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はっちゃんZのブログ

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。ブログトップから掲載されています作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

小説1:さざなみにゆられて-山陰編-

さざなみにゆられて-山陰編ー

*登場人物* 後藤静香 小料理屋「さざなみ」の店主。 地の食材を美味しく食べさせてくれる店。 店ではいつも弓浜絣を着ておりおだやかな笑顔の女性。 娘と二人暮らし。 後藤美波 静香の娘。高校一年生。明るく人懐こいところがある。 日下慎一 春に米子へ新…

47.業界再編への動き、そして 

北海道から帰ってきて二人だけのおだやかで楽しい生活が始まった。 美波が小樽へ旅立ってからここ数か月、さざなみを閉めている。 慎一は夜だけでなく昼も家に帰って食べるようになり、 帰宅するといつも静香にずっといて欲しいと思うようになった。 ある日…

46.新婚旅行、娘と、2

翌日、小樽観光を満喫した。 「小樽運河クルーズ」や「北一硝子」などを回り 休憩では「ルタオ本店」を目指した。 有名なこの店の人気商品『ドゥーブルフロマージュ』を食べるためだった。 慎一はコーヒー、静香と美波は紅茶を頼み、ケーキセットを頼んだ。 …

45.新婚旅行、娘と、1

新婚旅行は美波もいる北海道と決めて6月に出発した。 北海道は梅雨のないカラリとした気候で、 確かに冬は寒いかもしれないが その過ごしやすさに夫婦は大変気に入った。 そして今後、定期的に娘と会いがてら観光に来ようと決めたのだった。 千歳空港からは…

44.相性

二人は早々にマンションを借りて引っ越した。 今度のマンションも家具付きの部屋なので箪笥などは少なくて済んだ。 最上階3LDKで大山が綺麗に見える部屋だった。 4月になり慎一はまたもや多忙な日々が続くが、 家へ帰るのが楽しみだった。 仕事を終えて…

43.最初の夜

お風呂からでてスキンケアをした静香が和室に入ってきた。 慎一は部屋を暗くして布団を持ち上げて誘った。 彼女が布団へそっと入ってくる。 慎一が抱きしめると 慎一の胸の中で胸の前で両手を組み合わせ身体を固くしている。 「静香、怖くないよ、僕にまかせ…

42.広すぎる家

弓ヶ浜から家に戻り二人でゆっくりとお茶を飲んだ。 慎一は部屋をゆっくりと見まわして一人で住むには広すぎる家と感じた。 静香もそれを感じるようで、何かそわそわしながら見まわしている。 「美波一人がいなくなるだけでこんなに静かで広くなるのねえ」 …

41.旅立ちの日

慎一が美波ちゃんを車で迎えにいく。 美波ちゃんが二階から手を振って、上がってきてほしい仕草をしている。 二階へ上がっていくと美波ちゃんが部屋で正座して慎一を待っている。 「おじさん、この3年間ありがとうございました。 これから小樽へ行きますが…

40.美波の言葉

小樽へ旅立つ前夜、美波が二階から降りてきた。 「お母さん、長い間、色々とありがとう。 美波はもう大学生だから一人でも大丈夫、だから安心してね」 「あらあら、そんなお嫁に行くようなことを言って・・・ 少し遠いかもしれないけれど心配してませんよ。 …

39.美波の受験

慎一が米子へ戻り、去年と同じように時間が流れていく。 ただ今年は美波ちゃんの進学を決める大事な1年なので 今までのようにはいかない。 美波ちゃんのテニスは春の県大会でベスト8まで行った。 本人としては最後までベストを尽くしたので満足だったよう…

38.再び『さざなみ』へ

家に戻り着替えてから米子市の繁華街の一角と聞いている角盤町へ行くこととした。 角盤町の路地には夕暮れに家路へと急ぐ人達に混じり、 もうだいぶアルコールが入った様子の数人もいる。 町の様子を見ながら少し細めの路地へ目を移した。 小さな看板で『さ…

37.再赴任

「次は米子、米子」 慎一はひとつ背伸びをして手元にある人事異動通知書を見た。 人事異動通知書 京都支店融資部 日下 慎一 殿 関西中央銀行本店 人事部長 清水 英雄 貴殿を平成10年4月1日付で山陰支店への異動を命ずる。 以上 心の中の何かが記憶の蘇ること…

