はっちゃんZのブログ小説

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25.それぞれの思い

家に帰り1人になると静香の心は千々に乱れた。

彼の前では気が動転してボーとしてしまった。

彼は転勤族と覚悟はしていたものの実際に経験すると余りにも唐突過ぎた。

あと半年、あと1年あればと思う心もあるが

きっといつであっても唐突に感じるものなのだろうとも思った。

美波に話す前にまず自分が何とか納得しなければならなかった。

この1年半、特にこの1年は本当に楽しかった。

特に今年の花火大会での彼の肩の温もりを思い出す。

自分の心が夫に会う前に戻ったかのようだった。

今まで二人でがんばって生きてきた親子への神様からの贈り物と思うしかなかった。

 

静香は美波のショックが心配だった。

常日頃、『転勤族だからずっといるとは考えないで』と伝えてはいたが、

まさかこんなに早いとは思ってもいないのではないかと・・・

学校から帰ってきた美波に彼の転勤のことを伝えた。

最初、ポカンとしていたがすぐに2階へ上がっていくとしばらく下りてこなかった。

もしかしたら母親を困らせたくないと思ったのかもしれない。

 

 しばらくして美波が下りてくると

「おじさん仕事をすごく出来る人だから、きっとみんなが必要とするんだねえ。

 喜んで見送るしかないね。それに京都だったら電車1本だから近いし」

「そ、そうね。きっとみんなに必要とされてるのよね」

「今度の土曜日はおじさんを送る会をするんでしょ?」

「そうね。そうしましょう。目一杯美味しいものを食べて貰って、

元気をつけて送り出しましょうか」

「お母さん約束ね。絶対に泣いちゃ駄目だからね。美波も我慢するから」

 

静香は美波の成長に目を見張った。

こんな大人の会話が出来るとは考えていなかったからだった。

彼は今頃毎日遅くまで仕事をし、家に帰れば引越準備をしているはず。

静香は毎夜さざなみに来る彼のために、彼専用のご飯を作って送り出すことに決めた。

あと1週間しかないが精一杯美味しいものを作ろうと考えている。

 

慎一は空いた時間を使って『高島屋』へ入った。

静香には、誕生石を使った『真珠とペリドット帯留め』と

「芥子色とシルバーの伊賀組紐正絹帯締め サードオニキスの飾り付き」を、

美波には昨年発売され欲しがっていた『流線型のGショック、Gクール』を、

それぞれ包んで貰った。

京都とは言っても大して遠いものでのないし、いつでも帰ってくる意識はある。

携帯がメール機能を開始したことを知り、慎一は携帯ショップへ寄りその手続きをした。

(つづく)