瞬間、1時間のタイムリミットが来た。
全身が一切動かせなくなってしまった。
百合はバトルカーを自動運転モードにして事務所に戻った。
翔は動かない身体で意識を何とか回して体力を回復しようとがんばった。
その甲斐あって、事務所に着く頃には何とか身体が動くようになった。
そして、いつものように美味しい夕食をとり
コーヒーを飲み、
いつものように二人で愛し合った。


その夜、翔は瞬時に生身の人間が粉々の炭になり、
パラパラと散っていく夢を見て叫び声を上げる。
悪夢にうなされる翔を優しく胸に抱きしめる百合。
翔はふたたび百合の甘く優しい香りに包まれて眠った。
明日になればまた新しい依頼が翔を待っている。
(つづく)

 

以前以下あとがきでこの物語は終わりと書いていましたが、別の媒体「小説家になろう」へ投稿し色々と推敲していくと新しい物語が出来始めました。今回から外伝を始めとして、物語が進み始めましたので再度開始することとなります。

今度は学園物になります。よろしくお願いします。

 

あとがき

拙い小説でしたが、長い間読んで頂きありがとうございました。

この物語はとりあえず今回で終了となります。実は次回シリーズとして「殺人ウィルスから日本を救え」を始めるつもりだったのですが、現在のコロナ拡大により同じ展開になりそうだったので筆を止めました。

もしご自身が縦横無尽に能力を使役する主人公でなく、突然不思議な超能力に目覚め、その力がいつ発動するかわからない場合として読んでみて下さい。緩い流れのストーリーの意味がご理解頂けると思います。

さて次回シリーズの紹介ですが、この物語後半に出てくる桐生一族の「妖シリーズ」に出てきた送霊師の若い二人の物語を作成中です。

一日も早く皆様のお目にかかる事ができますようにがんばります。

123.首都を防衛せよ10

スーパーコンピューター優子に戦況を聞くと

上陸阻止部隊は苦労しながらもなんとか阻止できているようだった。

このまま行けばうまく阻止できると考えられた。

潜水艦3隻は潜航が不可能とはなったが、

こちらへ向かっている大型船舶の戦力はそのままだった。

 

大型船舶も潜水艦を守るべく目の前に迫ってきている。

その時、

最初のミサイルを発射した隊長艦と思われる潜水艦のハッチが開かれた。

各潜水艦のハッチが開かれて乗組員が脱出準備でゴムボートが水面に落とされている。

翔が乗組員の脱出を邪魔しないように備え付けの大口径銃で撃って来る。

翔の足元の部分が削れることも物ともしない。

潜水艦は深海の強烈な水圧から守るため

壁に傷はつけることは考えないものなのに平気で傷つけてくる。

もう潜水艦を放棄する事が前提のような行動であった。

 

その時、優子より敵潜水艦に残された全ミサイル発射の可能性について報告があった。

確かに隊長艦に残されたミサイルを使わない手はないからだった。

優子は、急いでその意識を移す人工衛星の近くに浮かんでいる

戦略兵器を積んだ人工衛星支配下に置いた。

その人工衛星はある宇宙強国所有で宇宙空間からの地上攻撃も可能なものだった。

優子は攻撃目標をこの隊長艦を始めとして残りの潜水艦と軍艦となるよう調整した。

そして、すぐに翔へ大井埠頭のバトルカーへと跳ぶように指示があった。

 

それと同時に宇宙空間では

攻撃型人工衛星の側面パネルが太陽の方を向き、大きく開き始めた。

太陽と垂直にパネルが大きく開いた時

莫大な太陽エネルギーが瞬時にパネルの中央部の空間の一点へ集まっていく。

それが眩しいくらい光る大火球へ育っていく。

そのエネルギーが頂点に達した時、

それは地表のある一点へと放出された。

 

乗組員が避難している途中、

『ガゴ、ガゴ、ガゴ』と

潜水艦のミサイルサイロの蓋が開かれた。

もうすでに発射態勢に入っている。

ミサイルが発射される瞬間、

それは天空から降ってきた。

 

真っ青な空に浮かぶ雲が、白く輝き一瞬で蒸発していく。

空から直径50メートルの白い光の柱が降りてくる。

まさしくそれは眩しく輝く光の槍だった。

その槍が潜水艦のミサイルサイロへと突き立った。

 

『天空の光槍』

その槍が潜水艦に突き立った時、

一瞬、船体が真っ白に光り、

ミサイルサイロやミサイルは炎で炙られた飴のように溶けていく。

その熱さでミサイルが大爆発を起こしていく。

そして、船体が真っ二つに折れて沈んでいく。

残りの軍艦や潜水艦にも次々とそれは突き立っていく。

 

大井埠頭に跳んだ翔のゴーグルの映像は、

精神保護モードとなって切り替わり、

それらの光景は映らなかったはずだった。

このモードは人間の心が傷つくと判断される場合は、

その心を守る意味でスーパーコンピューターである優子が代行で実施し、

その光景を人間には映さないようにしているものだった。

 

だが、翔は跳ぶ前の一瞬ではあったが

肉眼でその地獄のような光景を見てしまった。

阿鼻叫喚の世界だった。

光の槍に飲み込まれた人間は

瞬時に燃え、炭となり、内部圧で爆発し四散し、

その炭の塊でさえも高熱で分子レベルに分解されていく。

 

戦闘の名残の水蒸気が風に飛ばされたその海域には、

何もない静かな蒼い水面だけが漂っていた。

(つづく)

122.首都を防衛せよ9

スーパーコンピューター優子から大型ミサイル発射の報告を受けた翔は、

バトルコンボイへ撃墜するように指示したが

大気圏外へ向かうミサイルは射程外で撃墜は不可能だった。

優子からの解析報告は、核ミサイルである可能性は50%であり、

楽観的にこのミサイルが核兵器ではないと判断できる材料はどこにも無かった。

『もしこれが核ミサイルならば』と考えると悲惨な未来しか見えなかった。

翔は優子にミサイルの位置を知らせるように指示した。

優子は常時東アジアを監視範囲とする某国の人工衛星をハッキングしているので

そのレンズでミサイルを捕らえ、翔へ画像を映した。

 

翔は、空の一点を見つめて、

ヘルメットに映る画像も同時に見つめた。

身体中のエネルギーが

丹田から尾てい骨を回り、頭頂部へ向かい、眉間へと集まっていく。

眉間に熱さが立ち上り、視界が光に包まれた。

 

