はっちゃんZのブログ小説

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70.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ5

Ryokoからの連絡がスマホへ入ってきた。

小部屋付近は静かになったようだ。

仕事終わりにはゴミ箱内の清掃があると考えて、

アスカがタイミングを見計らって

クモママとクモ大助をテーブルの裏へすでに移動させている。

翔は慎重にクモママとクモ大助を各自の持ち場へと移動させていった。

 

事務所やスタッフルームは店に入った時に確認している。

クモママはスタッフルーム(女の子部屋)の家具の裏へ待機させ、

クモ大助は事務所にある額縁の裏へ移動させた。

これから連日情報収集に入った。

 

スタッフルーム(女の子部屋)情報をまとめると

①この店に雇われている女の子は概ね二つのグループに分けられている。

②仕事の種類は2種類の仕事であり、「V担当」と『A担当(別名F担当)』と呼ばれている。

③業務で手取りがいいのは『A担当(別名F担当)』である。

④V担当者業務の詳細

・時間がくると専用小部屋へ行き、大きなカメラの前で待機する。

 ・ご奉仕コース:目の前に置かれている箱の中に映る男性の局部(画像)を手で

         触る。客へは顔だけがアップされている。

・お口コース :目の前に置かれている男性の局部の模型を舐めたり含んだりする。

        模型根元に設置されたレンズからのカメラ目線が客へ写される。

・爆射コース :ベッドが設置されており、腰から上が客へ映る。

        大人のおもちゃ(女性用、コード付、ただし小型)を使う。

        男性の挿入要望に合わせて、自ら挿入し感じる演技をする。

        性体験未経験者の場合、横になった腹部へ男性用大人のおもちゃを

        置き、局部のおもちゃを出し入れする。(レンズには映らない)

        挿入時の演技力などが必要で定期的に指導教育がある。

⑤機械の構造は不明で『壊したら殺す』と言われており怖がっている。

⑥バイト代は毎日受け取り、またはまとめて受け取りかを選ぶことができる。

⑦女の子の会話で由紀菜から『同級生のチカちゃん』(佐渡千佳?)の名前が出て

 おり、由紀菜と同じ学校でこのアルバイトを紹介されている。

⑧『同級生のチカちゃん』はA班でアルバイトをしている。

 A班の部屋はこのビルとは異なる場所にあって教えてもらっていない。

 

事務所からの情報は

①店としての1日の稼ぎは目標が500万円である。

②上納金は毎月5000万円、倉持組残党のニュー倉持組(神田)へ届けている。

③店としてAV女優や風俗嬢への斡旋もしている。

④VR機器の技師は『ソメヤ』という都内の大学生。覚醒剤で薬籠中にしている。

 初心なふりした女子高生をたまにあてがうだけで満足している。

⑤姉妹店として「セクサドール専門店」も経営している。

⑥A班は、詐欺グループが絡んでいるようだが、詳細は店の上層部しか知らない。

 まだ色々と情報は取れたが、どうも最後の詐欺グループ情報が気になった。

 

今回は、都内マンションに住む大学生『ソメヤ』の部屋へ

今日がアルバイト最終日となった由紀菜が派遣される。

彼女の外出着の襟に聞き耳タマゴを挿入し、場所の割り出しと情報聴取を開始した。

由紀菜のアルバイトの目的が、

苦労掛けてきた母親の誕生日のプレゼントの購入であることがわかっている。

普段仕事が忙しく、あまり話ができない母親へ

サプライズで喜ばせたいと考えているのだった。

 

『ソメヤ』と言う男が、生身には全く興味が無いことがわかっているため

由紀菜の身に危害が及ぶことは考えられなかった。

彼女が部屋から出てくるであろう時間にクライアントに連絡し待った。

少し疲れたようにマンションから出てきた彼女は

お母さんを見つけて最初は驚いていたが、

「ママ、どうして、ここに?」

「おかえり、由紀菜、心配したのよ」

母親の笑顔を見て安心したのか、屈託のない笑顔で母親へ近寄ってきた。

「由紀菜、良かった、あなたが無事で」

「ママ、ごめんなさい。アルバイトは今日が最後だったの」

「ならいいわ、さあ帰りましょう」

そして母娘二人で並んで仲良く家へ帰って行った。

翔は後日、由紀菜へ、

もうあのようなアルバイトは辞めるように

風俗店の機器そのものは違法でないが、

由紀菜や家族の身に危害が及ぶ可能性があることを考えて

他言は無用と伝えて近寄らないことを誓わせた。

(つづく)

69.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ4

 

監視メガネからの映像をRyokoへ送っているので

後で解析していくつもりだった。

でも、もしこの時間まで事務所に百合がいたら・・・

と思うと気が気でなかった。

いくら仕事だからと言っても、

この店の客ではお嬢様の百合には理解し難くあまりいい気はしないと感じたからだ。

事務所に戻ると百合はすでに最上階の部屋に帰っているようだった。

店の営業時間は26時までなのでまだ時間があった。

今の時間は客がいるため部屋で

クモママやクモ大助を移動させるのは無理だった。

一度部屋へ戻って待機することとし、Ryokoへデータ解析を指示した。

 

