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はっちゃんZのブログ

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。ブログトップから掲載されています作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

41.お化けアパートの怪 2

何日間か待ったが一向にその怪現象は起こらなかった。

3日も経った金曜日の夜中、爺さんの部屋でじっと待つ。

爺さんは亡くなった奥さんの写真に向かって手を合わせて拝んでいる。

ふと郵便受けに奥さん名の年金振込書が入っていたことを思い出して

「奥さんは亡くなったのですよね?」

「いや、あいつは生きてる。今はいないだけ、もうじき帰って来るはず」

翔は奥さんに逃げられた爺さんを可哀想に感じ、

それ以上は聞かなかった。

 

遠くから車のクラクションや人の話し声が聞こえてくる。

しばらくして、部屋に振動が出始めて奥さんの写真が倒れた

『ミシ、ミシ、ミシ・・・ザクザク、ザッザッ・・・ミシミシ』

『・・・いつまでこんな・・・まだ・・・。そん・・・もうじ・・・がんば・・・』

「だろ?聞こえるだろ?俺、怖いんだ。

 きっとカ・・いや化けて出てくるつもりかも」

「しっ、静かにして」

翔は、地中から漏れて来るように聞こえてくる音声を録音している。

1時間もそんな様子が続き、やがて静かな夜が続いた。

爺さんは音と振動が無くなって安心したのか眠り始めている。

 

翔は、部屋に戻るとドローンを窓から飛び立たせた。

このアパート300メートル四方を探査し始めた。

X線、赤外線撮影も同様に行った。

そしてRyokoにここら一帯の地下道や下水道の走行を検索させた。

そして、これらの画像を3D処理してアパートを中心とした画像を作成した。

そこでわかったことは、

ある大きな一軒家の庭にあるプレハブの納屋から

地下道が掘られていて下水道に繋がっていた。

深さも5メートルととても深いものだった。

方向としては、このアパートの地下を突き進んでいる。

 

翌日から一軒家の監視をすることとなった。

もちろんクモママ、クモ助を出動させてのもので

すべて録音録画されている。

この家の夫婦は、大きな屋敷に住んでいる割には貧乏そうな服装で暮らしている。

そしてなせか庭にはフォークリフトが置かれている。

庭を良く見ると、大きな袋がいくつも置かれており中身は土だった。

たまに主人らしき男が庭にトラックをつけて

フォークリフトで荷台にその袋を積んでどこかへ出かけていく。

(つづく)

2.初めての胎動

ホテルでの夕食後美波が部屋で片づけをしている。

慎一はテレビを見ながら静香と二人でゆったりとお茶を飲んでいる。

美波は明日の昼には小樽へ戻るそうだ。

慎一はしみじみと妻を見た。

最近の静香は新婚旅行当時と違って、

さすがにお腹もふっくらとしてきている。

しかし、新婚当初の初々しさと可愛さは変わっていない。

と言うより、どんどん若返って見えると言うのが正解かもしれない。

同僚・同期からは2歳違いには見えなくて、

5歳から10歳違うように見えるらしい。

静香は自分を見つめている夫に気がついた。

 

「あっ、あなた来て、手を持ってきて」

「???」

「早く、今、動くわよ」

「えっ?そうなん?どれどれ・・・」

『モゾモゾ』

「あなた、この子たちがお父さんこんにちはって」

「そうなん?うーん」

『モゾモゾ』

「あっ、ほんと」

「そう、この子たちが、ごちそうさまだって」

「そうか、もう僕がわかるんだ。こんにちは」

「ふふふ、きっとあなたの声が聞こえたのよ」

 

何かを察知して部屋から美波が出てきた。

「お母さん、もしかして赤ちゃんたちが動いたの?」

「そうみたい、お姉ちゃんよろしくって」

『モゾモゾ』

「本当感じるわ、こんにちは。お父さん本当におめでとう」

「ありがとう美波、お姉ちゃん、よろしくな」

「うん、私も赤ちゃんたちに会うの楽しみ」

慎一は嬉しくなって、

久しぶりに『静香スペシャル』と『美波スペシャル』を作った。

3人と2人はコーヒーを堪能した。

 

夫婦二人で子供の名前を話し合った。

男の子は、この雄大な大地で育つ大樹のような男になって欲しいと考えて『雄樹』、

女の子は、夏のように明るく美しい子になって欲しいと考えて『夏姫』と決めた。

翌朝、美波に話すとそれはいいと大賛成だった。

(つづく)

40.お化けアパートの怪 1

ある日、小汚い爺さんが、新商売「オールジョブ」へ現れた。

事務所の中を見回しながら、

「探偵事務所と聞いたのに違ってるね・・・」

「は?はい、以前ここにありました事務所は閉められたようです。

 もし私どもに何かできることがあれば・・・」

「うーん、何でも屋だから同じようなものかなあ。

 わしの住んでるアパートに幽霊みたいなものがいるので困っている。

 夜中に部屋がガタガタして、人のような声が聞こえてくるじゃ」

「幽霊なら祈祷師がいいのでは?」

「頼んでも駄目だから来ているのじゃ」

「わかりました。まあとりあえず調べて見ます。

 少し準備するので先にアパートへ戻っていて下さい」

「わかった。楽しみにしておるぞ」

「了解しました。ただあまり期待しないで下さいね。

 ただ調査するだけですから。

 もし本当に幽霊しかいないとわかればお手上げですからね」

「そうか、でも何とかしてほしい」

老人のアパートの場所は奇遇なことに翔が大学時代住んでいたアパートの近くだった。

 

【依頼内容】

依頼人氏名:宮本顕一郎様。80歳。

依頼人状況:無職、年金暮らし。

種類:お化け被害

経過:夜中になると部屋で男性や女性の声が聞こえて、細かい振動で部屋がゆれる。

調査方針:現場の状況調査。犯人の特定。

 