次の瞬間、翔はミサイルに抱きついていた。

大気圏内にいるため、引き剥がされそうな圧力が全身を襲っている。

やがてその圧力も無くなった。

大気圏外へ出たらしい。

ミサイルはここから真空の空間を移動して、猛スピードで目標物の真上に落ちていく。

 

予定通りの結果で、

ヘルメットへ本体を移送されているRyokoより

「翔様、ナイスです。すばらしいです。

では早速ですが、ミサイルの起爆装置を止めたいので

ミサイルの先端へ移動してください」

翔は、急いで手足に付いている粘着部分を動かしながら先端部へ移動した。

そして、鉄切ナイフを金属面に突き立てた。

Ryokoから

「翔様、その穴部分へ『電磁パルス発生弾ショート君』を打ち込んでください」

と指示があった。

打ち込んだ直後、穴部分から明るい光が漏れて出てきた。

どうやら起爆装置は破壊されたようで爆発の心配はなくなった。

ただこの鉄の塊が都内へ落下させるのも問題が多いと考え、

翔は優子へ敵潜水艦の場所を知らせるように指示した。

優子から正確な座標が知らされ、画像にも反映できている。

翔は、ミサイルを身体にスパイダーネットで固定して跳んだ。

 

次の瞬間、

敵潜水艦の上空へ跳んだ翔は、

真下にはミサイルを発射したまま、発射口を残したままにしている潜水艦が見える。

翔はスパイダーネットを外して、その発射口へミサイルを落としていった。

ミサイルは頭から発射口へゆっくりと落ちていく。

『ガン』と発射口へ当たり

『ギー、ギー』と高い金属の擦れる音と共に発射口へ吸い込まれていくミサイル。

『ガゴッ』と底に着いた音がして、

ミサイルは発射口へ逆さに挟まった。

もちろん爆発は起こらないので安心だった。

 

さすがの長距離移動で体力が根こそぎ無くなり、全身が鉛のように重くなった。

京一郎が作った超体力回復剤『がんばる君』を服用する。

しかし、これで十分に動ける時間は1時間しかなくなった。

翔は潜水艦の潜望鏡に飛び乗って見ていた。

敵潜水艦の中では大混乱が起こっている。

発射したはずのミサイルが発射口へ戻ってきたのだ。

急速潜航をしたいようだが、発射口にミサイルを詰めたままでは不可能だった。

本当のところ既にウニ丸君が接着して、

スクリューは固定されているし

喫水線下でエアバルーンを膨らませているので

この3隻の潜水艦は潜航することは不可能だった。

(つづく)

57.彼とドライブ3-然別湖・東雲湖-

帯広名物の豚丼を食べて、次に向かう前に

美波は「クランベリー本店」へ向かってくれるようにお願いした。

この店は1972年の創業の歴史ある店で「スイートポテト」が有名だった。

さつまいもを蒸して、半身となったさつまいもを厚めの皮だけを容器にして

さつまいもとカスタードクリームがさっくりと混ぜ合わされ詰められている。

 

それは良いさつまいも本来の雑味のない味や甘さに加えて、

ご当地で生まれた新鮮な牛乳から作られたクリームを使った

味の濃いカスタードクリームが練りこまれている。

そのバランスの取れた絶妙な甘さが

お茶でもコーヒーでも紅茶でも何でも良しのスウィーツとなった。

二人は家族の数にあわせて、大きさを選んで購入した。

前田さんは3時のおやつ用に小さなスイートポテトを買っている。

 

次の目的地は「然別湖」だった。

帯広市を北上して突き当たった38号線を左折し清水町まで向かい、

そこを右折し274号線へ入り鹿追町を越えて直進する。

途中から然別湖畔温泉の看板に沿って進んでいく。

この湖は標高810mにあり、北海道の湖では最も標高の高い場所にあって

面積35.9平方キロメートル、周囲は13.8キロメートル、

最大深度は108メートル、透明度19.5メートルである。

周辺には、東雲湖と駒止湖という2つの小さな湖がある。

美波は東雲湖と聞いて、「北海道三大秘湖」の一つと言われていて、

エゾナキウサギの棲息地域だと以前父が話していた事を思い出した。

 

然別湖畔温泉裏手の遊覧船乗り場駐車場へ車を停めて遊覧船に乗る。

この湖は入江が複雑で、遊覧船がその入江をなぞるように走るため、

湖岸がとても綺麗に見える。だいたい1時間かけて一周するようだ。

原始のままの北海道の姿を残す原生林が囲んだ湖。

街より一足早く秋の気配が忍び寄る湖岸の原生林。

その風もない湖面には遊覧船の立てる小さな波が広がっていく。

しばらくすると乗り場のちょうど向かいのエリアが見えてくる。

船内アナウンスでは『東雲(シノノメ)湖』の姿がうっすらと見えているらしい。

美波は父に見せるため急いでその淡青い姿を写真に収めた。

グーグルアースでも雲に隠れて見えないその姿を写真に収めた。

 

東雲湖は、周囲0.8キロメートル、最大水深2メートルほどの小さな湖で、

道路での直接の連絡道はないようだが、

然別湖南側の斜面に東雲湖全体を望むことのできる場所があり、

そこへは湖岸の遊歩道を徒歩30分ほどで到着することができると

遊覧船乗り場の係員に教えて貰った。

以前は東雲湖へ向かう場所へ遊覧船を停めて客を降ろしていたようだが、

その希少な自然環境やエゾナキウサギやエゾサンショウウオの保護を考慮して

観光客の出入りを止めさせたらしい。

確かにここ最近北海道へは海外からの観光客も多く、

観光業も盛んになるにつれて、様々な弊害も出てきていると報道されているので

北海道の自然を残すという点から考えると必要な処置だった。

 

然別湖畔温泉にある美術館には北海道に生息する小動物の写真展が開催されている。

その中でナキウサギの写真があった。

ナキウサギは、体長約18-20cm、尾長2cm弱、体重75-290gで、短い四肢と丸い耳、短い尾をもつウサギでハムスターのような小動物だった。

美波はその愛らしい姿に惹かれて、ついつい絵葉書用写真を買ってしまっていた。

今度仙台に住む婆ちゃんに絵葉書を送るつもりだった。

また、この湖に棲む北海道の天然記念物に指定されているミヤベイワナの写真も飾られている。この魚はサケ科イワナ属の淡水魚で、この湖に陸封されることで固有種となったオショロコマの亜種(または別亜種)と説明されている。

 