部屋ではちょうど百合がご飯を作っていた。

「ただいま」

「あらっ?翔さん、早かったわね」

「お腹空いた」

「はいはい、どうぞ、今出来たわよ」

「おっ、この分厚いトンテキ!おいしそう」

「ええ、今日は偶然TOKYO X(東京エックス)が手に入ったの」

「へえ、テレビしか聞いたことない。百合、早く一緒に食べようよ」

「はい、それはそうと翔さん、今日はどうだったの?」

「うん?まあそれはご飯の後で」

「そうね、変な店だから何かあったらと心配だったの」

「えっ?知ってたの?」

「知ってたわよ、翔さんも大変ねと思って」

「怒らないの?」

「いいえ、なぜ?お仕事なのに・・・」

「うん、そう、変な店で困ったよ。でも準備はできたよ」

「なら良かったわ。そんな店、もう行かなくて済むならそれが一番」

「そうだね、良かった。じゃあ、いただきます」

「じゃあ、いただきます」

 

TOKYO Xは、ちまたの話題となっている東京都で開発生産されている豚肉で、3つの品種(北京黒豚、イギリス系黒豚、デュロック種) を交配させて改良した新しい品種の豚で、上質の赤身と脂肪がほどよく混ざった肉質が特徴とチラシには記載されている。

 

食後はコーヒーを飲みながら、

テレビをつけて二人でゆったりと過ごした。

夕方に精神力で局部を元気にさせたと言えども、

変に刺激されて少し身体が活性化している。

大好きな百合を目の前にすると、

ついつい安心してしまい抑え難くなって抱きしめていた。

「ねえ翔、私のこと考えて、お店では我慢してたのね。

 大丈夫よ、私はそんな事でヤキモチは焼かないわ」

「そうなの?」

「ええ、一応は男性の生理について知っているつもり。ふふふ」

「でも俺は百合じゃないと嫌だもん。百合、大好き」

「翔、私もよ。ここは明るいからお部屋で・・・」

「いいの?」

「ふふ、いいわよ、翔ったら、甘えん坊さんになる時はいつもそう」

「へへへ、だって百合は可愛いし素敵だし、いい匂いなんだもん」

「ああ、翔・・・もう・・・あん・・・好き・・・」

そんなこんなで百合と愛し合い、夜中まで軽く眠った。

(つづく)

28.支笏湖と三大秘湖のオコタンペ湖2

すれ違う車もないまま、看板に従ってなだらかな下り坂を走らせる。

やがて「丸駒温泉」が見えた。

支笏湖に面する割合に大きな旅館で車も結構止まっている。

キャンプ場駐車へ車を停めて、子供達をベビーカーに乗せて、

家族用テントを出して、お弁当を肩にかけて湖岸へ向かった。

 

目の前に静かな湖面が広がり、対岸に「樽前山・風不死山」が鎮座している。

湖面を渡る風が止むと「樽前山・風不死山」の姿が逆さに映っている。

自分達以外は誰もいないので一切物音もせず、静かな風景がそこにはあった。

子供達は、たまに吹く風が気持ち良いのか空を見てにこやかにしている。

急いで家庭用テントを組み立てて、ベビーカーを交代した。

妻がお弁当を広げて昼食の用意が終わったらテントの中へ子供達を入れた。

 

子供達へ食べさせるのは夫婦交代で、慌しく慎一が先に食べると妻と交代した。

子供達は離乳食で色々な味を覚えてたくさん食べ始めている。

大人のものも食べようとするが何とかなだめて離乳食を全部食べさせた。

子供達もお腹が一杯になり、遊び始めたので芝生のところへ連れて行った。

雄樹は父の背中を使って、つかまり立ちを始めている。

夏姫は父の膝が気持ちいいのか、ずっと座って母や兄を見ている。

妻が作ってきたコーヒーを入れた。

夫婦は子供達と鳥の声だけがこだまする静かな湖岸で馥郁たるコーヒーを楽しんだ。

いつの間にか母の膝に座っている雄樹が夏姫と何かを話している。

 

やや太陽が傾いてきて少し空気が冷たくなってきたので急いでテントなどを片付けた。

帰り道に偶然、『オコタンペ湖』の標識を見つけた。

なんと来た時は、標識が高い雪壁の上にあったので気がつかなかったのだ。

そこで車から降りて、

道路際にある展望台の雪壁の切れ間から覗いてみると、

ブログで見た湖面の色は全く見えず、

まだ雪に閉ざされたままの真っ白な湖面だった。

 

オコタンぺ湖は、火山噴出物によって堰き止められた湖で、

晴れるとコバルトブルー色になり、

その湖面に秋の紅葉が映ると、とてもきれいとの情報があった。

ただ湖付近は立ち入り禁止となっているため、

道路脇の展望台から眺めるようになっている。

次回に期待ということで札幌市への道を戻った。

(つづく)