翔は偵察用具及び調査道具一式を詰めて、バトルバイクで出発した。

クライアントの部屋の隣が空いていたのでそこに一時入居した。

窓からは翔が学生時代住んでいたアパートとその向こうに銀行や証券会社が見える

早速クライアントの部屋を訪れた。

6畳ひと間に簡単なキッチンが備え付けられている。

部屋の片隅にある箪笥の上に亡くなった奥さんの写真が立てかけられている。

部屋の中を撮影し、壁などを調査するも特に怪しいところはない。

部屋の隅の畳がポコポコとして歩きづらいが

クライアントがそこに座布団を引いて座っている。

とりあえず夜にまた訪問することを伝えて、事務所へ戻った。

Ryokoにクライアント近辺でのお化け騒動の情報を検索した。

隣のアパートの学生が2チャンネルで、

クライアントの爺さんが祈祷師を呼んだ話をつぶやいている。

彼女といる時でも細かく揺れることもあり

集中できなくて困っているともつぶやいている。

何かが起こっていることは確かなようだった。

(つづく)

1.札幌へ

新千歳空港ボーディング・ブリッジへ慎一と静香は降り立った。

3月末にも関わらず、空港の周辺にはまだ雪が残っている。

ブリッジを流れる空気が肌を引き締める。

北の都の春はまだまだ遠い。

JR快速エアポートに乗り札幌市を目差す。

窓の曇りを掃うと雪に覆われた田畑や街並みが流れている。

二人はそっと手を握り合って窓の景色を見つめた。

 

今晩は札幌市内のホテルで宿泊だった。

最上階のバーラウンジから大通り公園が見える絶好のロケーションで、

前回の新婚旅行時に気に入ったので今回も同じホテルにしたのだった。

社宅もそこから歩いて10分くらいの場所なのでちょうど良かった。

引越し業者は明日の土曜日正午前にくるのでゆっくりとできる。

昼前に美波が引越の手伝いに顔を出すと連絡が入っている。

今度のマンションは勤務先に近い札幌市中央区の分譲マンションを契約している。

 

札幌駅に着いて南口から出ると、

大きなガラスのオブジェに目を引き寄せられ、続いて大きな通りが目に入った。

さすが北海道の3割が集まる人口180万人の都市の玄関口だけはあると感じた。

空気も澄んでいて晴れているから歩こうと考えたが、

まだまだ寒くて静香が風邪でも引き込んだら大変なのでタクシーに乗った。

タクシーの運転手情報では将来的にはこの通りに地下街を作る計画があるらしい。

ホテルに着くと窓からゆっくりと大通り公園を見下ろせた。

今度の月曜日、初出社する銀行の新しい看板が見えている。

静香は米子からの移動に少し疲れたのか椅子に座ってお茶を飲んでいる。

 

最上階のフランス料理のレストランで海鮮コースを頼んで北海道の食材を堪能した。

隣の鉄板焼きの店の方は、明日の親子三人で予約している。

その後、大通り公園を見える席があるラウンジへ入り

静香にはアルコール度ゼロのカクテル、慎一はバーボンのロックを頼んだ。

このラウンジからは、夏の豊平川花火大会の花火やクリスマスや雪祭りの時には綺麗にライトアップされた大通り公園が見えると案内には書かれている。

ホテルも新婚旅行と同じだったことと

ここしばらくの引越準備などから解放されたことで

ほっとしてついつい二人とも気持ちが高まり、

久しぶりにあまり刺激しないように軽く抱き合って眠った。

 

翌日、ホテルのバイキングで朝ご飯を食べてマンションに行く。

すでに待っていた不動産屋から鍵を貰って部屋へ入った。

各部屋は二重サッシの窓で防寒対応がされている。

このマンションも家具が付いているので大荷物は必要なかった。

後藤の家は、不動産屋へ家具付きで貸すこととなっている。

やがて引越屋が来て荷物が搬入されている時に美波がやってきた。

3時間くらいで全ての荷物を運びこみ引越は終了となった。

あとは、じっくりと梱包を解いて整理していくだけの作業だった。

その夜はホテルの最上階の店でステーキを食べて家族3人+2人で舌鼓を打った。

海鮮として出た「伊勢海老の鉄板焼き」はレアな歯ごたえと甘味が舌を直撃した。

北海道内で出た中で一番良いものを仕入れているとコック長が自慢する牛肉は

赤身の味の濃さと刺しの入った脂の甘さが混然と混じり合う秀逸な肉質だった。

(つづく)

39.オレオレ詐欺団を壊滅せよ 5

都倉警部に連絡し状況を話し、暴力団担当と連携することとなった。

また翔の情報を警察内部でも秘密にしてくれるように依頼した。

警部はそのネット情報を聞いて、

百合の身の安全も考えて了承してくれた。

警察内で翔を知っている者には、

探偵事務所は畳んだこと。

群馬の実家を継ぐことになり、東京からはいなくなることを知らせた。

警察内で翔と仲の良かった者は寂しがっているようだった。

 

その日から『Kiryu detective agency』はホームページも含め、

一切の痕跡が消えた。

事務所の後には、『何でも屋 オールジョブ』を開業させた。

所長はもちろん翔だが、

声を変え風采の上がらない中年の変装をしている。

事務員は百合とアスカで共に顔を変えている。

ホームページには金額を高めに設定しあまりヒットしないようにした。

 

都倉警部は、先ずオレオレ詐欺グループの本拠に急行した。

彼らは無実だと主張したが、

金庫に翔の作った偽札があったためそれが証拠となり検挙された。

翔の偽札は『透かし部分がモナリザになっている』のですぐにわかるのだった。

 

次に『川口組』への捜査を始めた。

組員達は刑事達を睨み付けながら立っている。

組長は所用で不在とのことだったが、

翔の事前情報で隠し部屋の存在を伝えていたため、

そこに隠れていた組長と

格納された莫大な数の武器(拳銃、刀、ダイナマイトなど)と共に

組幹部は全員逮捕された。

隠し部屋の凶器そのものに

組長や幹部の指紋もついていたため言い逃れは出来なかった。

オレオレ詐欺グループとの繋がりも否定していたが、

隠し金庫の中から『翔の作った偽札』が出てきて万事休すとなった。

また暴力団担当刑事の殺人・傷害事件の証拠も見つかり

組長や幹部達は、

『凶器準備集合罪・凶器準備結集罪』『詐欺罪』『殺人教唆』などで立件された。

事実上、川口組は解散状態となり多くの組員は散り散りばらばらとなった。

 

