「少し下で待っていてください。私も着替えますから」
しばらくして二階から着替えた静香さんが下りてきた。
長い髪はそのまま下ろされ、
「白地の網代模様の浴衣」に「辛子色の麻の葉模様の帯」が締められていた。
「いい柄だったので私も気に入ってお揃いにしました。いかがですか?」
「いやあ、綺麗なあ。あっ、変なこと言ったごめん」
「ううん、ありがとうございます。
あなたと一緒の時は、
普段の私のままでって考えて、髪を下ろそうと思って」
慎一は、髪フェチと言うわけではないが、彼女の髪は本当に綺麗で魅せられていた。
細くストレートでほんの少し茶色が混じった自然な黒色で光の下では煌めいている。
二人揃って花火大会会場へ歩いていく。
『夏の米子の最大の風物詩』の始まりだった。
昨年と同じ場所は座るところがなかったので特等席から離れた湖岸に座った。
灯りも少なく木の陰になっており周りには人はいなかったが、
時間が経つにつれてたくさんの人が集まってくると思われた。
やがて花火大会が始まった。
夜空に大輪の花が咲いては消えていく。
夜空に届くくらいの火柱の大きな音が空気を震わせる。
静香さんが驚いて慎一を見ては夜空を見上げている。
いろどりの時間が刻々と過ぎていく。
少し冷たい風が吹いてきていることに気がついた。
「静香さん、少し寒くない?」
「ううん。でも確かに少し寒いかも・・・」
「もたれていいですよ」
「はい、お言葉に甘えて、重くないですか」
「全然、いやあ、少し暖かくなったね」
「そうですね。ありがとうございます。
去年も今年も本当に綺麗な花火で、
私には一生忘れられない花火になりそう」
「僕にとってもそうや。
来年もこんな風に二人で見たいなあ」
「ふふふ、それは私も同じ、
そうなることを神様にお願いしておきます」
「変なこと言うなあ。まあ来年も楽しみや」
静香は後ろ手を突いている慎一の胸に頭を持たせかけたまま夜空を見つめている。
慎一は立ち上る静香のほのかな香りに花火どころではない気持ちだった。
(つづく)