68.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ3

大きな画面に化粧された『ユキ』の顔が真正面から映っている。

ユキの背景には、ぬいぐるみとか並んでおり自宅の部屋のような光景が映っている。

「ユキです。ご指名頂き今日はありがとうございます。

 今日、ユキは学校で少し悪い事をしました。

 あなたへご奉仕することで許して頂こうと思ってます。

 いいですか?お名前教えてください」

「・・・」

「お返事してくれないとあなたへご奉仕できません」

「は、はい、この店が初めてなもので・・・ごめんなさい。ケンイチといいます」

「ははは、かわいい。ケンイチさん、私の初恋の人と同じ名前だ。

 きっと素敵な男性なのだろうなあ。

 あなたの言うとおりにしますから何でも言ってね」

「は、はい、ユキちゃんは本当に女子高校生?」

「みんな、聞いてくるから見せるけど内緒よ、はい、これが在学証明書だよ」

画面には2017年4月1日発行のカードで、

高校名が黒く塗られて幼い顔つきの女子高生が写っている。

そういう話をしながら部屋の監視用カメラの位置を確認し、

見えないようにバッグからクモ助を仕込んだクモママとクモ大助を出動させ

小部屋の隅のゴミ箱の陰に待機させた。

 

ここまで来たら帰ってもいいのだが、

怪しまれてもいけないので最後まで付き合うこととした。

「ケンイチさん、私のこと、嫌い?

 何も話さなくなるから不安になっちゃう」

「ごめんなさい。あまりに可愛いから驚いて固まってた」

「ははは、ありがとう、そんなこと言われたの初めて。

 ねえ、ケンイチさん、ケンちゃんって言っていい?

 早く御奉仕したいから準備して貰っていい?」

「は、はい、わかりました」

「ははは、そんなにていねいに話されたら、

 ユキが恥ずかしくなっちゃう。

 ユキ、早くしようよとか、言ってよ」

「はい、では・・・ユキ、早くしようよ」

「はーい、ああ、男の人ってこんなになってるのね。こわーい」

「怖くないよ」

「そうそう、そんな風に話してもらうのが好き。

 わたし男の子のこと知らないの。これでいいのかなあ?」

 

その瞬間、コードの付いている箱に入れている局部に触られる感触が広がった。

箱の中には何もないはずだが、そっと局部を握っている感触が伝わってくる。

これは驚くべき技術だった。

「じゃあ、そっと動かすね。痛かったら言ってね。

 すごく硬くなってる。これでいい?気持ちいい?」

 局部を握られて上下に動かされている感触が伝わってくる。

「うん、気持ちいい」

「そう言ってくれるとうれしい。終わる時は言ってね」

「うん、・・・もう出る・・・」

「あら?ふふふ、かわいい。好き。

 もう少し時間あるからもう一度しちゃう?」

「ううん、もういいよ」

「そう、残念、もっとしていたかったのに。じゃあ、時間まで話さない?」

「ううん、もういいや。ありがとう」

「そう、じゃあ、また私を指名してね。ケンちゃん」

翔は、急いで支払いをして事務所に戻った。

(つづく)

27.支笏湖と三大秘湖のオコタンペ湖1

札幌の街なかの根雪もなくなりしばらくした4月の終わり、

風はまだ冷たいが暖かい日差しが窓から差し込んできている。

早いもので札幌へ来て、もう一年が経ったことに慎一は気がついた。

子供達も少しの風邪くらいのもので大きな病気もせずにすくすくと育っている。

久々に5月の連休を使って、ドライブをしようと考えた。

札幌の近くで子供達を遊ばせて、大人たちも満足する場所を探した。

ネットで調べていると何気にブログの「三大秘湖」という言葉を見つけた。

 

北海道三大秘湖・・・その神秘な響きに惹かれた。

「オコタンぺ湖」支笏湖近く

「東雲湖」然別湖近く

オンネトー湖」阿寒湖近く 

の三つの湖らしい。

写真では湖面がコバルトブルーやエメラルドグリーンに染まった湖が写っている。

 

今回は、まず千歳市支笏湖へ行き、帰り道に「オコタンぺ湖」へ行く事とした。

車に小さな家庭用テントとお弁当(離乳食も)とミルクやコーヒーなどを積んで出発した。

道央自動車道大谷地ICから千歳ICまで移動し、支笏湖通(16号)に入る。

高速道路から見る北海道の大地は、大きい平野部にポツンと山がそそり立っている。

北海道内を自家用車でドライブするのは今回が初めてだが、

仕事で移動している途中、本州とは異なるその風景を見て

不思議な感覚にとらわれたものだった。

札幌市からほんの1時間程度で支笏湖には到着する。

支笏湖温泉の看板の方へ向かうと真っ青な湖面を背景に小さな街並みが見えてくる。

まだ風も冷たいが白鳥型のペダルボートの多くが湖岸を遊泳している。

4人は青い湖面の左右にたたずむ、

樽前山・風不死山(左側)と恵庭岳(右側)を交互に見た。

どの山も特徴のある形をしており、やはり本州とは異なる大きさと形であった。

色々なお店が出ているが、名産品は支笏湖で養殖しているヒメマスの料理だった。

 

この湖は日本2番目に大きいカルデラ湖で「日本最北の不凍湖」と呼ばれている。

水中遊覧船出航のアナウンスがあり、湖上への遊覧が開始された。

この船は水面下2mの水中窓から透明度の高いコバルトブルーの世界が広がっている。

おだやかな砂地の波紋の上を泳ぐ多くの淡水魚の群れや

「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」と呼ばれる

湖底から切り立った岩が崖のようになっている風景が広がっている。

アナウンスではカルデラ湖が出来上がる時、

マグマが急激に冷やされ収縮した際にできた地形で、

支笏湖における自然の造形美の一つらしい。

 