この大捕り物のニュースはマスコミを賑わせた。

警察の威信を大きく取り戻した事件となった。

都倉警部は翔へ感謝状を渡したかったが、

翔たちの身に危険が及ぶので取りやめにした。

東京都に翔はいないことになっているので都合が良かった。

しかし、ネットではまだまだ『幻の格闘探偵』の噂で持ちきりだった。

今後は、『何でも屋のオヤジ』を演じて警察へは今まで同様、

可能な時に協力していくこととした。

(つづく)

38.オレオレ詐欺団を壊滅せよ4

翔は噂が気になった。

急いでRyokoに検索させた。

過去の事件解決に関しては、

超人的な武術を駆使して悪党を倒す探偵が関与しているとされている。

近くで見た人間は、大柄な身体に若そうな雰囲気で、

黒いヘルメットだったので顔はわからなかったと言っている。

警察関係の人間だろうと言われており、

特殊部隊出身ではないかとも噂されている。

翔は百合も含めて、今後仕事上では本当の顔を晒さないことを決めた。

京一郎さんに百合用に日本人の平均的な顔つきの仮面と

翔用の外国人版も追加作成してもらう必要があると考えた。

 

クライアントのお婆さんへやはり詐欺グループから再び連絡があった。

その道の相手が『むち打ち症にかかった』ということで

忘れるためには1000万必要と言ってきた。

今度は電話口にその道の人らしい男が出て、べらんめい調で脅してくる。

お婆さんには事前に話していたので

お婆さんは怖がっていう事を聞くふりをしている。

 

弁護士の男が時間通りにやってきた。

その道の人らしき男は首を固定して手足にも包帯を巻いている。

周りをそのお付きが同行している。

前と同じように精巧な偽札を渡している。

お婆さんが孫の無事をお願いしながら家に入っていく。

 

そこに翔が中年の変装の上にマスクをして現れた。

「お前達、誰?何してるの?」

「てめえは誰だ」

「通りすがりのオレオレ詐欺撲滅運動中の人間だ」

「おめえ、どこの誰かしらねえが、いっぺん死ねや」

周りから5人ほどの男が集まり翔を取り囲んだ。

ボスらしき男は短刀を持ち出した。

こうなれば、手下は翔へ向かってこれない。

へたに向かって行くと自分も切られたり刺されたりするからだ。

その男は短刀を舐めて振り回しながらニタニタと笑っている。

相手は怖がって逃げていくと思っている。

翔は、すっと近寄っていく。

相手が驚いたように短刀を持ちなおし構えた瞬間、

短刀を持つ手を押さえたまま、回し蹴りが側頭部に決まった。

驚いた男たちは倒れた男を抱えて必死でお金を持って逃げて行った。

(つづく)

47.業界再編への動き、そして 

北海道から帰ってきて二人だけのおだやかで楽しい生活が始まった。

美波が小樽へ旅立ってからここ数か月、さざなみを閉めている。

慎一は夜だけでなく昼も家に帰って食べるようになり、

帰宅するといつも静香にずっといて欲しいと思うようになった。

ある日、慎一は

「もし良かったらこのまま店を閉めたらどうだろう。

 僕は静香ともっともっと二人きりの結婚生活を楽しみたいな」

「本当は私もそうなの。あなたと二人きりでいられたらって思っていたの」

「それなら良かった。ほんとのことをいうと心配だったんや」

「そうね、変なお客もいることは確かだから」

「静香、もっとそばにおいで」

「うん」

 

そんな平和な毎日の中で銀行業界は確実に変わり始めていた。

慎一の勤める銀行も噂段階の合併話がいよいよ本格化し始めた。

業務提携も含めて人間に異動まで俎上に上がってきているらしい。

最近、融資部から

『体調も良いみたいだし、そろそろ戻ってこないか?』との打診が始まっている。

合併と言っても中の人間にとっては所詮競争であって、

社内競争は旧社を交えて従来より厳しくなる。

 

美波は家庭教師のアルバイトとクラブの合宿などで夏休みは帰ってこなかった。

確かに往復運賃を考えるとそう簡単に行き帰りはできる金額ではなかった。

静香はすごく残念がったが、慎一がまた札幌に行こうよと言うと納得している。

夫婦はお盆休みに神戸の実家へ行き、両親と妹夫婦を有馬温泉へ招待した。

女性軍は女性軍だけで温泉めぐりを楽しんでいる。

男性軍は全員が早風呂なだけに時間を持て余して、

妹の子供の遼君と温泉街探検をして時間を潰した。

慎一は父親の顔つきがおだやかで楽しそうなのでほっとしていた。

 