美術館から出ると空の青さに少し紫色が混じり始めた事に気がついた。

もう太陽が傾きかけている。

頬に当たる然別湖を渡る風も少し冷たくなってきている。

「日下さん、もうそろそろ札幌へ戻ろうか」

「そうですね。でも時間って早いですね」

「そうだね。あっという間に夕方で驚いた。

 じゃあ、遅くなってご家族が心配してもいけないから帰ろう」

「なんもなんもと言いたい所ですが、そうしましょう」

帰り道も来た道と同じ道を帰って行った。

北広島で若干渋滞に引っかかったが、夕方6時過ぎには札幌の実家へ着いた。

「日下さん、今日はありがとう。疲れてない?」

「ええ、大丈夫です。今日は楽しかったです。お誘い頂きありがとうございました」

「あの・・・もし、・・・良かったら、またドライブにでも誘いたいんだけど」

「はい、いいです。こちらこそお願いします」

「あ、ありがとう。またメールか電話をするね」

「はい、でもお仕事が忙しいので無理しないで下さいね。

 私の方からも就職とかで色々と相談させて頂きたいと思っています」

「なんもなんも、仕事なんて大したことないです。

 どんな相談にも出来る限り協力するので僕の仕事のことは気にしないでね」

「わかりました。では今日は本当にありがとうございました。

 気をつけて余市まで帰ってくださいね」

「うん、ではまたね。バイバイ」

「バイバイ」

 

美波は出発した阿部さんの車を見えなくなるまで見送った後、

実家のインタフォンを押した。

もう夕ご飯が出来ている頃だった。

函館・青森の旅行以来、久しぶりだったので家族も大喜びだった。

いつものように和気藹々としたご飯が終わって、

居間で今日のお土産と写真を見せながらスイートポテトをみんなで食べた。

自家製豚丼は明日日曜日の晩御飯とのことで楽しみだった。

(つづく)

121.首都を防衛せよ8

同じ頃、自衛隊の官舎や部隊へ潜入していた一族より、

何とか家族全員の首飾りを爆発させることなく外すことができたと連絡があった。

反乱兵士の家族達も首のバンドの性能は知っており嘆いていた。

恒例になっている同郷の仲間のお誕生会が発端だった。

その会のゲームで全員バンドを着けた事が始まりだった。

主催者から突然に『夫にも着けないとみんな死ぬ事になる』と言われて

怖くなって家に帰った妻は夫へそれを伝え、夫もそれに従ったのが真相だった。

 

このバンドは破壊されると信号を発信し、

その信号を受けると爆発する構造であり、

破壊しても電波を受けなければ起動しないことがわかった。

信号が無くなれば起動することがないので

全員に一つの部屋に集まって貰い、妨害電波でジャミングしながら、

室内で電磁パルスを一斉に発生させ、全てを同時に一斉破壊した。

それにより他に電波は発信されることもなく無事破壊することができた。

このことは自衛隊の反乱軍にも伝えられた。

反乱軍の兵士はすぐに武器を捨て投降し、

官舎へ戻ると家族と涙を流しながら抱きあっている。

自衛官の夫は、もちろん望んで起こした行動ではないが捕縛され状況を聴取された。

 

政府官邸も戒厳令を発令し矢継ぎ早に対策を実施していたが、

自衛隊が動けないうちは警察だけに頼ることとなり遅々と進まなかった。

やがてやっと自衛隊が動けるようになったが、

自衛隊内では全ての機器の電源が落とされており復旧を目指すも簡単ではなかった。

イージス艦のイージスシステムも地上配備型イージスアショアシステムも

回路そのものを破壊されて復旧には時間がかかると現場より報告があった。

 

日本中の大きな街のあちこちでは、異様な光景が現れている。

市役所、駅や原発など公共機関付近では、

最初は少人数の集団だったものが徐々に大きくなって、

先頭に混じってヘルメットにマスクを付けた人間によって、

建物へ火炎瓶が投げられ、車を引っくり返して火をつけるような過激なデモに発展している。

 

一部の宗教団体も

「新しい世界は目の前です」

「この世の終わりが近づいている。悔い改めよ」

「今こそ光を見つめなさい。その身を委ねなさい」などの

プラカードを持ってぞろぞろと歩いている集団の前には

流れる音楽に合わせてその宗教独特のダンスの列が道路を進んでいく。

 

公共機関への過激なデモの集団は、

現在の日本に不満や恨みを持つ人達のようで

多くの一般市民を率いているのは、

若い時に学生運動をした活動家だった人間で

プロ市民として先頭に立って暴れている。

マスコミに人道主義者として絶賛されている男が、

『総理、死ね』『日本、潰れろ』と叫んで暴れている。

 

遅ればせながらやっと警察が国内暴動へ対応し始め、

暴動やデモを心配そうに遠巻きに見ていた一般市民も

暴動の主導する者が逮捕されていくと徐々に平静に戻っていった。

大声を上げたり、建物へ火炎瓶や石を投げていたヘルメットやマスクをしていた人間もいつの間にかデモ集団の中からいなくなっている。

そういう人間はどうも扇動する役割を与えられているような行動だった。

一時の喧騒が嘘だったかのようにデモをしていた人達も徐々に減っていった。

 

そんな時、官邸や自衛隊へ大型ミサイル発射の報がもたらされた。

官邸も自衛隊上層部も一瞬で凍りついたまま何も対応できなかった。

(つづく)

120.首都を防衛せよ7

翔は破壊した大型ロボットの体部下面の扉より

敵兵数人が脱出してきた事をふと思い出した。

翔はとっさにロボット体部下面の扉部分の下へ跳んだ。

外部から鉄切ナイフで扉部分を切り裂いた。

ポロリと扉部分が地面へ落ちた。

そして体内へ『ショート君』と『対人用閃光弾(=目潰し光弾)』を撃ち込んだ。

『ギャアー』

敵の声が漏れてくる。

顔を押さえながら転げ出てくる敵に『対人用電気ショック弾(=ビリビリ君)』を打ち込んだ。

 

3姉妹の方は、

敵のキャノン砲や鋏を避けながら、3人で連携しながら関節部分を狙い、

鋏を1本、キャノン砲を1本と徐々に落としていき、最後には足も切り離されて解体された。

胴体だけになったロボット内の敵は、マシンガンで抵抗していたが、

『対人用睡眠弾(=スヤスーヤ)』を撃ち込まれて抵抗は止まった。

 

まだ機械化兵と獣人化兵は、たくさん残って戦っており予断は許されない。

その時、優子より連絡が入った。

東京湾へ無国籍の大型船舶が侵入してきています」

そして人工衛星からの画像では、ミサイル発射段階にあります」

 