ミルクで子供達の喉の渇きを抑えての休憩後、

支笏湖東北岸に沿って北上し、恵庭岳を周回し突き当りを左折し支笏湖へ向かい、

キャンプ場のある「丸駒温泉」を目指した。

そこなら子供達を芝生に座らせて遊ばせながら、

安心して夫婦でコーヒーを飲めるからだった。

そこへ向かう道路の両側は、3から5メートルくらいの雪壁がずっと並んでいる。

札幌市内では4月になると雪壁は全くなくなっているが、

山中ではまだこのような状態であることを始めて知り、

安全を見て冬タイヤのままにしていて良かったと安堵した慎一であった。

地図上で見ると三大秘湖のひとつ『オコタンペ湖』はこの雪壁の向こうだった。

(つづく)

67.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ2

翔は早速、夕方を待って変装し監視メガネをかけて目的の店へ入った。

明るい店内で可愛い女子高校生の制服を着た写真が壁一面に貼られている。

世の中平和なのか、

まだ早い時間だというのに若い男から中高年くらいまでたくさん並んでいる。

待合の椅子の前の画面に料金や好みの女の子の出演する時間が掲載されている。

薄化粧のクライアントの娘の時間を調べると夕方から4回となっている。

その他、別料金さえ払えば会えるシステムだった。

 

この店の売りは

バーチャルリアリティで本物の女子高生を相手にできる』と謳っている。

キスもその他色々なこと(???)もできるらしい。

コース説明としては

①爆射コース:30分 2万円(延長は20分毎に半額分追加)

       本物の感触であなたを天国に!

       はにかむ女子高生をあなたは調教できるか?!

②お口コース:30分 1万円(延長は15分毎に半額分追加)

       本物の舌の感触であなたをノックアウト!

       まだ慣れていない女の子があなたをパクッ!

③ご奉仕コース:20分 8千円(延長は10分毎に半額分追加)

        何も知らない女子高生がおそるおそるあなたにご奉仕!

        あなたの注文通りに動きます!

 

翔は、とりあえず③ご奉仕コースを頼み、専用小部屋へ案内された。

部屋の中は大きな画面とソファとティッシュボックスが置かれ、

多くのコードに繋がれた小さな箱、ピンマイク、ヘッドフォンがあった。

部屋のスピーカーから声が流れてくる。

「いつもご来店頂きありがとうございます。

 本物の女子高生が慣れない指を使いあなたを天国に誘います。

 なお、女の子は恥ずかしがりなのであなたの顔が見えないようにしています。

 街で出会ってもあなたとはわかりませんので安心してください。

 先ずは、ヘッドフォンを付けてピンマイクを襟へお付け下さい。

 これからシステムを説明させていただきます。

 画面の女の子と話をしながら進んでいきます。

 女の子へ話しかけながら要望を伝えてください。

 そして女の子に奉仕して欲しい時には

 あなたのアソコを手元にあるコードのついた箱へ入れてベルトで固定してください。

 刺激が送られてくるので、女の子にどのようにして欲しいか話してください。

 あなたの希望通りに刺激が送られてきます。さあVRの世界へようこそ!」

(つづく)

26.静香始動

静香は子育ての傍らテレビや新聞で株式投資について勉強し始めた。

お遊び程度のちょうどいい金額の口座にあったことと

子育ての隙間時間で出来るもので稼げるものはないかと考えていた。

中小株の分類に入る会社で、株主優待の送られてくる会社を探し始めた。

夫の好きなコーヒーや子供用に使えるものを探して少しずつ勉強していった。

図書館に行って、『株式入門』『経済ニュースの読み方』『チャートの読み方』なども借りた。

 

財務諸表などの見方や単語の意味などは夫に具体的に聞いて確認していった。

ちょうど夫から『子育て中でもできる収入確保の手段を考えていた』

と言われて『夫婦は以心伝心ね』と笑い返した静香だった。

株式投資は、知らないなら知らないで何も困らないが

現在の社会構造から考えても絶対に必要なことだった。

株に対しては変な儲け意識を持たないように、

気に入った企業を応援して、結果として自分も楽しければと考えている。

多くのお客さんに支えられて長い間小料理屋を経営してきた静香には、

欲張り意識は希薄でほどほどの利益でバランスを念頭に応援する会社を検討している。

夫も『物は試し、がんばって』と笑っている。

 

静香は毎日の生活で意識しやすい食料品関連会社を中心に選定し購入した。

これらの会社からは、株主配当金と株主特典が送られてくるので楽しみだった。

基本的に売ることは考えていなかったので経営の安心のできる会社を選んだ。

 

また、これからの世の中の変化を見る上で何が大きく変るかを考えている。

夫と一緒になる前から携帯電話などの連絡手段がすごいスピードで変ってきているし、

パソコンも各家庭にまで普及し始めていることから考えて、

今後のインターネット関連銘柄がよさそうだった。

しかし、まだまだ新聞やテレビなどの媒体が社会の主なニュースソースで

本当にこのビジネスモデルが儲かるモデルなのか少し信頼が置けなかったが、

とりあえずマスコミで持て囃されているネット会社を二単元だけ買った。

しばらくすると偶然仕手化して買値の倍々ゲームとなり、

怖いくらいの勢いで上がっていく。

とりあえずラッキーにも倍になった時点で1単元は利確できた。

そしてあと一つをいつに利確しようかと考えているうちに元に戻ってしまった。

 