大山が初冠雪し、その美しい姿を米子市民へ見せた日の夜、

夕食後ゆっくりとお茶を飲んでいると、静香が頬を赤くして

「ねえ、あなた、出来たわよ・・・」

「えっ?」

「赤ちゃん、それも双子だって」

「えっ?双子?そうなん?やったあ、ありがとう、静香」

慎一は大喜びで静香を抱き締めた。

「最近、来ないなあと思って、

 それに少し胸が張った感じもするのでお医者さんへ行ったの。

 そしたら、『ご懐妊おめでとうございます。双子ですよ』って言われちゃった。

 なんか恥ずかしいやら嬉しいやら・・・」

「ありがとう。大事にしてよ」

「はい、大切にします」

「でも悪阻とかで色々と大変なんやろ?心配や」

「私は悪阻とかそんなに重くないから安心して」

「なら、いいけど、重いもんとか絶対に持ったらあかんよ」

「はい、わかってます。これでも経験者だから」

「そうなんやろうけど、双子は初めてなんやから大事にしてよ、それだけ」

「はーい。わかりました。あなたはこの子たちの名前でも考えていてね」

「・・・この子たち・・・」

慎一はまだ見ぬわが子たちのいるであろう静香のお腹に

そっと手を当てると聞き耳を立てた。

「ふふふ、まだまだ聞こえませんよ。

 美波もあなたもほんとにせっかち親子ね」

「そうや、すごく嬉しい。でも静香が心配やから無理せんといてな」

「はーい、わかりました。

 生まれる前からこんなになっちゃって、生まれたら大変ね」

「そらそうやろ、静香の子供やから女の子ならきっと可愛いと思うなあ」

「まだどちらかわからないわよ。もしかしたら男の子と女の子かも」

「そうやな、元気だったら、それが一番」

「そうね、あなた、とうとう本当にお父さんね」

「うん、美波も可愛いし僕は幸せ者やなって、しみじみと思う」

「私も美波もこの子たちもあなたがお父さんできっと幸せよ」

 

そんなこんなでお正月は大事を取って米子でゆっくりと過ごし、

冬休みで帰ってきた美波も大喜びでずっとお腹を触っている。

夜、布団の中で静香が

「ねえ、あなた、私も年だから、あなたとの子供が早く欲しいと思っていたの

 本当に良かったと思ってるわ」

「年やなんて、全然やで、すごく可愛いし、まるで新妻みたいやで」

「ありがとう、でも新妻って言い過ぎよ。恥ずかしいわ。私が知らなかっただけ」

「困ってる?」

「ううん、すごく幸せ。あなたの胸って温かいから」

「僕はこんなに素敵でしっかりしてる静香と一緒で居ることが嬉しいんや。

 最高の奥さんやと思う。子供ができるできないは二の次やと思ってた」

「ありがとう、そんなにまで思ってくれて、でも赤ちゃんは欲しかったの」

「そうなんや、赤ちゃんができて良かったね。

 だけど僕には静香が一番、身体を大事にしてな」

「はい、大事にします」

静香のお腹が安定期に入った頃、慎一へ人事部から異動の辞令が出た。

やはり、静香の希望通りに合併後の新銀行の「札幌支店 融資部」、

肩書きも4月から課長代理(支店長代理)となっての栄転だった。

(終わり)

 

あとがき

拙い小説をお読み頂きありがとうございました。

これからも3人の物語はまだまだ続きます。

『さざなみにゆられて-北海道編-』をお楽しみに・・・

 

(引用情報:ネット)

この小説を書くにあたり活用した情報元は以下です。

鳥取県公式ホームページ、鳥取市公式ウェブサイト、米子市公式ホームページ、

倉吉市行政サイト、鳥取県観光案内、島根県観光ナビ、神社仏閣・観光地の公式サイト、その他、筆者が山陰地方に住んでいた時に知った情報も追加しました。

37.オレオレ詐欺団を壊滅せよ 3

弁護士役の男はアパートへと帰って行く。

部屋には彼女がいるらしく。愚痴を言っている。

「しょうがないじゃない、あなたが浮気したんだから」

「俺は、嵌められたの」

「はいはい、わかったわ、でもしたことは確かよね?」

「う、うん、そうだけど」

「だから慰謝料がいるのも仕方ないんじゃない?」

「そうなんだけど・・・」

「ああ、こんなバカな男と付き合うんじゃなかった。

 今、声がかかってるの」

「誰だ」

「さあ、あなたも知ってるわ。一緒に外国に行こうって」

「あいつだな、許さないぞ。なあ、俺を捨てないでくれよ」

「はあ、本当に情けない男。弁護士の癖にあんなヤクザを怖がって」

「こわいんだぞ。あいつらは、川口組はここら一帯を治めているんだぜ」

その道の人の正体がわかったので急いで調査に入った。

 

川口組は代々木で事務所を構えている。

正式な構成員数は約500名。若頭は鬼熊と鮫川、本部長は金賀。

資金源は、何か不明だが噂では覚醒剤や売春をしているとの情報がある。

木村という男がビルから出るのを待った。

その時、部屋の電気が消えて木村らしき男が出てきた。

大きなアタッシュケースを持って急いでいる。

翔はいつものように年寄の浮浪者の変装をして

ヨロヨロとふらつきぶつかりながらクモ助を背中に貼りつけた。

「馬鹿野郎、気をつけやがれ」と怒声を投げつけられた。

クモ助はいつものように襟の中に入り込み

『聞き耳タマゴ』を埋め込んだ。

木村がタクシーを待つ間に

クモ助は地上へと落ちて物陰で翔の回収を待っている。

 

木村がタクシーを拾った。どうやら川口組へ行くようだ。

翔はバイクで後を付けた。

川口組ビルの斜め前にある24時間喫茶に入り

『聞き耳タマゴ』からの情報を取る。

「おい、最近サボってねえか?こんなはした金じゃ、組長が喜ばねえよ」

「結構がんばっているんです。またがんばりますから」

「がんばるのは皆がんばってるんだよなあ。結果がどうかが大事なのさ」

「はい、金我さん、わかりました。皆にもっと気合いを入れさせます」

「最近、弟がサツに捕まって、稼ぎが減って組長の機嫌が悪いのさ」

「そうでしたね。確か来光(らいこう)財団で経理されてましたよね」

「そうさ、噂では若い探偵が警察の犬になって教団を壊滅させたらしい」

「どこの探偵ですか?」

「さあ、それがわからない。東京のどこかにいるんだろうなあ」

「そいつを見つけたらどうします?」

「もちろん、殺すさ」

「それとうちの覚醒剤ルートを潰したのもそいつらしいという噂だ」

「じゃあ、組長と兄弟分の趙さんを捕まえたのも」

「そうさ」

「じゃあ、資金源は・・・」

「そう、だから組長はおかんむりなのさ。困ってる。

 俺が株と為替で不足分はなんとかしのいでいるが

 いつまでもまぐれは続かない」

「そうですか、わかりました。もっとうちの若いのに発破かけさせます」

「頼むぞ、期待してる」

(つづく)

