はっちゃんZのブログ小説

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107.妖?行方不明者を探せ5

高尾山を出発する時、遼真は目黒にある実家へ

本体の抜け殻を入手した旨と祈祷により潜伏場所を探る予定の連絡をした。

目黒の実家は、皇居の裏鬼門の方向になり江戸が出来る前から関東の守護として

安倍清明系列の京都と関係の深い由緒ある神社だった。

すぐさま一族の者から真美へ連絡が行き、

授業を早退し急いでタクシーで実家へと戻った。

真美は家に着くと、すぐに部屋へ鞄を置いて風呂場へ向かう。

そして制服を脱ぎ裸になると浴室へと入った。

檜で出来た浴槽には

今朝井戸から汲まれたばかりの冷たい水が張られている。

今から始める祈祷のための水垢離だった。

やや厚めの真っ赤な唇から洩れる息は真っ白だった。

水は肌を刺すように冷たい。

目を閉じ、祓いの言葉を唱えながら何度も被る。

その顔つきに一切変化はない。

真美の真っ白い肌が赤く染まる頃、それは終わった。

その後白衣と赤い袴へ着替え道場へと向かった。

 

遼真は中央自動車道西新宿ジャンクションから

首都高速中央環状線目黒方向へと曲がり翔と別れた。

リュックサックに入っている壺がやけに冷たく重く感じられる。

真美は祓いの言葉を発しながら祈祷所の四方へ祓いの塩を盛り清めていく。

護摩祈祷用の祭壇を作り、その周りにしめ縄による結界を張って行く。

護摩用祭壇の奥には祈祷用の壷の置く台を設置し

護摩用祭壇の手前には多くの護摩木を供えた。

そんな時、遼真のバイクの音が聞こえた。

真美は間に合ったことにほっとしながら遼真を待った。

「真美、遅くなってすまない。

 いつものように手早いね。さすがだな」

「遼真様、お褒め頂きありがとうございます。

 さあ魔物の抜け殻の入った壺をお渡しください」

「これだ。

 清めた布でさえも腐ってしまうような瘴気をまだ放っている。

 十分に注意してね」

「はい。まだ出てますかあ。ほんまに怖おすなあ」

「そうだね。

 じゃあ、僕は急いで着替えてくるから頼む」

「わかりました」

真美は壺を白い手袋で受け取り、注意深く祭壇の手前へと置いた。

 

しばらくして水垢離で清めた身体に、

白衣と黒袴をつけた遼真が祈祷所へあらわれた。

手には多くの人型の紙片が握られている。

その肩にはキツネのような顔付きの小さな動物が乗っている。

この動物は『管狐(クダギツネ)』と呼ばれる術者のお使いだった。

真美は遼真が『式神の術』を駆使するつもりだと知った。

真美も急いで「クイン」を呼び傍らに控えさせた。

遼真のお使いは「キイン」と呼ばれ、真美のお使いは「クイン」と呼ばれている。

 

加持祈祷が始まった。

遼真の口より呪文が紡ぎ出されて祈祷所全体へ拡がっていく。

祈祷所内の明かりは祭壇の護摩木の燃える炎だけだった。

呪文のたびに、

祭壇へ護摩木が放り込まれるたびに

強くそして弱く変化する炎が壁を照らし揺らしている。

壷から黒いオーラらしきものが立ちのぼり始めた。

遼真は呪文を唱えるたびに人型の紙片を祭壇の炎へ入れていく。

しかし、紙片は燃えず炎の中に消えていく。

今、人型の紙片は「式神」となり、祭壇の炎の中から

立ち上る黒い魄(はく)と同じ波動の立ちのぼる場所へと跳んでいく。

 

祈祷所の上空高くのぼった式神達は、

一つの大きな塊となったが、

それらは東京都を中心にして無数に分かれ始めた。

そして、壷の中の魔物と同じ波動の元へと飛んでいく。

ある式神は魔物の毒牙にかかった被害者の遺体へ向かった。

そして、遼真へと戻っていく。

ある式神は魔物本体へと向かった。

魔物の本体は、向かってくる式神の存在に気づき、

魔物は式神を攻撃して捕まえて殺した。

殺された式神の荒御魂は式神の身体を離れ遼真へと戻っていく。

 

祭壇の炎から多くの式神が遼真の手元へと戻ってくる。

そのうちの一つの式神には、大きな焦げ跡と鋭い穴が穿たれている。

魔物本体へ向かった式神だった。

遼真はその式神を掌に挟み、呪文を唱えて癒した。

式神の大きな焦げ跡や穿たれた穴が徐々にふさがっていく。

遼真はじっと瞑目している。

『この魔物は何かが違う。蠱毒の魔物だけではないかもしれない』と感じた。

 

その時、炎の中から牙のような炎が遼真へと向かって来た。

すぐさま、『管狐(クダギツネ)』の「キイン」と「クイン」が反応し

歯を剥き出して威嚇する。

二匹はその牙のような形をした炎に左右から被りつくと

先を争うようにビリビリと紙を破くように喰らってしまった。

そしてキインとクインは満足そうに背伸びをすると

主人の肩へ飛び乗りその頬を主人の頬へ擦り付けた。

(つづく)