静香は冷静に株価を見ていたが、狂奔した人々の行動は怖いくらいだった。

素人が高値で掴めば、たちまち損失が発生し、

現物売買でない場合にはすぐさま資金がなくなる可能性も高かった。

これ以降、静香は短期勝負の銘柄は避けて、

中長期で利益を積み上げることのできる銘柄を選ぶようになった。

利益目標は、銀行定期より良ければそれでよしとした。

 

また外国為替も勉強して、非常に利率の高い外国通貨への投資も開始した。

中長期的で20%という信じられない利率の通貨があり、

その国の経済状況などを新聞やネットで調査して、

ある程度安定していたのでそちらも運用に入れて、多面的な運用を開始した。

それ以降は常に海外も含めた関連ニュースに注意するようになった。

年度末の企業も多く、年度決算予想が発表され誌上を賑わせている。

子供達もハイハイするようになり、つかまり立ちもし始めている。

二人は離乳食をたっぷりと食べるようになり、部屋の中や廊下などを動き回る。

静香はその目の回るような毎日に幸せをかみ締めている。

(つづく)

66.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ1

変な女性が出て行ったあと、しばらくすると蒼い顔をした女性が現れた。

事務所を見まわしてソファに座るがなかなか話そうとしない。

じっと待っていると、やがて意を決したように話し始めた。

【依頼内容】

依頼人氏名:愛野 信子様。

依頼人状況:夫が痴漢の濡れ衣を着せられて会社も辞めさせられそうで困っている。

      夫は家族を愛しており、仕事一筋人間なので間違いだと調査して欲しい。

      このままだと裁判で有罪にされてしまう。示談金は500万円。

      用意できない金額ではないが罪を認めたくない。

種類:痴漢の冤罪の証明

経過:帰宅途中の電車の中、目の前の女子高校生が見上げて小さな声を掛けてきた。

   よく聞こうと耳に手を当てて顔を寄せたら、その手を濡れた手でつかんできた。

   驚いて振りほどいたら痴漢にされた。周りの女子高校生の友人も証言している。

   警察の鑑定結果で主人の手に付いていた体液が証拠とされている。

   高校生が主人の手に擦り付けてきたと主張しても信用してもらえない。

 

クライアントが帰って、Ryokoに痴漢の冤罪関連の事件を検索させた。

すると驚いたことに非常に多くの電車での痴漢事件が出てくる。

冤罪被害者と思える投稿もネット上でそこここに見える。

被害者とされた女子高校生の氏名(佐渡千佳 さわたりちか)と学校名はクライアントから聞いているので検索する。

彼女は都内の名門私立女子高校に通っており、顔はLINE上から確認した。

 

学校の評判としては、お嬢様学校で良妻賢母を旨とした教育方針で有名だった。

しかし、ネット上では真贋が混ざった多くの情報で花盛りだった。

その中にJKビジネス関連の噂話も出ている。

新宿にもJKを売りとした店も多く、老若問わず男の需要が多いようだった。

RyokoにJKビジネス店での働く女の子の情報を検索したが、

該当する顔と名前はヒットしなかった。

ラインの写真から場所は割り出せたが、自宅や学校の近辺では

不審な点があれば警察にすぐに通報されやすいため相当に注意が必要だった。

十分な張り込みも出来ないので困っていた。

 

そんな中、事務所へ新しいクライアントが訪れた。

【依頼内容】

依頼人氏名:冴島 留美子様。

依頼人状況:母親(シングルマザー?)

種類:娘の素行調査

経過:ここ2ヶ月ほど娘の行動に不審な面がある。

   最近の傾向として高校2年生の娘(由紀菜)の持ち物が派手になっており、

   帰る時間も遅く、本人に聞いても何も答えない毎日だった。

   事件ではないので警察に相談できない。

   新宿あたりでよく遊んでいるので是非ともお願いしたい。

 

手元の写真を見ると、母親と並んだ明るく笑う女子高生が写っている。

早速、Ryokoに名前と顔を検索させると、ネット上で多くの写真がヒットした。

どうやら新宿のJKビジネスの店『VRホンジョ』でアルバイトしているようだ。

店の紹介では『ホンジョ』は、ほんものの女子高校生の略、

『VR』はバーチャルリアリティ(仮想現実)の略らしい。

クライアントの娘の学校も、偶然とはいえ痴漢の被害者とされた高校生と学校が同じであり、並行して調査することとなった。

(つづく)

25.桃の節句(初節句)

そろそろ夏姫の初節句(桃の日)が近づいてきている。

静香の実家から『雛人形』(七段飾り)が贈られてきた。

雛人形を飾るのに最適と言われる2月20日頃(雨水の日)に飾った。

子供達が珍しがって、せっかくの雛人形が大変なことになっても困るので、

雛祭り前日に七段飾りをしようと考えて、

先ずはお内裏様とお雛様だけを床の間に飾った。

3月3日はちょうど土曜日だったので、美波にも声を掛けている。

当日は、お節句会でお祝いするつもりだった。

 