36.春の息吹

2月も半ばを過ぎとなると暖かい陽射しの日が増えてくる。 慎一はその陽射しを受けながら徐々に活性化していく身体に気がついた。 頭蓋骨の線状骨折も接合し、肩の固定していたネジを外すと 身体は完全に元に戻りつつあることがわかった。 脳波測定からも異常…

35.静香親子、神戸へ

静香は、今週の土曜日に彼の実家に行くことを決め、妹の幸恵さんに伝えた。 『娘』と一緒に行くことを伝えると、 一瞬の間はあったが、幸恵さんは兄も記憶が戻ればいいなと大喜びだった。 土曜日は、米子駅で彼の大好きなできたての『ふろしき饅頭』を買い …

34.幸恵の疑問

幸恵は以前から不思議に感じていることがあった。 兄の慎一が父親へある時から理解を示すようになったことに対してだった。 『夫婦の事は夫婦でしかわからない。子供にはわからない』 『お酒を飲んでいない父さんを知っているのはお母さんだけやから』 兄と…

33.間違い電話

兄が実家に帰って来て、だんだんと話すようになると 幸恵は兄の枕元に壊れた携帯があったことを思い出した。 仕事上の事は全く心配する必要がないのでそのままにしようかと思ったし 兄に聞いても特に困っていないと言うばかりなのでそのままにしていた。 あ…

32.霧と痛みの世界

慎一は目を覚ました。 見覚えのない白い天井が目に映る。 心配そうに覘きこむ母親と妹の顔が見える。 隣にどこかで見たような顔色の悪い痩せた老人がいる。 話し掛けてきているがその内容はわからなかった。 医師が現れて、何か声を掛けてくる。 聞かれてい…

31.壊れた携帯

静香は夜になって何度も電話をしたが 『お客様の携帯電話が圏外にいるか電源が入っていないので繋がりません』 のアナウンスが聞こえてくる。 メールを送っても返信はなかった。 もしかして彼の身に大変な事が起こったのかも? なぜか異音を発し二つに割れた…

30.湯呑

『今日はちょっと眠いなあ、久しぶりの休みやから外でコーヒーでも飲むか』 と考えてマンション前の喫茶店へ向かった。 美波ちゃんや静香さんからのメールを読みながら部屋を出た。 エレベーターよりも、たまには歩こうと考えて階段へ向かった。 慎一はこの…

29.異動の朝

朝早く2階の客間で慎一は目覚めた。 台所からいつもの音が聞こえてくる。 下りていくと静香さんが忙しそうに二人分のお弁当を作っている。 「おはよう」 「あっ、おはようございます。今日は一日いい天気みたいです」 静香さんは慎一の方へ一瞬含羞(はにか)…

28.慎一の約束、静香の願い

美波ちゃんが二階へ上がってしばらくして、静香さんが風呂から上がってきた。 いつのまにか美波ちゃんの部屋からの音も消えている。 「あれっ?美波がいたのだと思いましたが」 「うん、少し話しておやすみなさいって上がっていったよ」 「そう、最近相当に…

27.美波のがまん

夕食が終わり二人でゆっくりとお茶を飲んでいる。 静香さんが仏間に入っていき戻ってくる。 「慎一さん、美波が来る前だから二人の時の名前で呼びます。 京都に行ってもがんばって下さいね。 京都もこちら同様に苦労するところがあると聞きますので 無理をし…

26.いつもの音

静香さんが朝早くから来て、まだ残る荷物のまとめと部屋の掃除をしている。 30日昼前に引越業者が来て昼過ぎには搬出し終わった。 部屋は引っ越してくる前に戻って行く。 自分の思いは元には戻っていない。 ほんの1年半と短かった期間だが、 今までの転勤…

25.それぞれの思い

家に帰り1人になると静香の心は千々に乱れた。 彼の前では気が動転してボーとしてしまった。 彼は転勤族と覚悟はしていたものの実際に経験すると余りにも唐突過ぎた。 あと半年、あと1年あればと思う心もあるが きっといつであっても唐突に感じるものなのだ…

