はっちゃんZのブログ小説

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31.壊れた携帯

静香は夜になって何度も電話をしたが

『お客様の携帯電話が圏外にいるか電源が入っていないので繋がりません』

のアナウンスが聞こえてくる。

メールを送っても返信はなかった。

もしかして彼の身に大変な事が起こったのかも?

なぜか異音を発し二つに割れた湯呑が気にかかる・・・

もしかしたら単に携帯が壊れて修理に時間がかかっているのかも?

そうだったら別にいいんだけれど・・・

 

銀行に電話を掛けても身内でもない人間に教えてくれるはずもない。

彼から何の連絡もないのに京都に行けるはずもなくじっと待つ日々が続いた。

昔は携帯電話のような便利なものは無かったため

ある意味、待つ時間を楽しんだり、それゆえの苦しみもあったが

現在のようにすぐに繋がるような時代になると、

繋がらなくなった時の不安は昔より大きくなることに気づいた。

 

何度もメールをしている美波は不安そうな顔になっている。

『きっと何か理由があるはずだから待ってましょう』と言い続けるしかなかった。

一人になると色々な不安が心へもたげてくる。

本当に待ってていいのかしら・・・

最後だから私を喜ばせたくてあんな嘘を言ったのかも・・・

やはり私では駄目なのかも・・・

いや、彼の言葉を信じるべき・・・

夫に約束した?

夫?

夫と死別している女は重荷では・・・

私達親子が彼には負担だったのかも・・・

彼は優しいから私達親子を傷つけないようにしてくれていたのかも・・・

 

彼の優しい抱擁を思い出すだけで胸が熱くなる。

彼の唇を思い出すだけで頬が熱くなる。

彼の香りとまなざしを思い出すだけで心が落ち着いた。

やはり彼の言うとおりずっと待ってよ・・・

でも、もし彼に好きな人ができたら私はどうしたらいいのかしら・・・

そしてその時、美波にはどう言えばいいのかしら・・・

その後、私の心はもう一度昔に戻ることができるのかしら・・・

彼によって一度開け放たれた心の扉は、もう閉めることが出来なくなっている。

(つづく)