46.新婚旅行、娘と、2

翌日、小樽観光を満喫した。

小樽運河クルーズ」や「北一硝子」などを回り

休憩では「ルタオ本店」を目指した。

有名なこの店の人気商品『ドゥーブルフロマージュ』を食べるためだった。

慎一はコーヒー、静香と美波は紅茶を頼み、ケーキセットを頼んだ。

美波は『奇跡の口どけセット

(生ドゥーブルフロマージュと生ヴェネチア・ランデヴーのセット)』

静香は『ショコラドゥーブル』を頼んだ。

 

・生ドゥーブルフロマージュ

噂通りの美味しさで女子二人は

『美味しいわ、これは太るわ、でもやめられない』と大騒ぎだった。

ふんわり雪のようにとろけるレアチーズケーキ、

しっとり濃厚なベイクドチーズケーキの2層仕立てで

口の中では2層が溶け合い、ふわふわっトロトロの食感が広がった。

・パフェ ドゥ フロマージュ

クリームチーズとカマンベールチーズ、マスカルポーネチーズの3種を

低温のスチームオーブンでじっくりと蒸し焼きにしたもので

見事に3種のチーズが一つになっている。

これも女子二人は『これも好き』などと大騒ぎ。

・ショコラドゥーブル

ドゥーブルフロマージュクーベルチュールチョコを加えたものらしく、

カカオのまろやかなほろ苦さと、チーズの酸味が調和していた。

下層はクリームチーズとスイートチョコを使って焼き上げたベイクドタイプ。

上層はマスカルポーネチーズと北海道産の生クリームを使った

レアタイプの2層仕立てで

これも女子二人はきゃあきゃあ言いながら食べている。

結局、最初から最後まで騒ぎ通しでよく疲れないものだと感心しながら、

本当にうらやましいくらい仲の良い親子だなと感じた。

 

もう夕方が近づいて来ている。

今晩は札幌市内のホテルで泊まり明日に米子へ帰る予定だった。

静香は離れがたいのか美波に札幌にも泊まりにこないかと誘っている。

美波は『新婚旅行なのだから二人で楽しみなさい』と答えている。

『それにこれから毎年北海道に来るつもりなんでしょ?』とも答えている。

どちらが年上かわからないくらいだった。

子供とはほんの少し離れただけで

こんなに大人になるスピードが速いのかと驚きもした。

 

静香が少し席を外している間に、美波が

「お父さん、お母さんすごく綺麗になってて驚いた。

 あんなに笑うお母さんは初めて、きっと今がすごく幸せなんだなって思った。

 お願いがあるの、絶対にずっとお母さんのそばにいてあげてね。

 美波もお父さんみたいに優しい人を探すからね。

 ・・・それと早く妹が欲しいなあ」

そこに静香が帰ってきた。

「美波、本当に帰っていいの?ねえ、あなた」

「お母さん、いいの、お父さんとお母さんは今夜こそ札幌でゆっくりとしてね」

「そう?そうなのね。わかったわ。でも休みになったらいつでもかえってきなさいよ。

 美波の部屋はそのままでマンションに置いているから」

「はーい、ありがとうね。では美波はここで、友達が向こうで待ってるの、じゃあね」

「気をつけてね、美波」

美波が足早に店を出て行く。

少し目が赤いところを見ると泣くのを見られたくなかったようだ。

静香はもう涙してる。

「静香、あの子ももう大人やから、今度は我々が子離れせんといかんのだろうな」

「そうですねえ。でもあの子、元気そうで安心しました」

「そうそう、もしかしたら札幌に転勤あるかもよ」

「そうなの?」

「そう、今、札幌の銀行と提携を進めていて、

 来年春には新たに支店を立ち上げるって。

 日本のどこかから社員が集められるらしいよ」

「じゃあ、来ることになるかもしれないわねえ」

「またまた、子離れ・・・っていったのに」

「ごめんなさい、そうだったわ。

 もしそうならいいなと思ったの。

 札幌に来てあの子の言ってたことがわかったの。

 確かに住んでみないことにはわからないけど、第一印象として札幌は最高ね」

「そうやね、こっちには同期もいるし知り合いもいるし」

「わたし、なにか美波がうらやましくなってきちゃった」

「心配したり、うらやましがったり忙しいねえ、まあ仕方ないけど」

「そういえばそうね。これも神様任せにします」

「そうそう、神様に任せるのが一番」

「きっと、いい方向に行くわ。うん、そう決めた」

「そうそう、美波が妹はまだかって言ってたよ」

「えっ?もう?美波ったら・・・気が早いんだから・・・」

耳まで真っ赤になった静香がうつむいている。

(つづく)

36.オレオレ詐欺団を壊滅せよ 2

聞き耳タマゴからは事務所内の声が聞こえてくる。

「お疲れ様、佐藤、今日の金をここに出せ」

「はい、木村さん、今日は300万です」

「婆さん、どうだった?もう1回くらい引っ張れそうか?」

「はい、そうですね。まだまだ大丈夫でしょう。大きな屋敷だし」

「そうか、今度はその道の人の声で脅せば1000万くらいは大丈夫かもね」

「どうやら、婆さんは1人で住んでるみたいだし、

 土地も家も根こそぎ取れるかもしれませんよ」

「それはいい話だ。婆さんもあと少しの寿命だろうし、

 お金は我々が有意義に使ってやろうぜ」

「そうですね。それがお金を貯めた婆さんへの孝行ですね」

「おう、まだまだがんばれよ。

 おめえの借金はこんなものでは足りねえぜ」

典型的な『オレオレ詐欺』だった。

 

部屋の中からは、多くの若者の電話の声が響いてくる。

毎日のようにお年寄りが餌食になっていることがわかった。

確かに婆さんのようにお金がある人間の考え方で

『ほんの少しのお金で片がつくなら安いもの』

という意識が詐欺の温床となっている。

孫可愛さに孫の言う事を聞く事で

『年寄りの寂しさを紛らわせている』のかもしれない。

これは今の世の悲しき一面を現わす犯罪でもあった。

夜8時になるとグループ員は

『お疲れ様です。ではまた明日』と帰っている。

ボスらしき男木村と弁護士と名乗った男佐藤はまだ残っている。

 