24.突然の辞令

お盆休みの前に京都支店の同期から 『突然家業を継ぐことになった』との連絡があった。 親父さんがこのお盆前に突然脳卒中で亡くなり、銀行を辞めるしかなかったそうだ。 会社の都合で非常に変則だが、8月末をもって銀行を辞職することとなった。 そいつは…

23.浴衣2

「少し下で待っていてください。私も着替えますから」 しばらくして二階から着替えた静香さんが下りてきた。 長い髪はそのまま下ろされ、 「白地の網代模様の浴衣」に「辛子色の麻の葉模様の帯」が締められていた。 「いい柄だったので私も気に入ってお揃い…

22.浴衣1

今年度は昨年度の地道な努力が実り、順調に新規開拓ができている。 数字も前年同月比で130%以上の進捗で課員も張り切って仕事している。 赴任して来た当初の課員の雰囲気は『達成できなくて当然との意識』が 透けて見えるほどで、やる気にさせるのが大変…

21.彼との距離

慎一が帰ったあと静香はゆっくりと湯船へつかり彼の笑顔を思い浮かべた。 彼の家庭がうまくいきそうで嬉しかった。 もちろん幼い頃からの辛い記憶を変えることは大変なこととわかっている。 しかし彼本来の性格は、そんな辛い記憶で変わるものではないはずと…

20.母の再婚

28日朝に出発し昼過ぎには着いていた。 家で甥っ子と遊んだ。やがて甥っ子も疲れて昼寝を始めた。 そこから母親と妹の3人で話し合いが始まった。 父は明日に来るらしい。 一番反対すると思っていた慎一が再婚を認める発言をすると 母と妹は意外な顔をして驚…

19.二人で出雲へ

5月連休前に妹から電話が入った。 いつに帰ってくるのか教えて欲しいらしい。 理由を聞くと父親が家に顔を出すからだと言う。 それを聞くと一瞬帰りたくなくなったが、母親のことを考えて帰ることとした。 26日は静香さんと松江・出雲の方を案内してもらう予…

18.桜街道

米子市が桜色に染まるある土曜の朝、 湊山公園で桜を穏やかな気持ちで眺めている。 中海の水面は桜の花びらに染められており、 水鳥公園の鳥達も花見をしているのか、ときおり水鳥の声らしきものが響き渡る。 旧賀茂川沿いの白壁土蔵を背景とした桜並木も見…

17.移り変わる記憶

もう季節は春へ一歩一歩近づいている。 米子の冬は雪が多い。駐車場の雪かきが必要なこともあった。 『さざなみ』からの帰路には、 街頭に照らされたオレンジ色の雪が舞う様をいつも見上げていた。 その様が見えなくなって久しいと感じ始めた今日この頃。 米…

16.初詣

マンションに戻るとポストに美波ちゃんから年賀状が来ていた。 『新年あけましておめでとうございます。 美波は今年こそテニスで県大会上位を目指します。 今年も昨年同様に『さざなみ』をよろしくお願い申し上げます。』 PS.旧年中は大変お世話になりあり…

15.帰省、遠い記憶

さざなみで蟹三昧を満喫した翌日は、 早々に掃除をして神戸の実家への帰路についた。 ルートとしては何通りかあるが、慎一は以下ルートを選んだ。 米子市から米子道を通り、中国自動車道に突き当たる落合JCTを左折し、 岡山県を通過し兵庫県に入り、福崎ICで…

14.師走、三人で

年末まで過ぎ去る時間は早かった。 ふと気が付けばあれほど街を秋色に染めていた街路樹はその葉を全て落とした。 11月初めの連休こそ、ゆったりと過ごしたが、それ以降は仕事一色だった。 たまに土日のどちらかに遊びに来る美波ちゃんとの会話だけが疲れを癒…

13.とまどい

『私、弱くなったのかもしれない』 ふと脳裏にその言葉が浮かんできた。 静香はステーキハウス精山から帰宅後、お風呂へ入り、 パジャマを着てゆっくりとお茶を飲んでいる。 左手のバンドエイドを張り替えながらじっと今日のことを考えていた。 砂丘で自然と…

