はっちゃんZのブログ小説

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21.幼い兄妹(きょうだい)の依頼 1

ある夜、10日ぶりに百合の横で眠る翔は夢を見た。

幼い少年と少女が手を取り合って話しかけてくる。

「ぼくたちのお母さんが苦しい思いをしているから助けて欲しいんだ。

 お母さんは『大望楼』という料理屋さんで働いているんだ」

「お母さんが泣いているから助けて、お願い。お礼にこれあげる」

少女がおもちゃの指輪を翔の手のひらに落とした。

「こんな大切な物、君が持ってなさい。大切にしなさい」

「ううん、もう持ってても仕方ないから。おじさんにあげる、

 お母さんの名前は孫理恵子、日本人だよ、お願いね」

二人は霧の向こうへ消えるように姿が見えなくなった。

 

朝に目を覚ますと、手の平にはおもちゃの指輪が握られていた。

百合に話すと『ぜひ助けてあげて。私もがんばるから』と張り切っている。

 

ネット情報では

【大望楼】

新宿区で一番古い中華料理店。

戦後すぐに来日し頭角を現す。

社長は趙太望。秘書が4人もいる。

東京中華の代表。本国にも太いパイプがある。

これだけの情報しかなかったので、まずは調査からだった。

社長の名前の「チョウ」が気になり慎重に行動した。

 

中華料理を一人で食べるのも目立つので百合と一緒に食べることとした。

夜に電話予約し、

百合はショートヘアのビジネスウーマン風、

翔は黒メガネのサラリーマン風に頬に大きな黒子を付けて来店した。

最初は新宿では普通に歩いているクラブ嬢と同伴の客を装うことと考えたが、

当然のことながら百合は全く経験がないので無理があった。

それで社内恋愛の二人風を装って来店した。

 

初めてを装って内装を見まわしながら『監視メガネ』からRyokoへデータを送った。

やはり監視カメラらしきものがあるとの回答がメールで送られてきた。

スマホの画像に場所に○印が付けられている。

テーブル席全体のカメラは3台で、入口正面絵画部分、左右の照明2か所だった。

何とか兄妹のお母さんを見つけないといけなかったのでネームプレートに注意した。

料理を運ぶ担当の一人が『孫』という名札のついていることを確認した。

彼女が来た時に「理恵子さんですか?」と百合が聞いた。

「はい、そうですが」

彼女は驚いた表情になっている。

「実はこの店のファンの人に紹介頂いた時、

『孫理恵子さん』という人に大変お世話になったとお聞きしたので」

理恵子さんはなおも驚いた表情だったが、

監視カメラからは見えないように、タブレットを見せた、

「この人ですよ。ご存じじゃないですか?」

 

画面には

『接客の態度で接してください。

 実はお子さんから助けてくれと頼まれました』

あの指輪の写真を一緒に載せている。

 

彼女は驚いたようにじっと画面を見ている。

『必ず助けますから待っていて下さい』と画面の文字で伝えた。

「はい、あの方ならよく来られる方ですよ。よろしくお伝えください」

彼女は少し悲し気な顔で席から離れて行った。

それからは食事を楽しむふりをして、

鞄に待機させたクモママをテーブルの裏に引っ付かせた。

『クモママ』は、クモ大助のように体色を背景に同化させる能力と

聞き耳タマゴとおしゃべりタマゴを持っているクモ助を腹部に張り付けている。

二人は食事を終えると向かいの24時間喫茶へ入り二人で時間を過ごした。

もし不審に思われて後を付けられた時にわかりやすいからである。

しばらく時間をつぶして二人で事務所へ戻って行った。

もうそろそろ閉店の時間であった。

その後、店からは1本挟んだ道の路上で車を待機させ、

ステルス型ドローンを発進させ百合に中華料理店を詳細に撮影させた。

翔は運転席でクモママの赤外線の視界を確認すると真っ暗な店内になっている。

非常灯の緑と消火設備の赤いランプのみが暗闇に映っている。

早速、テーブルの裏から移動を開始した。

ドローンの映像では、理恵子さんは姿形から3階の一番窓側の部屋のようだった。

4階にはボスらしき広い部屋がありその両脇には秘書らしき部屋、

3階には4階への階段の脇にも秘書らしき部屋がある。

この秘書たちの中には、

前回の事件において地下道で逃げおおせた男も含まれている可能性もあり、

もしそうなら4人は相当な腕前のようだった。

しかしドローンからの透視情報では、3階の秘書の部屋の1つに人はいなかった。

クモママを1階から3階の階段を高速に移動させていく。

3階に着いた時、体色を廊下色に同化させ慎重に理恵子さんの部屋まで移動させ、

ドアの隙間から侵入した。

どうやらシャワーを浴びているようだ。

部屋の窓を少し開けて空気を入れ替えている。

クモママを寝室の家具の裏まで移動させた。

クモ助を出動させてガウンの襟元に聞き耳タマゴを入れた。

(つづく)