時を置かず優子より

「ただいまミサイルが発射されました」

「ミサイルは10基、皇居及び霞ヶ関方向へ向かっています」

「東京へ向かうミサイルはコンボイ3台で全て迎撃する予定です」

コンボイに備え付けられた『スーパーレールガン』から迎撃弾が発射された。

「ただいま10基すべて撃墜しました」

「再度、ミサイルが発射されました。今度は30基です」

同様に『スーパーレールガン』から迎撃弾が発射された。

「すべて撃墜できました」

 

恐るべき防御能力だった。

それは信じられないほどの飛距離が可能なレールガンに搭載した

多弾頭砲弾と電磁パルス弾の成果であった。

このレールガンは超伝道により加速させるため

砲身が熱くなる事もなく何十発と連続発射できる。

敵の発射位置などの情報は、日本が周回させている人工衛星だけでなく、

ハッキングしたさる宇宙強国の人工衛星からの情報により全てが把握できていた。

大型船舶は潜水艦隊の方へ移動し始めている。

 

敵の地上軍も援軍が来ないため徐々に勢いが無くなってきている。

このまま行ってくれれば水際での上陸阻止作戦は成功する。

しかしそうはうまく事は運ばなかった。

その時、優子から「潜水艦より大型ミサイルが発射された」と報告があった。

(つづく)

56.彼とドライブ2-愛国駅・幸福駅-

道東道から見える帯広市のある十勝平野雄大だった。

見渡す限り地平線がずっと続いている。

美波の生まれた米子は非常に古い昔から街道の町として発達してきたが

北海道は先住者のアイヌ民族の人々が開いた街は別として

現在発達している街は、明治以降に多くの入植者が開拓した街ではある。

ふと頭の中で街の景色を全て消して原生林に置き換えてみると

そして当時の開拓器具やほとんどが人又は馬・牛によるものだったことを考えれば

この街が出来るまでのその人達の努力に頭の下がる思いだった。

今でこそ、その子孫は暖かい部屋で

冬でもアイスクリームを食べるような生活を享受しているが、

そういう生活が出来るようになったことは本当に有難いことだと感じた。

 

やがて帯広ジャンクションを降りて愛国駅と幸福駅跡へと向かう。

この駅の話題は、1973年に放送されたNHKの紀行番組「新日本紀行」において『幸福への旅~帯広~』が放送され、「幸福駅」の駅名が全国的に知れ渡った。そして幸福駅ブーム(愛の国から幸福へ)起こったらしい。

このブームは二人が生まれる前の話なのでよくわからないが、

とにかく行ってみようという事になった。

 

先ずは愛国駅に向かった。

もう駅としては機能していないが、交通記念館となっていて、

館内には、旧国鉄時代の懐かしい品々が展示されている。

二人とも鉄道ファンではなかったが、何か懐かしさを感じる品物が多かった。

館外には旧国鉄当時のまま保存されている愛国駅プラットホームがあり、

蒸気機関車19671号の漆黒に輝く車体が記念展示されている。

また、「愛国駅~幸福駅きっぷモニュメント」が展示されており

これは幸福駅ブームの火付け役になった「愛国駅~幸福駅」の切符の石碑らしかった。

そして、「恋人の聖地登録記念碑」があり、数人のカップルがそこで写真を撮っている。

看板にはNPO法人地域活性化センターの「恋人の聖地プロジェクト」で、プロポーズにふさわしい場所として選定されたことを記念して建てられたボードと説明されている。

 

次に幸福駅に向かった。

この縁起の良い地名の由来としては、集団入植が行われる前の幸福町周辺は、アイヌ民族により「サツナイ」と呼ばれる地域だったようで、福井県からの入植者が多いことから、この地域の集落名を「福井」の一字を充当して「幸福」と名付けたらしい。

鉄道駅としての歴史は浅く、1956年に駅として運営されたが、赤字路線のため、とうとう1987年に廃線となった。鉄道駅としての寿命は短かいものだったが、地元を含めて存続を求める声が多かったため、観光ポイントとして新たに再整備され、人々へ幸福をおすそ分けする『観光駅』として再出発したと看板には説明されている。

売店では、当時も今も売れている「愛国から幸福行き」という駅区間切符が雑貨で販売されていたので、家族用に人数分を買った。

 

昼ご飯には、全国的にも有名な「豚丼」を食べる事になった。

帯広市内にあるお店で長い列が見える、

『帯広の豚丼発祥の店』と言われる「ぱんちょう」の列へ二人は並んだ。

待つ間、焼けた醤油の香ばしい匂いが辺りに充満し、ずっと胃を刺激してくる。

いよいよ順番が来て店内へ入る。

そこは小さな店で4人座りのテーブルが5卓しかなく奥から順番に座る。

メニューを見ると松竹梅となっているが、普通の店とは違って逆だった。

大女将のお名前が梅さんなので梅のボリュームが一番多いらしい。

やがて二人の前に豚丼が運ばれてきた。

二人とも丼の蓋からもはみ出るくらい大きな肉厚のロース肉に驚く。

蓋を取るとグリンピースが散らされている。

その時、お店に大女将の梅さんが現れて、

客への来店の御礼と

『蓋にグリンピースが付くことがあるのでご注意下さい』と話している。

 

美波はその肉厚の豚を少しかぶりついた。

その豚肉の柔らかさ、

鼻を通る炭火の香り、

舌にガツンと響く甘辛タレが絶妙だった。

こんな丼を食べたのは初めてで、

目が丸くなるくらい美味しかった。

二人とも

『美味しいね』

『はい、そうですね』

と言葉少なくひたすらに食べた。

本当に美味しい時には言葉が出ないという話は本当のことだった。

食べ終わって出ようとすると

レジの近くには『豚丼のタレ』が、置かれていたので家族用にも買った。

(つづく)

119.首都を防衛せよ6

ドガーン』

ドガーン』

突然、敵方の大砲が火を噴いた。

3姉妹はバトルコンボイ付近への被弾を防ぐため、

ジャンプしては盾や衝撃吸収網で叩き落している。

砲弾数が多いため漏らした場合も

弾性体で出来たコンボイを囲むトーチカで衝撃を吸収しているため爆発はしない。

ただし、コンクリート部分に着弾した弾は破片を撒き散らしながら爆発している。

たまにバトルコンボイにも被弾しているが、コンボイの壁面を破壊する事は出来なかった。

 