「お前が本当に弁護士だから相手も騙される。

 お前を引っ張って良かったぜ」

「まあ本名は出さないからいいけど、

 ある程度集金したら開放してくださいよ」

「お前さ、誰の女に手を出したかわかってるのか?」

「わかっています。ただあれはあの女が勝手に来ただけで・・・」

「そんなことをあの人が信じればいいけどね。

 すごく愛しているぜ、あの女を」

「あんなスベタをねえ。自分からホテルへ引っ張っていって、

 自分で俺の上に乗って腰を振ってきて、

 レイプされたの・・・だってありえないでしょう!」

「でも、嬉しそうに下から腰を突き上げてたのもお前だよね」

「まあ、確かに」

「あの人達は、自分の面子を大事にするから、女を悪くできないだろ?

 お前はあの女の趣味にあったから運が悪かったのさ。

 でも気持ち良かっただろ?あの女は具合が良いって評判だぜ」

「それはすごく良かったけど・・・」

「なら我慢するこった。

 それにお前は自分のお金を出しているわけじゃないから」

「そうだな、しかし馬鹿な年寄りが多いよなあ。

 どんだけ金持ってんだか」

「そうそう、死んでもあの世にお金は持っていけないのになあ。

 まあ、われわれにはありがたいこった」

「それとここにいる若い奴も馬鹿だよなあ。

 警察にばれれば俺達は高飛びするから

 あいつらが捕まることになるのになあ」

「しょせん、勉強もしていない馬鹿は仕方ない。無知は罪なのさ」

「あんたもひでえなあ。

 まあお互いこのハリウッド並みの仮面をかぶっているから

 脱いで逃げれば誰もわからないだろうけどねえ」

「しっ、それは黙っておきな。

 お互い顔を知らない同士だからうまく行くのさ」

「しかし、僕は奴らに顔がばれてるから逃げられないよなあ」

「いつか顔を変えればいいさ。どうせ弁護士なんざ儲からないんだろ?」

「そうなんだ、あんなに必死で勉強して

 こんな生活なんて想像もできなかったよ」

「俺も奴らには顔を押さえられてるから同じだぜ」

「まあ、お互い早く足を洗えるように年寄りを騙そうよ。

 じゃあまた明日」

(つづく)

45.新婚旅行、娘と、1

新婚旅行は美波もいる北海道と決めて6月に出発した。

北海道は梅雨のないカラリとした気候で、

確かに冬は寒いかもしれないが

その過ごしやすさに夫婦は大変気に入った。

そして今後、定期的に娘と会いがてら観光に来ようと決めたのだった。

千歳空港からはレンタカーを運転しても良かったが、

今回は電車で小樽へいくこととした。

小樽駅では慎一が贈ったバッグを肩にかけた

少し大人びた美波が待っていた。

ほんの1か月前に会ったばかりなのに、

娘の顔を見ると静香はまた涙している。

 

今晩は「ホテルノルド小樽」の和洋室に3人で予約を取っている。

このホテルの外観は大理石で出来ており、

小樽の石造りの街並みに溶け込んでいる。

1階は木を基調にした暖かくそして優しさ内装で、

大理石に囲まれた空間に噴水と花が飾られている。

部屋の窓からは、歴史的にも有名な小樽運河と倉庫群、

そして日本海を望む小樽湾が広がっている。

慎一と静香は親子3人でゆっくりとホテルライフを楽しもうと考えている。

美波はすでに地元の人間になっているが

それほど小樽の街を知っている訳ではないので喜んでいる。

 

先ずは大学と美波の女子学生専用のマンションへ

行って見ようということになりタクシーに乗って大学まで直行した。

小高い山の上に小樽商科大学はあった。

運河と同じレンガ色の校門が3人を迎えた。

単科大学なのでこじんまりとしているが

日本でも有数の古い歴史を誇るプライドが現れているように見えた。

慎一は大学時代のことを思い出し、娘の青春が始まったことを感じた。

大学を色々と散策し、正門を出て坂道を下りていくと

マンションは垢抜けした感じで小樽の街並みに溶け込んでいた。

冬にはこの坂道は雪の壁が出来るくらい降り積もるらしい。

美波が入試の時、

積もった雪が舞い上がり吹雪になって目の前が真っ白になって、

ついつい足元から注意を逸らしてしまい坂道で滑って転んだ話をした。

一瞬、縁起が悪いと思ったが無事合格してほっとしたと笑っている。

 

3人は小樽の街並み観光を人力車に乗って楽しんだ。

夕陽に染まる運河が美しかった。

ホテルで親子3人水入らずで部屋食をゆっくりと食べた。

北海道は食材王国で海の物、山の物全てが美味しかった。

「刺身(スルメイカ、ウニ、甘エビ、ボタンエビ、ヒラメ、サーモン)」

「シャコエビ、ミズタコ酢の物

「蟹三昧(ケガニ、タラバガニ、ズワイガニの蒸物)」

「白老牛のステーキ」

「鮭とキノコのホイル焼き」などテーブル一杯に広げられている。

慎一は、北海道限定の

サッポロビールクラシック』の生ビールを頼んだ。

このビールはコクがあるのに

スッキリとした飲み心地でいくらでも飲めた。

静香は飲み過ぎないようにと慎一のビールを少しだけ貰って飲んでいる。

でもついつい半分くらい一気に飲んでしまい、

それを見て美波が大笑いしている。

静香は真っ赤になって恥ずかしがった。

 

美波と静香は仲良く二人でかけ流しの温泉のある大浴場へ行った。

慎一もゆっくりと大浴場に入り、

広い窓からイカ釣り船らしき灯りを映す日本海を見ていた。

日本海には色々な顔があることを知った。

今日の日本海は優しく静香、美波親子を見守っている。

(つづく)