桃の節句の由来は、平安時代から始まり、季節の節目に入りやすいと考えられていた災いをもたらす邪気を厄払いする行事から始まったとされている。

始まった当初は、3月3日だったわけではなく3月上旬の巳の日に行われた。野山で薬草を摘んで、体の穢れを祓って健康を祈願し厄除けをしたらしい。やがて紙人形で遊ぶ「ひいな遊び」と一緒となり、自分の身代わりで厄災を引き受けさせて人形を川へ流す「流し雛」になった。室町時代に入ると3月3日に行うことが定着し、その頃は紙人形ではなく、宮中では豪華な雛人形を飾って盛大にお祝いするようになりました。これらが宮中から武家、商家、家庭へ浸透して現在にいたるらしい。

 

節句会の日は前夜から美波が人形の飾り付けに張り切っている。

静香は、土曜の買い物リストを必死で考えている。

お祝いのメニューは、定番の

『デンブで可愛く色づけしたちらし寿司』

『はまぐりのお吸い物』

『縁起物の海老や鯛の塩焼き』を用意した。

子供達は離乳食が主なのであまり食べられないが大人達は喜んだ。

慎一はビデオ係で遊んでいる子供達

楽しそうに雛壇を飾り付ける美波

張り切って料理を盛り付ける静香を撮影した。

後日、日下の実家と後藤家へ送るためのものだった。

皆の輝く笑顔で晴れの日が始まった。

夏姫は祝われているのが自分と意識しているのか

皆で歌うひな祭りの歌に片言の相槌をうっている。

大樹は、目の前に広げられている色取り取りの料理に釘付けだった。

(つづく)

65.怪しいクライアント

ここで時間軸は現在に戻る。

『お化けアパートの怪事件』を解決した翌日は、銀行強盗一味逮捕のニュースが

テレビや新聞を飾った。しかしニュースには翔の情報は一切入っていない。

ただ外道組の残党は、警察以外の何者かが

敵として絡んでいることを知ったはずで注意が必要だった。

 

そんな時、翔の店『オールジョブ』へ若い女性が訪れた。

毛皮のコートに派手な化粧で大きなサングラスをかけて

大きな口でタバコをプカプカ吹かしながら、コーヒーを飲んでいる。

事務所の中を無遠慮にジロジロと見回している。

翔も百合もアスカも中年の変装をしているので正体がばれる心配はない。

 

「本日はどのようなことでしょうか」

「うーん、あのさ、ここの人はあんただけなの?」

「はい、とりあえずは私一人ですが」

「うーん、馬鹿だから難しいことわかんないんだけど、

 今、ニュースになってる事件なんだけど知ってる?」

「は?はい、ニュースは見ていますが」

「そんなことでなくて、えーい、もうこの写真見てくれる?」

写真にはあの事件の時に変装した翔が写っている。

 

百合が近くで話を聞きながらアスカに目配せをする。

アスカがパソコンでクモ助を出動させて、

このクライアントの毛皮に潜らせてGPS付き聞き耳タマゴを埋め込んだ。

「この人を探してくれない?」

「この人と言われても、お名前とかわからないと探しようがないのですが」

「よくわかんないんだけど、とにかく探してよ。何でも屋でしょ?」

「いえ、そんな雲を掴むようなご依頼は責任がもてませんので、

 申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

「えー、困るよ、私が叱られちゃう、どこも断られてるんだ」

「いやあ、本当に申し訳ありません。写真だけでは無理です」

「もう、まいったなあ、あんたの知り合いで人探しの上手い人紹介してよ」

「申し訳ありません、他へご依頼ください」

女はイライラした仕草で吸い口に口紅のついたタバコを灰皿でギュッともみ消した。

そして折れ曲がった吸殻をコーヒーカップへ放り込んで事務所を出て行った。

(つづく)

24.流氷観光3

ガリンコステーションに下船し、オホーツクタワーまで電気自動車に乗って移動する。

オホーツクタワーは波止の突端に建設されており、

エレベーターで最下層まで下りていくとヒヤリとした『海洋生物の部屋』になっている。

そこには有名なクリオネの大きな水槽があり多くのクリオネが泳いでいる。

過去の写真などでクリオネの可愛い姿ばかりを見ていた二人は、

その食事風景を見て凍りついた。

 

説明版には

クリオネは、海中に漂うミジンウキマイマイがエサでその貝を見つけると、その頭部から「バッカルコーン」と呼ばれる6本の触手を出して捕らえ、顔のような部分へ取り込んで養分を吸収します。

 

良く見ると普段はオレンジ色の可愛い顔部分が貝を飲みこんで

黒々と大きく膨らみ、全体的に獰猛なムードが漂っている。

その落差は結構なショックで二人とも顔を怖そうに見合わせた。

その他、ハコフグの稚魚の水槽もあり、

1センチほどの大きさに四角く黄色いフグが群れて遊泳している。

芳賀さんが先に歩いて行って美波を呼んでいる。

「あーん、この子すっごく可愛い、早く早く」

その子は『フサギンポ』と説明版に記載されており

 