大砲やヘリコプターなどの空中兵器は厄介だったので先ずは黙らせる事として、

大砲はバトルコンボイの『超指向性ビーム砲』と『指向性振動砲』で破壊しながら

そして、レールガンにて『対広範囲用電磁パルス砲弾』を発射した。

電磁パルス砲弾は、クルーズ船の上空で爆発し、半径50mの範囲の電子機器に作用する。

船の長さが200mもあるクルーズ船も4発もあれば全ての電子機器が沈黙した。

飛び立とうとしたヘリコプター5機はそのまま沈黙し、

空中にいた機体はそのまま海へ真っ逆さまに墜落していった。

手動のミサイルランチャーも『超指向性ビーム砲』で溶かしたり

『指向性振動砲』で分解させたりして黙らせた。

 

大型ロボットに「対兵器用電磁パルス発生弾(=ショート君)」を使用するも

重要部分はコーティングをされているためか全く動きを止めることはできなかった。

いよいよ大型ロボットが岸から上がってきた。

上陸阻止部隊は、

『対強化兵用複数戦闘用バトルスーツ阿修羅』

『対機械兵用バトルスーツ田力男』に数々の武器を装着している。

 

続いてゴムボートから敵が上陸してきた。

優子からの指示により

上陸阻止部隊は『対人用強力粘着弾=ヘバリツーク』を一斉に水平撃ちで使用した。

効果としては機械兵には効果があったが、

素早い獣人化兵には当たらず

大型ロボットの足を止めることも出来なかった。

翔達が大型ロボットへ攻撃するも何の効果も無かった。

 

『それでは』と、気合を込めなおした翔は

大型ロボットの鋏の腕を掻い潜り、

手から発射されるスパイダーネットを使い、素早く大型ロボットの背によじのぼった。

その間にも敵兵士を足止めしているレイ、アイ、アスカの3姉妹はキャノン砲で撃たれ

綺麗な彼女達の手や足が吹き飛ばされてしまっている。

翔は彼女達へコンボイへの撤退及び修理、その後百合との救急看護の命令を出した。

 

掛け声と共に

背中に背負った『リアル斬鉄剣=鉄切刀』を振り上げて分厚い装甲へ突き刺した。

『おりゃあー』

『ザクッ』

『スパッ』

切り開かれた内部に複雑な機械部分が見えた。

その中にショート君を撃ち込んだ。

予想通り、機械部分で電磁パルス発生弾が爆発すると機械部分が破壊される。

それでやっと大型ロボットの機能が全て停止させることが出来た。

ただ、他の歩兵からロボットの背にいる翔を狙っての銃撃があり、

他の2台のロボットからキャノン砲が発射される。

背負った盾で何とか防ぐにも砲弾の勢いが強過ぎて地面へ叩き落された。

目の前にロボット体部下面の扉より梯子で敵兵数人が脱出してきて

「こいつがあの探偵だ」

「必ず殺せ」と口々に叫びながら攻めて来る。

翔は、彼らを『対人用閃光弾(=目潰し光弾)』で行動不能にし

『対人用睡眠弾(=スヤスーヤ)』を発射し全員を眠らせた。

 

機械化兵と獣人化兵は、こちらを一向に恐れる素振りも無く進軍してくる。

力が強く防御力に優れる単独行動の多い機械化兵には、

『対機械兵用バトルスーツ(=田力男)』が対峙した。

反射速度の速い、動きがトリッキーで集団行動を行う獣人化兵には、

『対強化兵用複数戦闘用バトルスーツ(=阿修羅)』で対峙した。

 

機械化兵からの攻撃は、パンチ一つにしても強力で生身では受けることができない。

そして、疲れ知らずの上に力任せに槍や剣で攻撃してくる。

田力男型バトルスーツは、

腕部に格納された機械部分に連結された腕パーツに自らの腕を通して、

自らの力を数十倍以上にすることにより、機械化兵に対して防御や攻撃を行う。

武器としては、鉄切刀、鉄切ナイフ、ショート君、対人用電気ショック(=ビリビリ君)などだった。

機械兵は攻撃されてもあまり防御をしないため、

相手からの攻撃を盾で避けたり掻い潜ったりしながら

中間距離では鉄切刀、

接近戦では鉄切ナイフで四肢や首元の関節可動部分を狙っていく。

体内が見えたら鉄切ナイフに付属させている振動波発生装置を使い機械部分を破壊していく。

 

獣人化兵からの攻撃は、獣の種類にもよるが人間の数倍程度の力だが、

それ以上に人間には対応できない程の俊敏性で集団での攻撃が得意であった。

阿修羅型バトルスーツは、

自らの両手以外に体部両側に2本ずつ手がある。

その6本がヘルメット8面に付いているカメラアイの情報で

背中に格納されているコンピューターが攻撃と防御を同時に行う。

背面の敵にも対応できるため、1体で複数の相手が可能になる。

盾と鉄切刀がおのおのにセットされている上に、

生身の両手部分では銃やその他の武器も使用できる。

仮に大型猛獣タイプ(熊など)の場合には、

両側の腕を合体させる事によりその強力な力に対応できるようになっている。

両一族の戦闘員はその道の専門家ではあるが、敵も強く簡単には制圧できなかった。

だが徐々に敵を押さえ込み始めている。

 

まだ大型ロボット2体は健在で、翔1人ではなかなか沈黙させられなかった。

一族の戦闘員の怪我が目立ち始めている。

優子より、レイ、アイ、アスカの3姉妹の破損部分の修理が完了した旨、

彼女達の身体に

人間では負担が大き過ぎる体高約5メートルの「スーパー田力男型バトルスーツ」に「盾」と「超振動鉄切刀」を持たせ

3体で大型ロボット1体へ当たらせる旨の連絡があった。

 

「スーパー田力男型バトルスーツ」のレイ、アイ、アスカの3姉妹が戦線復帰した。

2体の敵大型ロボットは、

今まで連携し翔を攻撃していたが、今度は1体ずつとなった。

そうなれば翔としては、1体を破壊することは簡単ではないが難しい訳ではなかった。

3姉妹は、各自がコンピューターで対応しているため、手早い応戦ができている。

(つづく)

118.首都を防衛せよ5

日本国憲法には「緊急事態条項」がないため、

こうなると総理大臣も身動きが取れない。

『国民の命と財産を保護するための行動』を発動することができない。

憲法改正反対をしてきた勢力は、こういう事態を想定して、

憲法改正反対をしてきたと思える節がある。

 

多くのテレビ局では、政府が隠しているにも関わらず、

多くの特別番組が組まれ、世界市民を推進する評論家などが

「日本人は平和を好むので誰一人として戦うべきではない。

 平和憲法がある限り日本人は戦ってはいけない。

 おとなしくしていれば命は保障されます。

 敵に抵抗してはいけない。

 戦闘行為は憲法違反です。憲法に従いましょう。

 この革命により新しくなった日本で幸せになりましょう」と連呼されている。

 

