はっちゃんZのブログ小説

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小説1:さざなみにゆられて-山陰編-

25.それぞれの思い

家に帰り1人になると静香の心は千々に乱れた。 彼の前では気が動転してボーとしてしまった。 彼は転勤族と覚悟はしていたものの実際に経験すると余りにも唐突過ぎた。 あと半年、あと1年あればと思う心もあるが きっといつであっても唐突に感じるものなのだ…

24.突然の辞令

お盆休みの前に京都支店の同期から 『突然家業を継ぐことになった』との連絡があった。 親父さんがこのお盆前に突然脳卒中で亡くなり、銀行を辞めるしかなかったそうだ。 会社の都合で非常に変則だが、8月末をもって銀行を辞職することとなった。 そいつは…

23.浴衣2

「少し下で待っていてください。私も着替えますから」 しばらくして二階から着替えた静香さんが下りてきた。 長い髪はそのまま下ろされ、 「白地の網代模様の浴衣」に「辛子色の麻の葉模様の帯」が締められていた。 「いい柄だったので私も気に入ってお揃い…

22.浴衣1

今年度は昨年度の地道な努力が実り、順調に新規開拓ができている。 数字も前年同月比で130%以上の進捗で課員も張り切って仕事している。 赴任して来た当初の課員の雰囲気は『達成できなくて当然との意識』が 透けて見えるほどで、やる気にさせるのが大変…

21.彼との距離

慎一が帰ったあと静香はゆっくりと湯船へつかり彼の笑顔を思い浮かべた。 彼の家庭がうまくいきそうで嬉しかった。 もちろん幼い頃からの辛い記憶を変えることは大変なこととわかっている。 しかし彼本来の性格は、そんな辛い記憶で変わるものではないはずと…

20.母の再婚

28日朝に出発し昼過ぎには着いていた。 家で甥っ子と遊んだ。やがて甥っ子も疲れて昼寝を始めた。 そこから母親と妹の3人で話し合いが始まった。 父は明日に来るらしい。 一番反対すると思っていた慎一が再婚を認める発言をすると 母と妹は意外な顔をして驚…

19.二人で出雲へ

5月連休前に妹から電話が入った。 いつに帰ってくるのか教えて欲しいらしい。 理由を聞くと父親が家に顔を出すからだと言う。 それを聞くと一瞬帰りたくなくなったが、母親のことを考えて帰ることとした。 26日は静香さんと松江・出雲の方を案内してもらう予…

18.桜街道

米子市が桜色に染まるある土曜の朝、 湊山公園で桜を穏やかな気持ちで眺めている。 中海の水面は桜の花びらに染められており、 水鳥公園の鳥達も花見をしているのか、ときおり水鳥の声らしきものが響き渡る。 旧賀茂川沿いの白壁土蔵を背景とした桜並木も見…

17.移り変わる記憶

もう季節は春へ一歩一歩近づいている。 米子の冬は雪が多い。駐車場の雪かきが必要なこともあった。 『さざなみ』からの帰路には、 街頭に照らされたオレンジ色の雪が舞う様をいつも見上げていた。 その様が見えなくなって久しいと感じ始めた今日この頃。 米…

16.初詣

マンションに戻るとポストに美波ちゃんから年賀状が来ていた。 『新年あけましておめでとうございます。 美波は今年こそテニスで県大会上位を目指します。 今年も昨年同様に『さざなみ』をよろしくお願い申し上げます。』 PS.旧年中は大変お世話になりあり…

15.帰省、遠い記憶

さざなみで蟹三昧を満喫した翌日は、 早々に掃除をして神戸の実家への帰路についた。 ルートとしては何通りかあるが、慎一は以下ルートを選んだ。 米子市から米子道を通り、中国自動車道に突き当たる落合JCTを左折し、 岡山県を通過し兵庫県に入り、福崎ICで…

14.師走、三人で

年末まで過ぎ去る時間は早かった。 ふと気が付けばあれほど街を秋色に染めていた街路樹はその葉を全て落とした。 11月初めの連休こそ、ゆったりと過ごしたが、それ以降は仕事一色だった。 たまに土日のどちらかに遊びに来る美波ちゃんとの会話だけが疲れを癒…

13.とまどい

『私、弱くなったのかもしれない』 ふと脳裏にその言葉が浮かんできた。 静香はステーキハウス精山から帰宅後、お風呂へ入り、 パジャマを着てゆっくりとお茶を飲んでいる。 左手のバンドエイドを張り替えながらじっと今日のことを考えていた。 砂丘で自然と…

12.帰途の二人

せっかくここまで来たのだからと鳥取砂丘でお弁当を食べることとした。 砂丘にはラクダが歩いており、まるでアラビア映画のような光景が広がっていた。 ただ異なるのは、砂丘の向こうは砂の海ではなく蒼い日本海がだったことだった。 砂丘入口から海岸まで行…

11.美波、秋の県大会新人選へ出場

9月、10月は上半期末と下半期始めのため慌しい日々が続いている。 土日も家に書類を持って帰る日々が続き、なかなかゆっくりとできる日がない。 そんな中でも『忙中、閑あり』、その金曜日にやっとゆっくりとできる日ができた。 それでも夜8時まではデスクワ…

10.がいな大花火大会

境港市から後藤家に戻るコースを、弓ヶ浜経由に変えて、弓ヶ浜公園に降りた。 弓ヶ浜公園は今後、夢みなと博覧会から大型遊具を譲り受け、 『弓ヶ浜わくわくランド』を開園予定だと聞いたので米子市民は楽しみにしている。 後藤家へ到着し慎一は食材の発泡ス…

9.がいな祭りと境港

夏の山陰地方は涼しいと、関西や四国地方を勤務してきた慎一は感じている。 肌にあたる日差しの強さとか最高気温を比較してわかったことだった。 米子城跡にある湊山公園を散歩している時など木陰に入ると吹き渡る風は涼しかった。 8月始めの土日二日間、こ…

8.美波の秘密

ある夜、美波は土曜日のプールへの準備をしていた。 母には友達と皆生温泉プールで泳いでくると言っている。 「あなたがプールにねえ。どういう風の吹き回しかしら。水はもう大丈夫なの?」 と不思議そうに美波を見ている。 本当は、皆生プールへ日下さんと…