北海道の海岸では通常に生息している魚である。

『大きな口』『プックラとしたタラコクチビル』『クルクルの丸い目』

『頭の上にイソギンチャクのようなフサ』『岩場に似たブチ模様』

二人からエサを待っているかのように

愛嬌のある顔つきで美波と芳賀さん二人へ歩カーンと口を開けて見上げている。

クリオネの衝撃を軽く吸収できるくらいの可愛さだった。

 

その後、夕方のバスの時間まで『北海道オホーツク流氷科学センター』に入った。

流氷のできる過程の展示や氷点下20度の部屋で氷漬けの魚の鑑賞や

濡らしたタオルを振り回して瞬間的に凍らせて棒状にして肩を叩いて笑った。

札幌まで雪の中をバスで移動して夜には実家に泊まった。

両親は『子供達が大きくなったら是非見に行こう』といい始めている。

父のドライブ魂に火が点きそうだが、しばらくは我慢と笑っている。

(つづく)

23.流氷観光2

先ずはこの旅一番の目的の『流氷観光』である。

ちょうど今、風の方向がちょうど陸地方向で流氷が沖合に来ているらしい。

二人は乗船券を購入し接岸している『流氷砕氷船ガリンコ号Ⅱ』に乗り込んだ。

乗船してすぐに二人の目に飛び込んできたのは

船舶前部に開かれて流氷を呼び込む空間に設置されている

船体の半分ほどの長さの巨大な二本の金属ドリルだった。

その鈍い光は流氷を今か今かと待っているように感じた。

やがて出航の船内アナウンスが流れ、より強くエンジン音が響き離岸した。

 

ゆったりとしたスピードで『オホーツクブルーの海』を進んでいく。

遥か遠くまで蒼い海面が広がっている。

風は強く波頭が船側を叩き、その振動が縦横に上下に船体を揺らす。

多くの観光客がデッキへ出て歓声を上げながら写真を撮っている。

白い帯が見え始めそこへ向かっていく。

流氷に鳥などの影が見える。

オジロワシとのアナウンスがあった。

近くの流氷に休んでいたゼニアザラシが、

ガリンコ号に驚いて海へ飛び込んでいる。

 

白く太い流氷の帯へ一直線に突入していく。

船の前面に設置されている2本のスクリューが回転し流氷を砕いて進んでいく。

船名そのままに『ガリガリッ』と

硬い氷を砕く音とその振動が身体へ伝わる。

目の前浮かぶ大きな流氷が大きなドリルで粉々に砕け散っていく。

その迫力たるや圧巻であった。

しかし、大きな氷に当たると船も大きく揺れるので船酔いに弱い人は注意すべきで

美波も芳賀さんもやはり酔ってしまった。

二人は暖かい船室へ戻り、窓から海と空を見て回復を待った。

船の揺れがなくなり氷を砕く音も一切なくなった。

船はもう港へ帰るのかと思っていたら湾内の海面上に浮く小さく薄い氷を砕き始めた。

『ハスの葉』のような形の氷が離れたり重なったりしながら海面に漂っている。

この形の氷が流氷の最初のできるもので

『これが成長してさきほどの大きな流氷に育っていく』

とアナウンスされて驚いた二人だった。

(つづく)

64.消された記憶3

百合は翔と会えない間、実は葉山館林邸に戻っていた。

そして、このたびの事件について、こと細かく話した。

祖父母はさすがに驚いた様子だったが、二人が無事だったことと

翔が無事 新宿事務所に引っ越したことを知り二人とも胸を撫で下ろした。

 

その夜、百合は祖母へ

『もしかしたら夢や勘違いかもしれませんが』と前置きして

事件の最中に幼い頃の記憶らしきものが蘇ったことを話した。

それを聞いた祖母は、

『しばらくここに待っているように』と言い置き、急いで祖父の元へ戻った。

しばらくして祖父の部屋へ来るように言われ部屋を訪れた。

 

祖父母は少し沈痛な顔つきで並んでいる。

「百合や、婆さんからお前の幼い頃の記憶が蘇った話を聞いた。

 翔君と付き合い始めたし、

 もしかしたら・・・そろそろか・・・と思っておった。

 確かにお前のその記憶は正しいと答えておこう。

 ただし、今はその理由を言えないし聞いて欲しくない。

 いずれお前に話す時がくると思うのでそれまで待って欲しい。

 これからもっと色々な記憶が蘇ってくるかもしれんが、

 我々一族全員がお前のためを思ってのことだったとわかって欲しい。

 決して悪意からではないことを・・・」

祖父母から頭を下げられるとこれ以上は聞けなかった。

 

「百合、お前に翔君とのことを伝えておこうと思う。

 翔君には翔君のご家族がいずれ伝えることとなろう。

 お前が思い出した『強く大きな眼の少年』は確かに翔君自身だった。

 そして、お前と翔君は許婚の間柄だった」

「えっ?許婚?」

「百合が驚くのも当たり前とは思う。過去に一度は切れた関係のはずだった」

「一度は切れた?」

「ああ、だが再び繋がったと言う事じゃな」

「百合は翔さんを見て、なぜか懐かしく思えたのはそのせいなのですね」

「そのようじゃ、わしにはそれが二人の運命かもしれないと感じておる」

「お爺様、お婆様、百合は翔さんのことが大好きです。

 ずっとずっと一緒にいたいと思っています。

 百合は翔さんのお嫁さんになってもいいですか?」

「ああ、翔君がそういう気持ちになれば、

 いずれお前にそう言うだろう。待っていなさい」

「はい、待ってます。百合は翔さんをとても愛しています。

 こんな気持ちは生まれて初めてのことです」

「そうか、わかったよ。その気持ちを大切にしなさい」

 