街中では、戦闘服らしき服装で叫んでいる男の口から

「この革命でこの国は新しくなる。

 腐った政治家によって腐敗しているこの国を作り変えよう。

 今度の新しい日本では、俺は隊長の約束を貰っている。

 日本国民よ、諦めて我々に投降しなさい。

 我々は今度こそ戦勝国国民になるのだ」と叫んでいる。

またある集団の女性の口からは

「若い人は警察へ抵抗しなさい。年寄りは抵抗して死になさい。

 それこそが新しい日本の礎となるのです。

 新しい日本のためには日本人の血が必要です。

 抵抗する者を殺しなさい。

 きっとあなたは新しい日本の指導者になれます。私が保証します」と叫ばれている。

 

警察や政府関係施設は、

朝から夜中まで市民からの電話で謝罪と説明の対応に追われている。

警察は原発や港などテロ重要拠点の警備に人員を裂かれ、

市民の安全まで目配りができていない。

ただそんな中でも、きちんと規則を守り暴動にまで発展しない日本国民が多かった。

もしかしたら状況が把握出来ていないためと、今まで表立っては話されていなかった他国の侵略行為に目を瞑って気付かないふりをして、偽りの平和な生活が続くと考えているのかもしれなかった。

 

在日米軍横須賀基地には、日本独立革命軍(JIR)より打電があった。

「これは日本国内の内戦であり日米条約の限りではありません。自衛隊も我々の同志

 が抑えており現在動くことが出来ません。もし米軍として反撃するならば、あなた

 達とそのご家族は責任持てない事となります。我々はあなた達とその家族にいつで

 もミサイルを撃ち込む事ができます。動かない方が身のためです」と脅迫があった。

本国から指示がないので米軍としては動くことは出来ないが、自衛隊も抑えられている事態を知り愕然としていた。基地上層部としては米国兵士とその家族を守るために日本政府や自衛隊への協力に動くことが出来なかった。

 

スーパーコンピューターの優子から次々に指令が出されてくる。

葉山研究所内ドッグから静かに、

海上の潜水艦へ『イルカ型ロボット(=ドル)』が10体放たれた。

ドルは体長5メートルの表面を人口皮膚で覆っており一見本物と区別がつかない。

ドルは自然な泳ぎで一直線に潜水艦へと向かっていく。

仮にレーダー探知されてもロボットとは気がつかない精巧な作りだった。

潜水艦を周回しながらそっと腹部に格納された『ウニ丸』を海中へ放っていく。

ウニ丸は、直径5センチ程度の大きさでドル1体には3000個格納されており、

波に揺れながら海水面下を磁性体に向かってそっと移動していく。

仮に磁性を消した船体でもドルが誘導波を出しているので接着していく。

浮上している潜水艦の喫水線以下に沈みながら

そっと船体壁面やスクリューの羽根部分や根元部分へ接着していく。

針の先端部分から熱線が発射され溶接され全体が船体部分に食い込んでいく。

これで潜水艦は行動が不能になりどこに行っても探知される事となる。

 

さて大井埠頭では

偵察及び武器投下用ステルス機『ホーク号』による情報収集が続いている。

『ギギギギギー』

沖で停泊しているクルーズ船から異音が地響きと共に足元から響いてくる。

大きな扉が開くような重い音だった。

しばらくすると地の底から、

『ズシーン、ズシーン』

と重い響きが徐々に近づいてくる。

上陸阻止部隊は、じっと固唾を呑んで海面を見つめている。

 

波立つ海面から水煙を上げながら、

蟹の甲羅のような上半身に続いて、

二足歩行の上背20メートルの大型ロボット3体が姿を現した。

両肩に2基のキャノン砲が見える。

側面には鋏型の両手があり捕まればまっぷたつにされそうだ。

 

それと同時にクルーズ船の側面ハッチからは

20艘ほどのゴムボートも発進しており、

各ゴムボート上には10名程度の獣人化兵士と機械化兵が見える。

甲板ハッチからもヘリコプターも発進しようとする気配もある。

甲板から上がってきた大砲の砲塔がこちらを向いている。

大型ロボットとゴムボートが近づいてくるには若干の時間がある。

AI学習型人型ロボットのレイ、アイ、アスカの3姉妹は、

砲弾をも弾き返す分厚い盾や砲弾の衝撃を吸収する網を持ち、

頭・肩・胸・脚部を盾と同じ素材のパーツで保護したバトルスーツを着込み

上陸阻止部隊の最前線に散開している。

(つづく)

117.首都を防衛せよ4

クルーズ船『ドリーム号』は、相模湾を通過し浦賀水道を越えてきた。

そして大井埠頭の沖で突然停止した。

人工衛星の画像で確認しても

3隻の潜水艦は相模灘と大島との間の公海上に停泊しており、

南シナ海から来た大型船舶は浦賀水槽を越えて東京湾へ入るところであった。

海上保安庁がドリーム号や大型船舶へ呼びかけるも一切返答は無かった。

船に侵入しようにも船内には人の気配もあり、仮に武装されていれば事は簡単ではなかった。

翔はジリジリとしながら大井埠頭で待った。

 

その時、京一郎より連絡が入った。

1.『バトルコンボイ』を4台、『館林3姉妹(レイ、アイ、アスカ)』を大井埠頭へ送るとの事。

2.『葉山及び目黒館林研究所』及び『桐生科学研究所』は優子の支配下に入り戦闘へ参加する事。

3.『館林及び桐生一族』は、各自作戦に入り、先ずは自衛隊を救出する作戦を実施する事。

4.『大井埠頭組』は、自衛隊員救出まで敵の攻撃を無効化し敵兵の上陸を阻止する事。

5.Ryokoは、バトルコンボイの1台へ頭脳の大部分を移し、翔への攻撃のバックアップと百合の安全を最優先に行動する事の5項目であった。

 