35.オレオレ詐欺団を壊滅せよ1

朝早く事務所の電話が鳴った。

翔が急いで出るといつものお婆さんからだった。

事務所へ直接出向いて話を聞いてもらいたいとの依頼だった。

お婆さんの家は大きな屋敷だが、翔と話をするのが楽しみみたいで

いつも電気修理や棚の取り付けなど他愛もない用事で電話があるので驚いた。

少しするとインターフォンが鳴った。

百合がお茶を出すと、お婆さんは首を傾げながら話し始めた。

 

昨夜、田舎に住む孫から電話が掛かってきて、

『事故に遭って示談をしたいのでお金を貸してくれ』と言ってきている。

『実の親には怒られるので怖いから言えない

 相手がその道の人で家族に迷惑をかけるのが怖い

 このままでは俺自身がどうなるかわからない』と不安を伝えてきている。

警察へ言うように言ったが、『警察は民事には介入しないので無理』との返事。

弁護士だと名乗る男が電話口に出て、

「お孫さんのためにも用意して欲しい。

 警察は何か事件が起こってからでないと動けないし、

 お孫さんや家族に何かあってからでは遅いのでお願いしたい。

 300万円あればその道の人を何とか説得することができる』と言われている。

「夜なのでお金は用意できないから明日朝でいいか」と聞くと、

「朝10時に自宅に伺うので銀行で9時にお金を下ろして用意して欲しい」

と言われたらしい。

 

地元は仙台でそこから来るには何かおかしいと感じていた。

これがもし本当の話だったら300万円くらいは安い物だし、

家に連絡したいが孫のたってのお願いなので確認出来ないし

今はやりの詐欺だったら困ると思っているところ

ふと私立探偵だった翔のことが浮かんだとの事だった。

 

【依頼内容】

依頼人氏名:黒鳥麗子様、年齢(非公表、70歳くらい?)

依頼人状況:無職

種類:オレオレ詐欺

経過:孫からの電話があり、その筋の人の車と事故となり示談金を貸して欲しい。

   両親には怒られるから嫌なので婆ちゃんしか頼れないと言われている。

   ただ不審なことも多いので至急調査して欲しい。

調査方針:先ず、偽札を渡して相手の場所を調査開始。

詐欺か詐欺でないかを判断し、もし詐欺ならば警察へ通報する。

 

翔は、一万円札の精巧なコピーで作った札束を3つ用意した。

そして、お婆さんの家の玄関の屋根にクモ助を配置し時間を待った。

時間が来て、玄関へ弁護士らしきスーツを着た男が来た。

インターフォンを鳴らしている間にクモ助を降下させて背中に張り付かせて

いつものように『聞き耳タマゴ』を埋め込んだ。

お婆さんは翔の用意したお金を渡している。

その男は、封筒を開けて中身を見て鞄へ入れて立ち去った。

 

そこからはバイクで追跡していく。

男は電車に乗って代々木駅で下りた。

ゴーグル部分へ都内地図とタマゴの発信箇所が点滅して映っている。

代々木の古いビルへ入っていく。

翔は向かいのビルにあるファストフード店に入り、

2階席の窓際で詐欺グループ事務所の情報収集に入った。

(つづく)

44.相性

二人は早々にマンションを借りて引っ越した。

今度のマンションも家具付きの部屋なので箪笥などは少なくて済んだ。

最上階3LDKで大山が綺麗に見える部屋だった。

4月になり慎一はまたもや多忙な日々が続くが、

家へ帰るのが楽しみだった。

 

仕事を終えて帰ると

「あなた、おかえりなさい。お風呂湧いてますからどうぞ」

「今日はお酒にします?ビールにします?はい、一日お疲れ様でした」

「あなた、今日はこんなことがあったんですよ」

「美波がこんなことをいってきましたよ」

慎一には本当に信じられないほど楽しい日々だった。

 

仕事を残して部屋で残業している時、

ソファでの読書やテレビを見ている時は、そっとお茶を出してくれる。

静香自身も本を読んだりテレビを見てゆったりとしている。

何も話さなくてもお互いがお互いを認識できる気配がある。

それにお互い一人の時間があるので、

長い間独身だった慎一には過ごしやすかった。

 

『夫婦は長い時間、

 一緒にいると自然とタイミングや間が似てくるもので、

 二人でしかわからない時間感覚を持つようになる』

と聞いたことがある。

慎一と静香は初めて一緒に暮らしているにも関わらず

二人には自然な時間が流れている。

 

静香が昼間1人でいるとき、ふと彼とのことを思い出すことがある。

そんな時は頬が熱くなるのがわかった。

今まで夫しか知らない静香、

そして15年も前から経験のない静香にとっては、

若い時は夫にすべてをゆだねていただけの経験しかなかった。

しかし、今の年齢となって

どのように彼に抱かれていいのかがわからなかった。

 

彼の布団に誘われた時はとても勇気がいった。

何も知らないと女だと嫌われたらどうしよう・・・

本当に私のことを気に入ってくれるかな・・・

そんな不安を彼の優しさが溶かしていってくれた。

彼のリードで知らない間にすべてをさらけ出している静香がいた。

 

彼を初めて受け入れた時

やはり最初は少し痛かったが、すぐに彼で一杯になった。

私の痛みを察してくれた彼が優しく待ってくれていたのでうれしかった。

この人を好きになって良かったと心から感じた一瞬だった。

そのうち身体の奥から生まれてくる大きな波にさらわれ、

いつしか目の前が真っ白になり彼に必死でしがみついていた。

やがて身体の奥が彼の熱さで一杯になった。

しばらくするとその大きな波がさざなみとなりおだやかになった。

こんなことは静香にとっては初めての経験だった。

今までこんなに満ち足りたことはなかった。

 