12.帰途の二人

せっかくここまで来たのだからと鳥取砂丘でお弁当を食べることとした。 砂丘にはラクダが歩いており、まるでアラビア映画のような光景が広がっていた。 ただ異なるのは、砂丘の向こうは砂の海ではなく蒼い日本海がだったことだった。 砂丘入口から海岸まで行…

11.美波、秋の県大会新人選へ出場

9月、10月は上半期末と下半期始めのため慌しい日々が続いている。 土日も家に書類を持って帰る日々が続き、なかなかゆっくりとできる日がない。 そんな中でも『忙中、閑あり』、その金曜日にやっとゆっくりとできる日ができた。 それでも夜8時まではデスクワ…

10.がいな大花火大会

境港市から後藤家に戻るコースを、弓ヶ浜経由に変えて、弓ヶ浜公園に降りた。 弓ヶ浜公園は今後、夢みなと博覧会から大型遊具を譲り受け、 『弓ヶ浜わくわくランド』を開園予定だと聞いたので米子市民は楽しみにしている。 後藤家へ到着し慎一は食材の発泡ス…

9.がいな祭りと境港

夏の山陰地方は涼しいと、関西や四国地方を勤務してきた慎一は感じている。 肌にあたる日差しの強さとか最高気温を比較してわかったことだった。 米子城跡にある湊山公園を散歩している時など木陰に入ると吹き渡る風は涼しかった。 8月始めの土日二日間、こ…

8.美波の秘密

ある夜、美波は土曜日のプールへの準備をしていた。 母には友達と皆生温泉プールで泳いでくると言っている。 「あなたがプールにねえ。どういう風の吹き回しかしら。水はもう大丈夫なの?」 と不思議そうに美波を見ている。 本当は、皆生プールへ日下さんと…

7.追憶2

柔らかい桜色の風が神戸の街を包んだある日、 突然、 夢は覚め、 時は止まり、 世界がモノクロームに変わった。 「静ちゃん。落ち着いて聞いてね」 「はい、何があったのですか?」 「勇二君が・・・」と言って事務所の皆が泣き始めた。 社長が涙を流しなが…

6.追憶1

静香はタクシーに乗ってしばらく経って目を覚ました。 美波が静香の背中をさすりながら心配そうに見つめている。 「はっ、お母さん、眠ってた?」 「うん、私、びっくりしたよ。今日みたいなお母さん、初めて」 「ごめんなさい。嫌なことがあって少し飲み過…

5.面影

6月中旬を目標としていた大きな融資案件がやっと決まり、融資課開設後、 初めて月目標が達成する目処が着いた。 9月までは徐々に決まりつつある案件でスムーズだった。 6月21日は誕生日で、久しぶりに『さざなみ』でゆっくりとできそうだった。 仕事を早く仕…

4.静香のまなざし、美波のまなざし

静香は最近一人のお客さんが気になっていることに気が付いた。 それは5月連休直前に来店した『日下さん』だった。 関西弁で静香の料理を美味しい美味しいとたくさん食べてくれる人。 連休明けは仕事が忙しいみたいで週に2、3度は来るが、 まだ仕事が残って…

3.秀峰大山へ

「さざなみ」で気持ち良く飲んで眠った翌日、自然に目覚めたのは正午手前だった。 朝昼食兼用でトーストとコーヒーとサラダをニュースを見ながら食べた。 ふとベランダを見ると、『秀峰大山』が花曇りを背景に際立って見えた。 掃除しながらここ一週間の溜ま…

2.「さざなみ」初来店

明日から久しぶりの大型連休で十連休となった。4月は年度初めであり、 高い目標で動いたが融資部としてもなかなか成績は上がらなかった。 4月27日は恋人や家族との旅行を控えた人が多いようで口々に「お疲れ様でした」と そそくさと退社していく。 慎一は特…

さざなみにゆられて-山陰編ー 1.赴任

「次は米子、米子」 慎一は軽く背伸びをして手元にある人事異動通知書を見た。 人事異動通知書 高松支店融資部 日下 慎一 殿 関西中央銀行本店 人事部長 清水 英雄 貴殿を平成8年4月1日付で山陰支店への異動を命ずる。 以上 岡山駅を11時過ぎに発車した特急…