しばらくして、翔は突然実家へ呼び出されて百合とのことを聞かされた。

あまりの想像外のことに驚き、

そして混乱したが、

事務所で待っていた可愛い百合の笑顔を見るとすべて納得したのだった。

(つづく)

22.流氷観光1

家庭教師のアルバイトと

土日の友人とのたまの札幌でのショッピングやスイーツ探しや

実家に泊まった時は弟・妹と遊びながら毎日が過ぎていく。

高校受験生のため家庭教師の日数も1日増えて週3日となっている。

そして彼女のご両親から多目のアルバイト料を頂き臨時収入に大喜びした。

その収入で芳賀さんと初めて『流氷観光』に行った。

学生時代、あまり金は無いが時間は十分あるので、前日に実家に泊まり

札幌駅からバスで紋別市までの全行程6時間の雪道の長距離移動だった。

 

紋別バス停に着くと宿泊ホテルの紋別プリンスホテルまで歩いて移動した。

部屋に着くと窓からは雪の晴れ間に蒼いオホーツク海が広がっている。

このホテルは天然温泉が湧いている。

近隣に「天然温泉美人の湯 もんべつ温泉」があるくらいなので

二人は美人になろうとしっかりと浸かった。

泉質は、冷鉱泉アルカリ性低張性冷鉱泉)であり、

つるつるした湯当たりで、肌に優しくなめらかな感触の湯が特徴だった。

大型浴場にはその他バイブラ(気泡・超微細気泡)風呂、露天風呂、サウナルームも完備されており、温泉好きの二人はいつまでも満喫した。

『やはり北海道は温泉だ』という二人の持論が一致し、

今後も時間があれば温泉旅行をしようと約束しあった。

 

夜は和食レストランで海鮮料理に舌鼓を打った。

湯上りのビールは最高だった。

北海道はどこに行っても食材が豊富で美味しかった。

二人とも十分満足して部屋に戻るとテレビや本を見ながら過ごした。

翌朝はバイキング方式のモーニングを食べて出発した。

(つづく)

63.消された記憶2

その夜は百合の作った遅めの晩ご飯を食べてアパートへ帰った。

すでに警察の鑑識官の仕事も終わっている。

部屋の中は雑然としており、片付け終わったのはもう朝方だった。

少し仮眠を取っていると、百合からラインが入った。

『翔さん、疲れは取れましたか?』

『今日、アパートへ行っていいですか?』

昨日怖い事があったので百合は心細いのかもしれない。

翔は『もうこのアパートは引っ越すのでしばらく会えない』と伝えた。

もうこの危ないアパートへ百合を来させることは考えていなかった。

もし今回、相手が同じ方法を使った殺人鬼ならば

二人の命は今頃ミーアと一緒だったのかもしれなかったからだ。

そう考えると『どんなことがあっても百合を守る』と誓った言葉に賭けて、

このアパートは引き払う必要があった。

葉山館林家へ使用許可を貰っている新宿の探偵事務所の使用開始の連絡をし、

すぐさま引っ越すこととした。

百合から『わかりました。落ち着いたら連絡ください』と返答があった。

 

その日から引越が終わるまでは早かった。

新宿の事務所奥には自室とトレーニング室が併設されている。

荷物とは言っても、単身赴任と変らない程度の量なので一日もかからなかった。

引越業者は葉山不動産からの依頼の業者で驚くことに無料だった。

その夜は、百合が引越祝いの料理を作ってマンションで待っている。

 

「翔さん、無事引越ができておめでとう。精一杯作ったのでたっぷり召し上がれ」

「ああ、ありがとう」

「翔さん、実家に無理言って、私も合鍵貰いました。良かったですか?」

「ああ、もう貰ったのなら、駄目って言えないじゃん」

「ええっ?駄目って言います?もしそうなら・・・百合は悲しいです」

「言わないよ。ただし、危ない街だから注意してね。百合は可愛いから心配なんだ」

「はい、でも翔さんがいるから安心です」

「それが駄目、この前、危なかったよ」

「そうでした。でもあの時、百合は翔さんだけ見ていたし、ずっと安心していました」

「ありがとう。もっともっと、がんばるからね」

「はい、待ってます」

「???」

 

翔は久しぶりの百合の手料理に満足だった。

久しぶりに会って嬉しい百合がなかなか翔を帰そうとしなかったし、

翔も離れがたかったため、肩をくっつけて夜中までソファに座って、

テレビや本を読んで過ごした。

時々、二人はいつも間にいたミーアのことを

ふと思い出しては悲しい気持ちになった。

 

これからは卒業式を待つだけだが、

探偵業を始めるにあたり知識や準備が必要だった。

葉山不動産の紹介で探偵学校の塾へ短期入学をした。

ここでは尾行術および格闘術、クライアントの接客方法、報告書の作成方法など

探偵業のイロハを教えてもらった。

(つづく)