埠頭の最深部に停めているバトルカーへバトルコンボイが横付けされた。

コンボイの側面が開き、バトルカーを収納していく。

バトルコンボイの内部は、多くのモニターがあり、世界中の状況を映し出している。

その一角には『スーパーロボスーツ』が備え付けられ、今か今かと出番を待っている。

残りのバトルコンボイ3台は、波頭全体に散開し壁面が折り畳まれ兵器が顕わとなった。

1台は『超指向性ビーム砲』、

1台は『スーパーレールガン』、

1台は『超指向性振動砲』

その他、多くの武器格納用車両が停められた。

対強化兵用複数戦闘用バトルスーツ『阿修羅』、

対機械兵用バトルスーツ『田力男』、

対局地用『電磁パルス砲弾』、

対人用強力粘着弾『ヘバリツーク』、

対人用睡眠弾『スヤスーヤ』、

対人用電気ショック『ビリビリ君』、

対人用閃光弾『目潰し光弾』、

対兵器用電磁パルス発生弾『ショート君』、

背中に常備刀のリアル斬鉄剣『鉄切刀』及びブーツ接着『鉄切ナイフ』

(柄部分に振動波及び電気発生装置あり)

偵察及び武器投下用ステルス機『ホーク号』

その他、対潜水艦用のものを葉山館林研究所から出動させている。

 

政府より米軍へ打診しているが、横須賀基地と一切連絡が取れなくなっている。

米軍より防護に向かうことができないと断られていること。

理由はやがて判明した。

アメリカのテレビ放送局へ日本独立革命軍(JIR)の日系人の男より

『日本は今から内戦へ移行する』と宣言されており、

日米安保は内戦への適応はないため、在日米軍は動くことができなかったのだった。

一番怪しいと思われる隣国政府は、

『当軍隊はわが国と一切関わりない』との声明を伝えてきている。

(つづく)

116.首都を防衛せよ3

自衛隊へ潜入している桐生一族の者からは逐次連絡があった。
自衛隊基地内では、一部の隊員が小隊単位で武装蜂起し

防衛省コントロール室を占領している。
どうやら蜂起した隊員の情報を精査すると
所属は別々で特に偏りは無かったが、
共通点として日本人以外のアジア人を妻に持つ隊員ばかりで、
彼らの表情を見ていると、
脂汗を流しながら嫌々従っているようであった。
「君達、こんな事をして許してくれ。どうしようもないのだ。許してくれ」
「隊長、許してください。お願いですから今は動かないで下さい」
それでも歯向かう隊員へは、手錠を掛けて部屋へ押し込めている。

幕僚長を始めとして、自衛隊の上級幹部は全員椅子へ貼りつけられている。
「君達の目的はなんだ。要求を言って欲しい」と幕僚長が話すも
「幕僚長、お願いですから、今は動かないで下さい。
 要求はこれのみです。そうしないと撃つこととなります。
 こんなことをしては、私の命はもうないものと思っています。
 お願いですから動かないで下さい」
彼ら全員の耳にはイヤフォンと
首には定期的に点滅している機械仕掛けのバンドが巻かれている。
総理大臣や防衛大臣から連絡が入るも、

「現在、全員、外出中です」と返事をしている。
総理へはNSCにて現在の状況が逐一報告されている。
日本国が現在動かすことのできる機動力は海上保安庁と警察隊のみだった。
ただ原発を含めて、

重要拠点への配備を含めると現在の警察力では十分ではない状況だった。

謀反を起こした自衛隊員の家族状況を調査すると、

家の中でじっとしているようで、
妻や子供の首にも隊員と同じ機械仕掛けのバンドが巻かれている。
何者か、もしくは組織の企てにより、家族を人質に取られているようだった。
日頃、国や国民のために全力を尽くしている彼らにとって
家族は唯一の安らぎであり、この世で一番大切な存在であった。
その存在を、その命を、盾に取られることは衝撃であった。
『優子情報』では、機械仕掛けのバンドの構造は、
頸動脈部分に小型爆弾が仕込まれており、
一つでも無理に外されると信号が発信され、
全てのバンドが爆発するようになっている可能性が高いとのことだった。

(つづく)

115.首都を防衛せよ2

その時、目黒館林研究所の大型コンピューター『優子』から連絡が入った。

テレビ画面が優子の顔へ切り替わり、画像が映し出された。

連絡内容を要約すると

東京湾沖(公海上)で潜水艦らしき姿が3隻浮かんでいること。

②今回の『ドリーム号』は日本へ寄港する予定にはないこと。

南シナ海方向より、国籍不明の大型船舶3隻が日本へ向かっていること。

④研究所職員犬神獅子男の記憶から、東京への攻撃の可能性が高いこと。

⑤仮に潜水艦、大型船舶、クルーズ船が同じ目的の場合、

 東京都だけでなく横須賀基地への攻撃も可能性があること。

⑥東京都・神奈川県内の自衛隊基地所属隊員の不穏な動きにより命令系統に乱れがあること。

 

我々としての対抗策として

①上陸阻止作戦

②対ミサイル防衛作戦

③敵艦殲滅作戦

④敵の兵力(ミサイル、機械化兵ほか)への対応

優子が各々のシミュレーションを映し出していく。

ただし、新兵器の可能性も高く、無傷の勝利は困難だった。

今後、情報収集に努めると共に想定外の事態にも対抗策を練る必要があった。

 

その画面が消え次第、都倉警部へ急いで連絡した。

30分後に都倉警部が事務所へ顔を出した。

この情報を聞き、現在政府もアメリカからの情報を元に準備に入っているが、

自衛隊情報を聞いたのは初めてのようで驚いている。

 

この時、自衛隊だけではなく日本国政府も混乱の極みにあった。

日本が攻撃を受ければ日米が連携をし、敵を殲滅する訓練はしてきているが、

攻撃されている訳でなく、何の声明も出されないため、じっと待つだけであった。

そして、自衛隊内部では想定外の隊員の造反で命令系統は寸断されている。

考えもしなかった事態であるため、当然NSCが開催されているが、

ただ時間だけが浪費されるだけで何も決定されなかった。

 

江戸幕府が出来て以来、国家防衛の任を受けている館林家と桐生家頭首へ

日本国を代表するさる方より、『防衛出動』の指示が下された。

両頭首は連絡を取り合い、情報の確認と整理、優子の立てた作戦の検討に入った。

未確認情報も多いため、現場での実践部隊の判断に任せることとしてとりあえず、

まずは両一族の武闘派へ東京港湾部への移動を命令した。

敵の上陸地点ははっきりしないが浦賀水道両岸では広過ぎるため迎撃は困難であり

羽田国際空港では他国の観光客へこちらの戦力がばれる恐れもあるため

東京都への海路の入口にあたる大井埠頭の城南島海浜公園中心に各所へ散会している。

葉山・目黒館林研究所、桐生科学研究所から両一族への最新兵器の投入が計画されている。

そして、普段は闇に隠れているが都の霊的な守りを固めるために

桐生一族「狐派」が関東圏全体へ散り、関東圏全体に結界を張る準備を始めた。

(つづく)