もちろんその夜だけでなく、その後何度も彼に導かれ、

少しずつ敏感になり、

より深い喜びを感じるようになった自分に気づいた。

どんどん変わっていく私を彼は優しく見守ってくれている。

これが『身体の相性』なのだろうと思った。

普段の二人だけの何気ない会話や触れ合いに

『心の相性』の良さを感じた。

心身共に『相性』が合うということがこういうこと、

結婚生活っておだやかでこんなにすばらしいものだったと

初めてわかった静香だった。

二人は5月の連休に勝田神社で

身内だけの神前結婚を行い正式な夫婦となった。

その翌日にお礼のため出雲大社へ参拝した。

(つづく)

34.桐生事務所ビル改築

ある日、ビル所有者の葉山不動産からビルを改築・改装する連絡がきた。

もちろん探偵事務所は開いたままでいいと言われており突貫工事で一気にするらしい。

百合から聞かされた話によると、

現在の百合のマンションの部屋は

このビルの最上階へ引っ越すことになるとのことだった。

翔にすれば、完成後は行き帰りの時間は短縮されるし

百合も守れるので一挙両得だった。

事務所にはいつもアスカさんがいるので心配はしていないが

想定外のことで何があるかわからないからだ。

 

改装改築の作業員全員が

館林一族の関係者で占められており秘密は保たれている。

ビルの玄関以外は屋上も含めて厚い覆いで固められており、

数名の警備員も常駐し24時間体制で工事が行われている。

ビルの正面玄関は厚い強化ガラスのドアで外界から仕切られ、

エントランスルームの壁や装飾品には

見た目からはわからないが

監視・撃退など色々な装置が埋め込まれている。

壁は厚い鉄板と強化セメントで固められ、

透視不可能な素材が使われている。

全ての窓ガラスは銃弾を通過させない強化ガラスに替えられた。

1階は不動産会社が入り、

2階は探偵事務所、3階は貸し倉庫、4階が自室だった。

事務所奥のトレーニングルームと武器庫はそのままだが、

事務所内の隠し扉から4階自室へ直行できるようになっている。

部屋は現在の百合の部屋そのままが移動されている。

地下の駐車場への外部からの通路は埋められ、

車、バイクは1階の奥に格納された。

地下道への通路も整備されており、屋上もヘリポートができた。

施設全てがRyokoのコントロール下にあった。

翔に改装改築の理由はわからないが、何かが動き出していた。

(つづく)

43.最初の夜

お風呂からでてスキンケアをした静香が和室に入ってきた。

慎一は部屋を暗くして布団を持ち上げて誘った。

彼女が布団へそっと入ってくる。

慎一が抱きしめると

慎一の胸の中で胸の前で両手を組み合わせ身体を固くしている。

「静香、怖くないよ、僕にまかせておけばいいよ」

『コクリ』とうなずき身を寄せてくる

「最初はこんな風に抱いて眠るだけでもいいよ」

『イヤイヤ』と顔を横に振っている。

慎一は最初優しく、次に強い口づけをした。

彼女からも応えるかのように口づけを返してくる。

慎一の背中に回された彼女の手が強く抱きしめてくる。

まだ身体からは弱い震えが伝わってくる。

 

カーテンの隙間から差し込む弱い光が壁に当たり、

それに反射し照らされた顔は上気している。

いい香りのする髪へ口づけをして耳元から襟足へ唇を移していく。

『ピクリ』と反応する。

身体から細かい震えは消えて、その反応が増えてきている。

慎一は焦らないで宝物を扱うように優しくそっと愛していった。

彼女の身体から余計な力が抜けてきている。

耳元でささやいた。

「静香、可愛い、愛してる」

『ピクリ』と反応し、

その言葉に応えるかのように抱きしめる力が強くなる。

 

彼女へ長い間経験したことのなかった感覚が訪れていることはわかった。

慎一はその長い時間を埋めるかのように優しくゆっくりと愛していった。

彼女の呼吸が少し荒くなってきている。

静香の抱きしめる力が弱くなり、手足から力が抜けてきている。

そっと背中から胸に手を回す。

一瞬、胸を隠そうと

手を持ってきそうになったがその手に力は入っていない。

パジャマのボタンをそっとはずしていく。

手の平にあまるくらいのしっとりとした乳房が揺れている。

そっと唇を近づけていく。

小さな乳首を含むと小さな声で『あっ』と震えた。

 

慎一が優しくパジャマを脱がしながら、

そのか細い背中や肩、首筋へ口づけをしていく。

唇が触れるたびに身体が反応していく。

パジャマが脱がされると彼女の顔を慎一の方へ向かせる。

ふたたび胸へ優しく口付けしていく。

慎一の手が胸から下へと移っていく。

彼女の手が慎一の手をそっと掴んだ。

「怖がらなくてもいいよ。すごく綺麗」

「でも、恥ずかしい・・・」

「大丈夫、僕に任せて、力を抜いてごらん」

『コクリ』と彼女がうなずいた。

 

彼女の身体から完全に力が抜けて慎一にすべてを委ねている。

自然と開かれた両足は慎一の手の動きに合わせて揺れている。

やがて二人は一つになった。

慎一を初めて受け入れた彼女から小さな声が漏れてくる。

ほんの少し抵抗があり、身体に少し力が入ったようなので気になった。

痛みのためなのか、気持ちの高ぶりのためなのかはわからなかった。

そのどちらとも思える。

少し寄せた眉、

閉じられた瞼の涙の跡に気がついた。

慎一はそっと口づけでその涙を拭きとった。

そのまま動かずにじっとして抱きしめていた。

やがて彼女から徐々に力が抜けてきて、慎一へ口づけをしてくる。

慎一はほっとしてゆっくりと動かし始めた。

そこからはとぎれることのない二人の時間だけが流れた。

 

優しく激しい愛の行為のあと

二人は額をつけたままじっとして口づけをして見つめ合った。

「静香、すごく好き、いつまでもこうしていたい」

「あなた、わたしも・・・あなたと一緒になれて本当に良かった」

「それは僕も一緒や、ずっとずっと二人で一緒にね」

「うん、ずっとずっと、約束よ」

「うん」

(つづく)