114.首都を防衛せよ1

今日は久々に急ぎの仕事も無く、

翔と百合はゆったりした気持ちでくつろいでいる。

いつものようにクライアントが来る前は、ソファに並んでテレビを見ている。

テレビでは、世界1周クルーズやアジアクルーズの番組が放映されている。

「翔さん、クルーズっていいね」

「そうだね。

 でも長い時間、船の上で何もする事がなさそうだから若いうちは退屈かも」

「そういえばそうね。

 じゃあ、二人がおじいさん、おばあさんになったらいいでしょ?」

「うん、そうだね」

「じゃあ、約束よ。ずっと先のお話だけれど、すごく楽しみ」

翔は百合の焼いたクッキーを食べながらニュースに見入っていた。

 

その時、緊急ニュースが入ってきた。

国籍不明の漁船団が

日本海にある日本領の小島付近へ集合しはじめているとの事だった。

顔付きはアジア系のようだが、どの国かは特定できなかった。

海上保安庁もその小島へ急行し、日本領外へ出て行くようにアナウンスしている。

そのうち、その漁船団が一斉にその小島へ向かい上陸し始めた。

海保隊員が上陸を阻止するも、多勢に無勢で次々と上陸している。

多くの海保艦艇が集合し、海保隊員が彼らを検挙しようにも

武器を持って抵抗してくるため、検挙できないまま多くの者が上陸している。

 

その時、領海に沿って国旗のない軍艦らしき姿が見え始めた。

3隻であった。

海保艦関係者からは、

『近隣国家の軍艦に似たものを見たことがある』との発言もある。

海上自衛隊へ確認の連絡をしているが、まだ確認ができていないと報道されている。

不思議なことに領海線から日本領海内へは入って来ずライン上に沿って北上している。

海上自衛隊は、イージス艦1隻と護衛艦3隻を派遣し

小島とその軍艦の間で待機している。

その謎の軍艦の目的が明確でないため、また国籍不明のため、

また領海侵犯をしていないため、

日本政府は何も出来ずただ見守るだけだった。

 

マスコミは

「不明船の目的が明確になるまでは日本政府は何もするべきではない」

「小島に上陸している不明国民を逮捕すると攻撃されるから止めた方がいい」

平和憲法があるのだから自衛隊は日本へ明確な攻撃があるまで動くべきではない。

 勝手に動けば我々は自衛隊が戦争を引き起こしたと糾弾する」

憲法9条があるから戦争は起こらない。事を大きくする必要は無い」

「どこかの人間が小島に上陸したからと言って騒ぐのはおかしい。

 これを機会として政府は憲法改悪をするつもりの自作自演ではないか」

「こんなことより、友加学園の忖度文書の方が問題だ。政府の横暴を許すな。

 政府は説明責任を果たすべき」

「日本国民は友加学園の解明を望んでいる」と大手新聞の誌面を飾っている。

(つづく)

113.妖?行方不明者を探せ11

大陸から呼ばれた悪霊と対峙した遼真が

金色に輝く大刀をスラリと抜いて右手で持つと肩へ掛けた。

左手で印を結びながら魔物へ向かっていく。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」

と唱えながら魔物の身体を切り分けていく。

どうやら身体と魂の繋がっている部分を切り離しているようだ。

一太刀毎に魔物の悲鳴が聞こえてくる。

徐々に魔物の身体と魂がぶれて離れるように揺れていく。

最後の『ン』で心臓部分を一突きして、完全に魂が離れた。

 

悪霊が人間に憑依した場合、

その肉体の持つ霊魂と複数個所が結合して

一つの魂として存在することになる。

そうなれば「魄」へも影響が出て

魔物と同じ姿形や能力を発現できることになる。

遼真の持つ「金狐丸」や真美の持つ「銀狐丸」という霊刀は

肉体を傷付けることなくその魂の結合箇所を切り離す能力を持っている。

魂の結合箇所は、眉間部分と心臓部分が非常に深い部分であり、

それ以外の部分の場所は決まっておらず浅めである。

退治方法としては、

その浅い部分から切り離すことにより痛みで動かなくさせて

最後にその深い部分へ攻撃をするのが常道であった。

 

一振りごとに悪霊の魂から多くの小さな魂が離れていく。

そのたびに悪霊の姿が小さくなっていく。

そして離れた魂は元も持ち主へと戻っていく。

悪霊の魂だけがその場に縫い付けられたように動けない。

今まで喰らった魂を全て返した悪霊の身体を大刀で突き刺す。

「ギャー ヤメテ クレ カエリ タクナイ」

「クソ オノレ オマエ ノ カオ ヲ ワスレナイ

 カナラズ ヤ フク シュウ スル オ ボ エ テ オ レ」

送霊陣発動の呪文が遼真の口から紡ぎだされていく。

送霊陣が赤く輝くと陣の真ん中がポカリと穴が開いた。

そこには底も見えない深い穴が穿たれている。

黒く血液のような生臭い匂いが吹いてくる。

 

そこへ刀に突き刺された魂を持っていく。

その深い穴の境界から奥へ大刀を差し入れる。

大刀に貫かれていた魔物の魂は吸い込まれるように消えた。

遼真は送霊陣を閉じる呪文を唱えた。

送霊陣を象る薄く輝く模様は一度眩しく輝くとすっとその光が消えた。

 

「遼真、何をしたかわからないけど、もうあの魔物はいなくなったの?」

「はい、おかげ様で元のいた世界へ戻すことができました」

「また、出てきたら心配なんだけど」

「今回は、非常に稀なケースでした。

 本来は我々以外に呼ぶことはできない筈でした。

 ただあいつがいる世界の波動もわかったし、

 今後は常にこちらで見張ることができるので心配しないで下さい」

「それなら安心だ。今回は初めてのケースで驚いた。

 二人ともまだ高校生や大学生なのにすごいねえ」

「翔様、過分なお言葉ありがとうございます。

 私も翔様のお力で微力ながらも遼真様をお助けできました」

 

魂が戻った被害者達によると

その時の記憶が全く無く、幸せな夢をずっと見ていたらしい。

恐怖を感じたのは魔物を解き放った人間のみだったようだ。

ただ被害者達は栄養失調の状態なのでしばらくは絶対安静の入院であった。

反社会分子の真日本革命軍の人間は、

桐生一族狐派が催眠術により個人情報を全て把握し

彼らの情報をデータ化し警察や公安と共有し、ここ直近の記憶を消した。

ただ社会へは『スパイダーマン』の都市伝説だけが残った。

(つづく)